4話
秋の文化祭が近づくと、教室はいつもよりざわざわしていた。黒板には「模擬店・お化け屋敷・展示」などの候補が並び、クラス委員が声を張り上げている。武田聡太は机に頬杖をつきながら、半分眠そうにその様子を眺めていた。だが、竹田沙織は違う。マネージャー気質が出ているのか、積極的に意見を出している。
「やっぱり模擬店がいいと思う。食べ物なら人も集まるし。」
「そうだな。じゃあ焼きそばにしようぜ!」
男子たちが盛り上がり、女子も賛成の声を上げる。結局、クラスの出し物は焼きそば屋に決まった。準備のために班分けが始まり、聡太はなんとなく調理班に振り分けられた。沙織は会計と買い出し班。だが、黒板に書かれた名前を見て、聡太は思わず息を呑んだ。
「え、俺と沙織、同じ班じゃん。」
「ほんとだね。」
沙織はさらりと答える。だが、心の奥では少し嬉しそうに笑っていた。
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放課後、準備が始まる。教室の机を並べ替え、模擬店のレイアウトを考える。聡太は焼きそばの鉄板を置く位置を測り、沙織は必要な材料をリストアップしている。二人が自然に並んで作業していると、クラスメイトが声をかけてきた。
「お前ら、息ぴったりだな。」
「幼馴染だからな。」
聡太は即答する。沙織も笑顔で頷いた。だが、二人の間に流れる空気は、ただの幼馴染以上のものだった。目が合うたびに、心臓が跳ねる。ほんの少し肩が触れるだけで、頬が熱くなる。
「……集中しろよ。」
聡太が小声で言うと、沙織はくすっと笑った。
「集中してるよ。あなたのことにね。」
聡太は慌てて顔を背ける。周囲には他のクラスメイトがいる。バレたら困る。だが、沙織は余裕の笑みを浮かべている。
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準備が進むにつれて、二人は自然とペアのように動いていた。材料の確認、机の配置、看板のデザイン。沙織が提案し、聡太が形にする。そのやり取りはスムーズで、周囲からも「やっぱり幼馴染って便利だな」と感心される。
「ねえ、看板どうする?」
「焼きそばって大きく書けばいいだろ。」
「それじゃつまらないよ。もっと目立つようにしないと。」
沙織はマーカーを取り出し、紙に大きく「アツアツ!青春焼きそば!」と書いた。聡太は思わず吹き出す。
「なんだよそれ。」
「いいじゃん。青春って感じでしょ?」
沙織の笑顔に、聡太はまた赤面した。
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準備が終わる頃、教室には夕焼けが差し込んでいた。机の上には完成した看板が置かれ、鉄板の位置も決まった。クラスメイトたちは満足そうに帰り支度を始める。
「今日は頑張ったね。」
沙織が隣で言う。聡太は頷きながら、心の中で思った。――やっぱり、彼女と一緒にいる時間は特別だ。幼馴染という言い訳で誤魔化しているけれど、本当は恋人だからこそ息が合うのだ。
「……バレないようにしないとな。」
「うん。でも、ちょっとくらいならいいでしょ。」
沙織は微笑んだ。その笑顔に、聡太はまた赤面する。文化祭の準備はまだ始まったばかり。だが、二人にとってはすでに小さなラブコメの舞台になっていた。




