18話
二月の冷たい風が校舎を吹き抜ける。教室の空気はどこか落ち着かない。女子たちがそわそわと袋を抱え、男子たちは期待と不安を胸にしている。バレンタイン――高校生にとっては特別な一日だ。
武田聡太は机に座り、参考書を広げていたが、文字は頭に入らない。心臓の鼓動が速い。沙織がどうするのか、気になって仕方がなかった。幼馴染だから、義理チョコくらいはもらえるかもしれない。でも、本命だったら――。
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昼休み。教室のざわめきの中、沙織が近づいてきた。小さな包みを手にしている。
「はい、これ。」
さらりと差し出された包み。聡太は慌てて受け取った。周囲の友達が「おー、幼馴染だから当然だな」と冷やかす。聡太は必死に笑いながら答えた。
「そ、そうそう。幼馴染だからな!」
だが、包みのリボンは丁寧に結ばれ、手書きのカードが添えられていた。そこには小さな文字で「いつもありがとう」と書かれている。
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放課後。体育館の片付けを終え、聡太は校舎裏に沙織を呼び出した。夕焼けが差し込み、二人の影が重なる。
「……これ、本命?」
「どう思う?」
沙織は少し頬を染めて笑った。聡太は心臓が跳ねるのを感じながら、包みを握りしめた。
「俺、めちゃくちゃ嬉しかった。」
「なら、本命ってことでいいかな。」
その言葉に、聡太は顔を真っ赤にした。
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沈黙が流れる。沙織が小さな声で続けた。
「でも、みんなの前では“幼馴染だから”って誤魔化すんでしょ?」
「……そうだな。でも、心の中ではちゃんと“彼女”って呼んでる。」
沙織は驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「なら、許してあげる。」
二人は目を合わせ、夕焼けの光に包まれた。秘密の関係は、バレンタインのチョコによってさらに強く結びついていった。
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その夜、聡太は布団に潜り込み、チョコの包みを見つめた。リボンをほどくのが惜しくて、まだ開けられない。だが、胸の奥は温かく満たされていた。
「……やっぱり、沙織が一番だ。」
小さな声でつぶやき、目を閉じた。胸の鼓動は穏やかに、しかし確かに二人の未来を刻んでいた。




