12話
秋の京都。寺社の静けさと観光客の賑わいが入り混じる街に、聡太たちの修学旅行団は到着していた。バスの座席はくじ引きで決められたが、偶然にも聡太と沙織は隣同士になった。
「ほんとに偶然だよね。」
「……まあ、幼馴染だからって思われるだろ。」
聡太は平静を装うが、心臓は跳ねていた。周囲の友達は「仲いいな」と笑っている。秘密はまだ守られている。
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昼間は班行動で清水寺や嵐山を巡った。写真を撮るたびに、沙織は自然に聡太の隣に立つ。友達から「幼馴染だから並ぶのが自然なんだな」と言われ、二人は笑って誤魔化した。だが、心の奥では「恋人だから隣にいたい」と思っていた。
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夜。宿舎に戻り、自由時間。男子部屋と女子部屋は別だが、廊下やロビーは自由に使える。聡太は友達とトランプをしていたが、途中で抜け出した。ロビーの隅に、沙織が座っているのを見つけた。
「……一人?」
「うん。ちょっと静かな時間欲しくて。」
聡太は隣に腰を下ろした。周囲には数人の生徒がいるが、距離がある。二人の会話は小声なら聞かれない。
「今日、楽しかったね。」
「うん。でも、ずっと隣にいるの、ちょっとドキドキした。」
「俺も。」
沈黙が流れる。沙織がそっと聡太の手に触れた。ほんの一瞬だけ。だが、その瞬間、背後から声がした。
「おーい、武田!何してんだ?」
友達が近づいてきた。聡太は慌てて立ち上がり、笑顔を作る。
「いや、幼馴染だからちょっと話してただけ!」
友達は「なるほどな」と笑って去っていった。沙織はくすっと笑い、囁いた。
「危なかったね。」
「心臓止まるかと思った。」
「でも、秘密ってスリルあるね。」
聡太は耳まで赤くなり、視線を逸らした。
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消灯時間。部屋に戻った聡太は布団に潜り込み、天井を見つめた。ほんの数分前の出来事が頭から離れない。沙織の指先の温もり、友達に見つかりそうになった緊張感。
「……修学旅行って、やっぱり特別だな。」
小さな声でつぶやき、目を閉じた。胸の鼓動はまだ速いまま。だが、その鼓動こそが、二人の秘密の証だった。




