2話
体育館の空気は、冬でも熱気に包まれていた。バスケ部の練習はいつも激しく、汗がすぐに噴き出す。武田聡太はシュート練習の合間に、タオルで顔を拭った。喉が渇いている。だが、持ってきた水筒はもう空っぽだった。
「……しまった。」
小さくつぶやいた瞬間、視界の端に竹田沙織の姿が映る。マネージャーとして、部員の水分補給を気にかけている彼女は、いつものように控えのテーブルに並べた水筒を確認していた。そして、聡太の視線に気づくと、にっこり笑って自分のバッグから一本取り出した。
「はい、これ。」
差し出された水筒は、見慣れた青いボトル。沙織が家で作ってきた特製ドリンクだ。レモンと蜂蜜を少し混ぜたスポーツドリンクで、聡太の好みに合わせてある。
「え、俺に?」
「そう。幼馴染だから、味の好み知ってるんだよ。」
沙織はさらりと言う。だが、その言葉の裏には「彼女だから」という秘密が隠れている。聡太は受け取りながら、心臓が跳ねるのを必死に抑えた。
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その瞬間、チームメイトの一人が声を上げた。
「おいおい、なんで聡太だけ特別扱いなんだ?」
周囲の視線が集まる。聡太は慌てて口を開いた。
「ち、違うって!幼馴染だから、俺の好み知ってるだけだよ!」
「へえ〜、そういうもんか?」
疑いの目を向ける部員たち。沙織は落ち着いた笑顔で答える。
「そういうもんです。小さい頃からずっと一緒だから、好みくらい分かります。」
その堂々とした言い方に、部員たちは「なるほどな」と納得したように頷いた。だが、聡太の心臓はまだバクバクしている。
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練習が終わり、体育館の片付けが始まる。沙織はボールを片付けながら、聡太の方をちらりと見た。
「危なかったね。」
「ほんとだよ……心臓止まるかと思った。」
「でも、幼馴染って便利だね。全部それで誤魔化せる。」
沙織はくすっと笑う。その笑顔に、聡太はまた赤面する。
「……でもさ、俺、ちょっと悔しい。」
「え?」
「彼氏なのに、幼馴染って言い訳しないといけないのがさ。」
沙織は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「でも、その方がドキドキするでしょ?」
「……まあ、そうかも。」
聡太は視線を逸らしながら答えた。沙織は満足そうに頷き、片付けを続ける。
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帰り道。夕焼けの空が赤く染まり、二人の影が並んで伸びている。沙織は水筒を抱えながら、ふと聡太に言った。
「ねえ、あのドリンク、どうだった?」
「最高だった。やっぱり沙織の作るやつが一番うまい。」
「そっか。じゃあ、また作ってあげる。」
「……彼氏だから、だろ?」
聡太が小声で言うと、沙織は少し頬を染めて笑った。
「うん。彼氏だから。」
その言葉に、聡太の心臓はまた跳ねた。二人は人通りの少ない道に差しかかり、ほんの一瞬だけ手を繋ぐ。すぐに離すが、その温もりはずっと残っていた。




