6話
体育館の空気はいつも以上に張り詰めていた。今日は練習試合。相手は近隣の強豪校で、バスケ部にとっては腕試しの大事な一戦だった。武田聡太はウォーミングアップをしながら、心臓の鼓動がいつもより速いのを感じていた。緊張もあるが、それ以上に竹田沙織の視線を意識してしまう。
「聡太、集中してね。」
沙織がタオルを手に声をかける。マネージャーとしての言葉なのに、彼女の瞳はどこか特別な光を宿していた。聡太は頷きながら、心の中で「幼馴染だから心配してるだけだ」と自分に言い聞かせる。だが、本当は恋人だからこそ、その一言が胸に響いている。
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試合が始まる。相手は背が高く、動きも速い。序盤は押され気味で、聡太もなかなかシュートを決められない。だが、仲間の声援と沙織の視線に背中を押され、少しずつリズムを取り戻していく。
「武田、ナイスリバウンド!」
「次は決めろよ!」
仲間の声に応え、聡太はゴール下でボールを受け取る。相手のディフェンスをかわし、ジャンプシュート。ボールは綺麗な弧を描き、リングに吸い込まれた。
「よっしゃ!」
歓声が上がる。沙織もベンチから拍手を送っていた。その笑顔を見た瞬間、聡太の胸は熱くなる。
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試合は接戦のまま終盤へ。残り時間わずか、同点。聡太は仲間からパスを受け、最後のチャンスに挑む。相手のディフェンスを必死にかわし、ゴールへ突き進む。汗が目に入り、視界が揺れる。だが、沙織の声が聞こえた。
「聡太、いけ!」
その一言に背中を押され、聡太はシュートを放った。ボールはリングに当たり、わずかに揺れてから落ちた。――決まった。
体育館が歓声に包まれる。仲間たちが駆け寄り、聡太を抱きしめる。沙織も笑顔で拍手を送っていた。だが、その瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。
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試合後、体育館の片隅で二人は顔を合わせる。仲間たちはまだ盛り上がっていて、誰もこちらには注意を払っていない。
「……泣いてた?」
聡太が小声で尋ねる。沙織は慌てて目を拭った。
「泣いてないよ。ちょっと感動しただけ。」
「幼馴染だから?」
「……彼女だから。」
その言葉に、聡太の顔は真っ赤になる。沙織は照れくさそうに笑い、タオルを差し出した。
「お疲れさま。ほんとにかっこよかったよ。」
「……ありがと。」
聡太はタオルを受け取りながら、心臓が跳ねるのを感じた。周囲にはまだ仲間がいる。バレないように平静を装う。だが、二人の間には確かに特別な空気が流れていた。
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帰り道。夕焼けの空の下、二人は並んで歩く。人通りが多く、手を繋ぐことはできない。だが、試合の余韻と沙織の涙の記憶が、聡太の胸を温めていた。
「今日のシュート、忘れないよ。」
沙織が微笑む。聡太は照れくさそうに頷いた。
「……俺も。沙織の声、ずっと覚えてる。」
ほんの一瞬だけ、二人の指先が触れる。すぐに離すが、その温もりはずっと残っていた。




