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6.初陣




 山札からカードが一枚引かれ、ビャッコの場にはセットアップ時に引いた七枚と合わせて八枚のカードが並んでいる。

 マニュアルによると手札として所持できる最大枚数は十枚となっているため、現状最大であと二枚引く事が可能だ。


 しかし山札からドロー(カードを引く事)するためには、黄色いゲージが満タン状態になった事を示すオレンジに変化していなければならない。

 ゆえにカードを引いたばかりの現在、ゲージがたまるまでは目の前に並ぶ八枚で戦略を立てる必要がある。全てのカードは基本的に使い捨てのため、山札の中身を考慮しつつ攻めるか温存するかを見極める事が肝要だった。


「ひとまずはこいつからだな」


 ビャッコはすっと手を伸ばし、八枚の手札の中から『剣(スパーダ)』という名称の『兵装カード』を選択し、


「ウザーレ!」


 マニュアル通りに使用を宣言する。


 すると、選択されたカードがふわりと浮かび上がり、ぱっと発光した後で崩れ去るように光の粒子となって消滅した。

 同時に自機情報に変化が生じ、たった今使用した『剣』が機神に装備された旨を示す説明書きが表示される。

 合わせてビャッコが機神の右手を確認すると、そこには無骨ながら頑丈そうな一振りの両刃剣が握られていた。操奏機神の大きさを考えると、この剣もまた相当に巨大なものである。


「来た!」

「おう!」


 殴り飛ばされた後しばし出方をうかがうようにじっとしていた敵機だが、ビャッコが武器を出した事が刺激にでもなったのか、再び走って近づいてきた。


 当然ビャッコはそれに対して剣を構えて迎撃の準備に入り、攻撃に合わせてカウンター気味に斬撃を見舞う。

 相手の動きは無手でぶっ飛ばした時よりも機敏になっていたが、リーチに勝る剣の攻撃は相手の間合いの外からその胸部に剣閃を走らせた。


 金属のが擦られる嫌な音を響かせ、攻撃を受けた事による衝撃で体勢を崩した敵機は、突進の勢いそのままにビャッコの駆る機体の横を通り過ぎて再び地面を這いつくばる。

 それはおよそ人が動かしているようにも、ましてチュートリアルで動かされているようにも見えない。彼我の戦力差をまるで見極めていない、ただ猪突猛進な戦い方であった。


「ずっとこの調子ならこれだけでも勝てそうなものなんだが――」


 三度起き上ってくる敵機を画面内に捉えて観察すると、相手は唐突に天に向かって腕を伸ばした。そうしてその手に黒い靄が集まったかと思えば、


「――それは出来ない相談だよな」


 黒い靄が急速に何かの形を作っていき、見る見るうちに敵機の手には黒い靄で出来た剣が出現する。


「わっ! 向こうもなんか出してきた」


 大画面を凝視していたホウカが振り返ってくるが、ビャッコはあくまで相手の様子と自分の手札に意識を集中させていた。


 靄の濃くなった敵機は先ほどまでとは異なり、黒い剣を構えたままじりじりと間合いを詰めて来る。

 その明らかな攻め方の変化を見て、ビャッコは内心で舌打ちをした。


「学習能力高過ぎるだろう……」


 彼は相手が猪突猛進の戦い方を二回連続で迎撃された事で行動パターンを変化させたのだろうと読んだ。思い返してみれば、二度目の突撃の時も一度目よりも動きが機敏になっていたように思う。


「こいつ、戦えば戦うほどに強くなるかもしれないな」


 それは、かなりぞっとしない話である。


 なにぶん、彼我の残存ライフポイントの差が激しい。

 先の斬撃による与ダメージ量から考えて、敵機の攻撃力も同程度まで上がっていると仮定すると、現状のままでは単純計算で四回攻撃を受けたらライフがゼロになってしまうだろう。

 対してビャッコ側は少なくともあと七回強はダメージを与えなくては敵機を撃破出来ない。その間に相手を現在のビャッコで対処出来ないほどに強くしてしまったら、その時点でも敗北が決定してしまうのだ。


 確実にライフを削り取る戦い方をしなければ、ジリ貧は必至の展開だった。そしてそのためには速攻で決めにかかりたいというのが本音なのだが、このゲームの性質上スターターデッキのままではまず速攻戦など展開出来ない。


 その理由は、このゲームのカードプレイングに関わる三種類のゲージのせいだ。山札を引くために必要な黄色の『ドローゲージ』。そしてプレイングデスク左上に表示された緑の『行動ゲージ』と青の『魂奏(こんそう)ゲージ』である。


 ドローゲージは一定時間立たなければ手札を補充出来ないという制約により使える手立てを限定させるが、行動ゲージと魂奏ゲージはカードを使用する際に消費する対価という制約によってプレイヤーの行動を縛っている。


 現在、ビャッコのゲージは緑が五で青が六となっていた。兵装カード『剣』を使用する前の緑ゲージは七だったのだが、『剣』のコストとして行動コストを二消費したために五に減っているのだ。

 つまりは、当然使用コストに見合うだけのゲージがなければ手札を使用する事が出来ないという事になる。カードがあればあっただけ使う事が出来るわけではないため、いかに手札がそろっていようとも速攻を仕掛けるのはかなり難しい話になってしまうのだ。


 事前確認の段階では三枚一種のドローカードと計六枚二種のゲージブーストカードが混じっていたはずだが、現状の手札には一枚もない。せめて回復系の支援カードが来ていればよかったのだが、これもまた一枚も手札には来ていなかった。


「さあどうするよ……」


 劣勢な状況にありながら、ビャッコは自分が高揚しているのを感じた。それは初めてカードゲームに興じた時の感覚に似ている。勝つための試行錯誤。手探りの戦い。久しくそんな感覚を忘れていた。


 このゲームシステムにおいて、現状の手札で出来うる最善手と最悪手。最善手はまだしも、ビャッコは最悪手に関してはすでに答えを出している。

 その最悪手とは、他のゲームで俗に言う魔法攻撃に該当する『奏術カード』の使用だ。


 先の一回で兵装カードの真似事をされてしまった以上、この奏術カードで攻撃を仕掛ければそれもコピーされる危険性が高い。しかも最悪相手はゲージの概念に縛られずに攻撃をしてくるだろう。


 ビャッコはこのゲームにおけるゲージの重要性をマニュアルを読んだ時点で把握していた。

 極論を言えば一切のカードプレイングなしでガチバトルする事も可能なのだろうが、攻撃の威力や有用性だけとってみてもカードプレイングをした方が断然強い。ゆえにカードを使用するために必要なゲージの管理がこのゲームにおける肝だ。


 通常状態での各ゲージのたまる速度はおおよそ把握した。それを基準にどのタイミングでどのカードを使用するか決め、定期的に訪れるドローで遅滞なく手札を補充しつつ、補充された手札を加えた戦略にその都度修正していく必要がある。


「……ひとまずはここで一枚引いて、何が来るかで次のドローまで待つかどうかってところだな」


 ドローゲージがそろそろ一杯になる。満ちたゲージが黄色から鮮やかなオレンジへと変化し、


「ドロー!」


 ビャッコが宣言すると同時に、じりじりと間合いを詰めて来ていた敵機が踏込から一気に残りを詰めてきた。


「ちっ!」


 防ぐか避けるかの行動選択を迫られ、ビャッコは瞬時に防ぐ事を選択した。決して避けられなくはない攻撃ではあるが、万が一を考えた事と本当に防げるのかどうかを確認する意味での選択でもあった。


 上段から振り下ろされる黒剣を、鈍色の剣で受け止める。激突の瞬間、それだけで人間が焼死出来そうなほど盛大な火花が散り、金属同士のかち合う甲高い音が天を貫いた。


「きゃっ!」

「っと……」


 コックピット内はやや揺れるにとどまったが、その揺れの方向からして自機の足元の地面がやや陥没したものと思われた。どれだけの重量が襲い掛かったのかは不明だが、まともに喰えばただでは済まないだろう。その威力は明らかにビャッコの攻撃を上回っている。


 鍔迫り合いを演じるビャッコの機体と敵機だが、相手は上から圧を加える優位性を生かしてか、やや強引に押し込もうとして来ていた。

 防ぐビャッコの機体も何とかそれに抗おうとするが、徐々に受ける剣の位置が下がり始めている。このままではいずれ自分の刃ごと相手に切り裂かれてしまう勢いだ。


「てめこの……調子に乗るなよ!」


 思考操作で抗いながら、ビャッコは記憶している場所にあるカードに手を添える。選んだカードは、幅広く様々な効果をもたらす『支援カード』。それの『機神強化』だ。


「ウザーレ!」


 使用の宣言と同時にカードが光の粒子となって消失し、直後に今まで押されていた相手の攻撃をビャッコの機神が押し返し始めた。

 ある程度押し返したところで、彼は剣と剣の接点を支点にして円を描くように自機を相手の左側面へ滑り込ませ、いなされた事でバランスを崩した敵機の横合いから大上段に構えた剣を斜めに切り下す。


 剣閃が敵機の左肩から腕にかけて走り抜け、重厚な装甲に包まれた左腕が切断されて宙を舞った。しかし相手はそれをものともせずに向き直り様に剣を振るってきたが、その時にはもうビャッコは後方へ逃れている。


 追撃のチャンスではあったが、ただでさえ残りライフが少ないというにノーガードの打ち合いのような無茶は出来ない。当然にして御免被るというものだ。


「……すごい。あなたなんなの? これ初めてやるゲームじゃないの?」


 再び振り返ってきたホウカが目を真ん丸にして驚きの言葉を口にしている。


「別にすごかない。俺は物事を複数別々に並列で考える事が出来るからな。ブレイントレースモードで機体の操作とカードプレイングを同時に出来るなら、これくらいは出来て当然だ」


 記憶力とは異なる、虎之助のもう一つの能力。それが並列思考能力だ。

 彼は戦闘開始の段階から常に頭の中で機体操作とカードプレイングを並行で行っており、ゆえに行動に合わせて的確にカードを使用する事が出来るのだ。


「ふーん? ところで、今のはなんで攻撃を押し返せたの? 途中まで普通に負けてたと思うけど」

「支援カードで一時的に機体性能を上げただけだ。効果時間中は攻撃力とかも上がるから、今の一撃は結構美味しかったな」


 自機のライフポイントに変動はないが、敵機のライフポイントは今の一撃でそこそこに削る事が出来た。コスト一のカードにしては十二分な働きである。

 加えて、相手の左腕を損傷させた事が大きい。これで相手の攻撃範囲が狭まり、安全圏が増えるからだ。


「ひとまずは順調だな。この調子でぱっぱと行ければ――っ! もう来るか!」


 あまりインターバルを挟まず、左腕を失った敵機が攻撃を仕掛けてくる。今度は明らかな刺突の構えだった。左腕を失ったためにまた攻撃方法を変えたのだろう。

 線の攻撃である斬撃と異なり、点攻撃である刺突は剣で防ぐ事が難しい。理想形は相手の剣の内側に自分の剣をねじ込ませて防ぎつつ自分の間合いに飛び込ませる事だが、相手の攻撃が早いためになかなかに厳しい話だ。


 そのため、ビャッコは防御ではなく回避を選択した。点攻撃の刺突は確かに防ぎ辛いが、逆に避ける事はさほど難しくない。視認出来ない銃撃であればともかく、いくら相手が早いとは言ってもこの攻撃をとっさに避けられないほどに鈍いつもりもなかった。


 機体を思考操作し、ビャッコは繰り出される限界まで腕を伸ばした刺突を横に回避して――機体の腹部に斬閃を刻まれる。


「なっ!?」

「えっ!?」


 金属が削られる残響と衝撃がコックピット内を襲い、ビャッコはデスクに手をついて衝撃に耐えた。ほんの一瞬だけ呆然とし、しかしすぐさま我に返って自機の状態を確かめる。ライフポイントがごっそり削られ、残っていた内の半分近くを持って行かれてしまっていた。


「なん……だと……」


 確かに相手の攻撃はかわしたはずだった。直線の攻撃を引き付けてから直角方向へかわしたのだから、攻撃をもらう道理がない。よしんば足で蹴られたのであればまだしも、今の一撃は確実に斬撃だ。


「どうな――」

「まだ来るよ!」

「っ! ちいっ!」


 ホウカの悲鳴で敵機の追撃に気が付いたビャッコは、とっさのイメージで右手の剣を投擲。空中を飛ぶ剣は狙い通り接近してきていた敵機の胸元に突き刺さってわずかだが相手の突進の勢いを鈍らせる。

 その隙にビャッコは片手で強引に振られてくる袈裟懸けの斬撃をすんでのところで回避。装甲の表面を掠った剣先から火花散らせるにとどめ、そのまま大きく後退して相手との距離を取る。


「くそっ! 何が起こった!」


 ビャッコは思わずデスクに拳を叩きつけた。絶対に避けられると踏んで次の一手の準備でカードを意識しつつ回避行動をイメージしていたため、彼は不意打ちの瞬間をしっかりと見れていない。そのせいで記憶を掘り返しても相手が何をしてきたのかが分からないのだ。

 それでも何かヒントはないかと再度記憶を探ろうとして、


「わたし見たよ。あいつの伸びた腕がそのまま横に開いて斬りつけてきた」

「っ!」


 ビャッコはホウカの言葉に息を飲んだ。


「……嘘、だろ? あの勢いでそんな事やったら腕が――」


 驚愕の表情を浮かべて画面の向こうの敵機を見たビャッコの言葉は、黒剣を持つ相手の右腕がもげて落下する様を視認して途切れる。

 大地に跳ねた金属の音が耳に届き、乾いた風が駆け抜けて行った。


「…………もげるだろって言おうしたんだがな」

「もげたね。腕」


 限界を超えた挙動。そんな事をすれば当然機体に相当な無茶が生じる。ましてあれだけ重い一撃ともなれば、一発で損傷しても何ら不思議ではなかった。


「えっと……」


 コックピット内に何とも言えない空気が満ちる。大ダメージを被ったものの、さすがに両腕を失った相手に負けるはずもない。妙な幕切れになった事にやや納得がいかないようで、しかしビャッコは安堵の息を吐き出した。


 これでようやく妙なチュートリアルから抜け出せる。そう、思ったのだが――


「……あ!」

「ん?」


 ホウカの言葉に反応して、ビャッコは画面に映る両腕を失った敵機を見た。腕がなくったせいでやけにスリムになった印象を受けるが、そんな事よりも目を引く変化がある。

 それは失われた両腕の傷跡だ。靄に覆われているせいでただ黒くしか見えないが、その黒靄が怪しく蠢き、まるで失った腕を再生するようにもこもこと伸長を始めていた。


「ちっ!」


 相手の狙いを看破したビャッコは、自分で離した間合いを自分で詰めにかかった。同時に、敵機がぴょんぴょんと後ろに飛び跳ねて逃げていく。回復までの時間稼ぎをしようとしているのは明白だった。


「ちょっと! 全然追いつけてないじゃない!」

「分かってるよ!」


 言葉を返しつつ、ビャッコはコスト一の支援カード『速度強化』を選択使用。追走する自機の速度が上昇し、見る見るうちに敵機へ接近する。


「この距離なら!」


 頭の中で突きを繰り出すように右手を大きく引かせるイメージを作り、同時に手札を選択。


「ウザーレ!」


 使用宣言と同時に右手に出現した槍を全力で突き出した。


 リーチの面で先の剣を遥かに上回る槍の一撃が飛び跳ねて逃げ続ける敵機の脇腹を直撃し、その衝撃で斜めにバランスを崩した相手がすっ転ぶ。


「とっとっと」


 さすがに全力疾走を急に止める事は出来ず、ビャッコは転げた敵機の脇を通り過ぎてしまった。

 しかし焦る事なく機体への負担が最小限になるようにブレーキをかけて動きを止め、即座に反転。腕がないためにいまだに起き上がるのに苦労している敵機に再度迫る。


 腕の再生を図られてしまっている以上、今この状態でどれだけ相手のライフを削れるかがこの後の明暗を分ける。相手の自壊を辞さない攻撃による被ダメージを考えれば、もう一発でももらうわけにはいかないのだ。

 攻められるときに攻めきらなければ、次の機会を手に入れる前に負けかねない。


「おおおっ!」


 何とか起き上った敵機めがけて、ビャッコは再び槍の刺突を繰り出した。その一撃が身をひねってかわそうとした相手の肩を掠めたので、彼はそのまま槍の柄を叩きつけて相手を地面に倒し、片足で腹部を踏みつけて動きを封じた後に逆手に持ち替えた槍で容赦なく突き刺しにかかった。


「うわえぐっ! えぐいよこれ!」


 ひいと両の頬を抑えたホウカに言われるまでもなく、確かにそれは傍目にかなりえぐい攻撃だった。なにせ相手が起き上るのが困難であるのをいい事に、無理やり地面に転がしてから槍でグサグサやっているのだ。観戦者がいれば『汚い!』とでも言われそうなものである。


「男には負けられない戦いがある」

「それ絶対今言う台詞じゃないよ!」


 彼女のツッコミを黙殺し、ビャッコは情け容赦なく攻撃を加え続けた。

 槍の攻撃力は設定上剣よりも低くなっているため、連続で攻撃が出来ている割には敵機のライフ減少がいまいちである。だがそれでもほぼ無抵抗の相手に何度も攻撃をしているため、もう数発も攻撃出来れば倒しきれそうなところまで追い込んでいた。


 このまま押し切れるかに見えて、しかし相手よりも先に武器の方が限界を迎える。


「あ」

「やべ――」


 ガラスの割れる様な破砕音が聞こえ、ビャッコの槍が砕け散って光になる。装備兵装には耐久値が設定されているため、それがゼロになると壊れてなくなってしまうのだ。

 ひたすらに攻撃し続けていたため、耐久値に気を配る事を完全に失念していた結果である。


 加えて間の悪い事に、ちょうどその時になって敵機の腕が完全に再生してしまった。踏みつけていた足を掴まれ、最初にビャッコがそうしたように、寝返りを打つ勢いを乗せてビャッコの機体が大きく放り投げられる。


「うおっ!」

「きゃあっ!」


 ジェットコースターにでも乗っているような微妙な浮遊感を感じた直後、左右上下への衝撃がコックピット内を暴れまわり、すぐに収まる。


「……ちっ。残り一割まで持ってたってのに」


 機体を起こしつつ、ビャッコは自分をぶん投げてくれた相手を見た。両腕は完全に復活し、なんとなく最初の頃より太くなっているような気配さえある。

 いや、間違いなくそれは太くなっていた。なぜなら――


「っておいおいおい……」

「うそ……」


 ビャッコとホウカは画面に映るものをぽかんと口を開けて眺めてしまった。それまで間違いなく人型をしていたはずの敵機だったのだが、急に黒い靄が増殖を始めて完全に機体を包み込んでしまったかと思うと、もごもごぐにぐにと粘土細工でも作るように蠢き始めたのだ。


 その内に身体を傾げて両手を大地に突き、四つん這いの姿勢になった後も変化は続けられ、最終的には非常にポピュラーで見慣れた外見へと変貌してしまった。




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