3話
練習が終わった体育館の外は、夕焼けに染まっていた。冬の空気は冷たく、汗が引いた後の肌に少し刺さるような感覚が残る。武田聡太はバッグを肩にかけ、竹田沙織と並んで歩き出した。二人の家は同じ方向だから、帰り道も自然に一緒になる。
「今日のシュート、調子良かったね。」
沙織が笑顔で言う。聡太は照れくさそうに頭をかいた。
「まあまあだろ。最後の一本外したし。」
「でも、前よりフォームがきれいになってたよ。」
沙織の言葉に、聡太の胸がじんわり温かくなる。彼女はマネージャーとして冷静に部員を見ているはずなのに、聡太にだけは少し特別な眼差しを向けてくれる。それが嬉しくて、でも周囲にバレたら困るから、素直に喜ぶこともできない。
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夕焼けの光が二人の影を長く伸ばす。人通りの多い通学路では、手を繋ぐことなんてできない。聡太はちらりと沙織の手を見て、すぐに視線を逸らした。沙織もそれに気づいたようで、くすっと笑う。
「繋ぎたいの?」
「ば、ばか。そんなわけないだろ。」
「ふーん。じゃあ、いいけど。」
沙織はわざとそっけなく言うが、頬がほんのり赤い。聡太も耳まで熱くなり、慌てて話題を変えた。
「そういえばさ、幼稚園の頃覚えてる?砂場でケーキ作ったやつ。」
「覚えてるよ。私が飾り付けしたんだから。」
「俺が作った土台がなかったら、ただの泥団子だろ。」
「ふふ、そうだね。」
二人は笑い合う。幼馴染だからこそ自然に出てくる思い出話。それを盾にすれば、周囲に怪しまれることもない。だが、心の奥では「恋人だからこそ共有できる特別な記憶」だと分かっている。
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角を曲がった瞬間、人通りが途切れた。夕焼けの光が少し弱まり、静かな路地に二人の影だけが並んでいる。聡太は意を決して、そっと指先を伸ばした。沙織の指に触れる。沙織も自然に指を絡めてきた。
「……バレないようにしないとな。」
「うん。でも、ちょっとくらいならいいでしょ。」
その言葉に、聡太はまた赤面する。ほんの数秒だけの秘密の時間。すぐに手を離すが、心臓の鼓動は止まらない。
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家の近くに差しかかると、再び人通りが増えてきた。二人は何事もなかったように歩き続ける。だが、夕焼けの余韻と指先の温もりは、ずっと心に残っていた。
「明日も練習、頑張ろうね。」
「……ああ。」
短い返事に、聡太の照れ隠しが滲んでいる。沙織はそれを分かっているから、ただ優しく笑った。




