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言い訳は「幼馴染」  作者: 双鶴


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9/22

9話

放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。窓から差し込む夕陽が机の上に長い影を落とし、チョークの粉がまだ黒板に残っている。武田聡太は、忘れ物を取りに戻っただけのつもりだった。だが、教室の隅でノートを整理している竹田沙織の姿を見つけ、思わず足を止める。


「……まだ残ってたのか。」

「うん。部活の記録まとめてたら、時間かかっちゃって。」


沙織は顔を上げ、柔らかく笑った。その笑顔に、聡太の胸はまた跳ねる。誰もいない教室で二人きり――それだけで、空気が少し違って感じられる。


---


机に腰を下ろした聡太は、何気なく窓の外を見た。夕焼けが校庭を赤く染めている。沈黙が続くのが気まずくて、口を開いた。


「なあ、こうして二人で残ってると、なんか変な感じだな。」

「変って?」

「普段は幼馴染って言い訳できるけど、今は誰もいないし……」


沙織はくすっと笑った。

「じゃあ、言い訳しなくてもいいんじゃない?」


その一言に、聡太は耳まで赤くなる。慌ててノートを手に取り、ページをめくるふりをした。


---


沈黙を破るように、沙織が机に近づいてきた。ノートを差し出しながら言う。

「今日の練習、ちゃんと記録しておいたよ。シュート成功率、少し上がってた。」

「……ほんと?」

「うん。数字は嘘つかないから。」


沙織の真剣な声に、聡太は照れ隠しのように笑った。

「やっぱりマネージャーだな。俺より俺のこと見てる。」

「そうかもね。だって――」


沙織は一瞬言葉を止め、視線を逸らした。

「だって、好きだから。」


その言葉は小さな声だったが、聡太の耳にははっきり届いた。心臓が跳ね、言葉が喉に詰まる。


---


「……お前、そういうことさらっと言うなよ。」

「さらっとじゃないよ。本気。」


沙織は真っ直ぐに聡太を見つめる。その瞳に射抜かれ、聡太は視線を逸らすことができなかった。


「俺だって……好きだよ。」


ようやく絞り出した言葉に、沙織はふわりと笑った。夕陽がその横顔を照らし、教室の空気が一層甘くなる。


---


その瞬間、廊下から足音が近づいてきた。二人は慌てて距離を取る。ドアが開き、クラスメイトが顔を覗かせた。


「おー、まだ残ってたのか。仲いいな、お前ら。」


「ち、違う!幼馴染だからだ!」


聡太は即座に答える。沙織は笑いを堪えながら、ノートを抱えて立ち上がった。クラスメイトは特に疑うこともなく、すぐに去っていった。


---


再び静寂が訪れる。聡太は深いため息をついた。

「……危なかった。」

「でも、ちょっとスリルあって楽しいね。」

「お前、余裕だな。」

「だって、秘密ってドキドキするでしょ?」


沙織の笑顔に、聡太はまた赤面した。夕焼けの光が二人を包み込み、放課後の教室は小さなラブコメの舞台になっていた。


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