17話
冬の曇り空。校舎の窓から差し込む光は弱く、教室の空気もどこか重かった。武田聡太はノートを広げていたが、文字は頭に入らない。昨日の沙織との会話が、心の奥でずっと響いていた。
「彼女なのに。」
その一言が、胸に突き刺さったままだった。幼馴染という言い訳に頼りすぎて、彼女を傷つけてしまった。
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放課後。体育館の片付けを終え、聡太は一人で廊下を歩いていた。窓の外は夕焼けに染まり、影が長く伸びている。ふと、階段の踊り場に沙織の姿を見つけた。ノートを抱え、じっと外を見ている。
「……沙織。」
声をかけると、彼女は振り返った。少し驚いた顔をしたが、すぐに視線を逸らした。沈黙が流れる。聡太は胸の鼓動を抑えながら、言葉を探した。
「昨日のこと……ごめん。」
「……何が?」
「幼馴染って言い訳ばかりで、本当のことを言えなかったこと。」
沙織はノートを抱きしめ、少し俯いた。
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「俺は……沙織を彼女として見てる。大事に思ってる。でも、バレたら困るって気持ちが強すぎて、隠してばかりだった。」
聡太の声は震えていた。沙織はゆっくり顔を上げ、彼を見つめる。
「……本気でそう思ってる?」
「思ってる。昨日の言葉、ずっと頭から離れなかった。」
沈黙が続いた。だが、その沈黙は少しずつ柔らかくなっていく。沙織は小さく息を吐き、微笑んだ。
「なら、許してあげる。」
「……ほんと?」
「うん。でも条件付き。」
沙織は指を一本立てた。
「次からは、私のこと“幼馴染”じゃなくて“彼女”って心の中でちゃんと呼んで。」
聡太は耳まで赤くなり、視線を逸らした。
「……わかった。」
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二人は並んで階段を降りた。夕焼けの光が背中を押すように差し込む。沈黙はもう重くない。
「ねえ、こうやって仲直りするのも悪くないね。」
「……心臓に悪いけどな。」
「でも、ちょっとドキドキするでしょ?」
沙織の笑顔に、聡太はまた赤面した。だが、その鼓動は確かに二人を結びつけていた。
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その夜、聡太は布団に潜り込み、天井を見つめた。昼間の会話が頭の中で繰り返される。
「次からは、彼女って心の中で呼んで。」
その言葉が、胸を温めていた。幼馴染という言い訳の壁を少しだけ越えた気がした。
「……明日から、ちゃんと向き合おう。」
小さな声でつぶやき、目を閉じた。胸の鼓動は穏やかに、しかし確かに二人の未来を刻んでいた。




