8話
文化祭の朝、校舎はいつもと違う熱気に包まれていた。色とりどりの装飾が廊下を彩り、教室からは模擬店の匂いが漂ってくる。武田聡太は、クラスの焼きそば屋の準備に追われていた。鉄板を温め、材料を並べ、油をひく。汗が額に滲むが、心臓が跳ねる理由は別にあった。竹田沙織が、すぐ隣で会計の準備をしているからだ。
「聡太、キャベツもう少し細かく切った方がいいよ。」
「わかってるって。」
沙織は笑顔で指示を出す。マネージャーとしての手際の良さが、ここでも光っていた。だが、聡太にとってはその笑顔が何よりも眩しい。
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開店時間になると、教室の前には行列ができた。焼きそばの香ばしい匂いに誘われ、次々と生徒や来客が入ってくる。聡太は鉄板の前で必死に焼き続け、沙織は会計で笑顔を振りまいていた。二人の動きは自然に噛み合い、まるで長年のコンビのようだった。
「お前ら、ほんと息ぴったりだな。」
クラスメイトが笑いながら声をかけてくる。聡太は慌てて答えた。
「幼馴染だからな!」
沙織も笑顔で頷く。だが、二人の間に流れる空気は、ただの幼馴染以上のものだった。目が合うたびに心臓が跳ね、ほんの少し肩が触れるだけで頬が熱くなる。
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昼過ぎ、客足が落ち着いた頃。沙織が水筒を取り出し、聡太に差し出した。
「はい、特製ドリンク。」
「え、俺に?」
「幼馴染だから、好み知ってるんだよ。」
その言葉に、聡太は思わず赤面する。だが、周囲にはクラスメイトがいる。バレないように平静を装う。
「……ありがと。」
沙織はくすっと笑った。その笑顔に、聡太の心臓はまた跳ねる。
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午後になると、クラスの焼きそば屋は大盛況だった。鉄板の前で汗だくになりながらも、聡太は必死に焼き続けた。沙織は会計で忙しく、客に笑顔を振りまいている。その姿を見ているだけで、聡太の胸は温かくなる。
「……やっぱり、沙織ってすごいな。」
小さな声でつぶやいた瞬間、沙織が振り返った。
「何か言った?」
「な、なんでもない!」
聡太は慌てて顔を背ける。沙織は不思議そうに首をかしげたが、すぐに笑顔に戻った。
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文化祭が終わり、片付けが始まる。机を元に戻し、鉄板を片付け、看板を外す。クラスメイトたちは疲れた顔をしていたが、達成感に満ちていた。
「お疲れさま。」
沙織が隣で言う。聡太は頷きながら、心の中で思った。――やっぱり、彼女と一緒にいる時間は特別だ。幼馴染という言い訳で誤魔化しているけれど、本当は恋人だからこそ息が合うのだ。
「……バレないようにしないとな。」
「うん。でも、ちょっとくらいならいいでしょ。」
沙織は微笑んだ。その笑顔に、聡太はまた赤面する。文化祭の一日は、二人にとって小さなラブコメの舞台だった。




