5話
バスケ部の夏合宿は、毎年恒例の一大イベントだった。昼間は地獄のような練習、夜は宿舎での雑魚寝。武田聡太は汗だくになりながらも、仲間たちと笑い合い、充実した時間を過ごしていた。だが、心の奥では別の緊張があった。竹田沙織と一緒に過ごす時間が、いつも以上に増えるからだ。
夕食を終え、宿舎の廊下はざわめきに包まれていた。顧問の先生が「夜は見回りをするからな」と言い残し、部員たちは各部屋に戻っていく。見回りのペアはくじ引きで決められた。結果、聡太と沙織が同じペアになった。
「え、俺と沙織?」
「そうみたいだね。」
周囲の部員たちは「幼馴染だから安心だな」と笑っていた。だが、二人の心臓は同時に跳ねていた。
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夜の廊下は静かだった。窓から月明かりが差し込み、床に淡い影を落としている。聡太と沙織は並んで歩きながら、部屋の戸を確認していく。
「……なんか、緊張するな。」
「どうして?」
「だって、二人きりだし。」
「幼馴染だから、別に普通でしょ。」
沙織はさらりと言う。だが、その頬はほんのり赤い。聡太も耳まで熱くなり、視線を逸らした。
廊下の奥に差しかかると、人影はなく、ただ二人の足音だけが響いていた。沙織がふと立ち止まり、聡太を見上げる。
「ねえ、こういう時間、ちょっと特別だよね。」
「……まあな。」
聡太は答えながら、心臓が跳ねるのを感じた。
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見回りを続けるうちに、二人は自然に距離を縮めていた。肩が触れるほど近く歩き、時折視線が交わる。そのたびに、照れくささが込み上げる。
「……手、繋ぎたい?」
沙織が小声で囁いた。聡太は慌てて顔を背ける。
「ば、ばか。そんなことしたらバレるだろ。」
「誰もいないよ。」
沙織はそっと手を伸ばす。聡太もためらいながら、その手を握った。月明かりの下で、二人の影が重なる。
「……バレないようにしないとな。」
「うん。でも、ちょっとくらいならいいでしょ。」
沙織の笑顔に、聡太はまた赤面した。
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見回りを終えて部屋に戻ると、仲間たちはすでに布団に潜り込んでいた。聡太は自分の布団に入り、天井を見つめる。隣の部屋には沙織がいる。ほんの数分前まで手を繋いでいたことが、夢のように思えた。
「……やっぱり、合宿って特別だな。」
小さな声でつぶやき、聡太は目を閉じた。胸の鼓動はまだ少し速いまま。だが、その鼓動こそが、二人の秘密の証だった。




