11話
秋晴れの空の下、校庭は色とりどりのテントと応援旗で埋め尽くされていた。体育祭は一年で最も盛り上がる行事のひとつ。武田聡太は赤組のユニフォームを着て、リレーのアンカーとして緊張の面持ちで待機していた。竹田沙織は応援団の一員として、赤いハチマキを締め、声を張り上げている。
「聡太、絶対に抜かすんだよ!」
「わかってる!」
沙織の声は応援団の掛け声に紛れていたが、聡太にははっきり届いた。心臓が跳ねる。幼馴染だから応援している――そう見えるはずだ。だが、彼女の瞳は特別な光を宿していた。
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リレーが始まる。バトンが次々と渡され、歓声が校庭を揺らす。聡太は最後の走者としてバトンを受け取った。相手校のアンカーは足の速さで有名な選手。差はほとんどない。
「いけー!」
沙織の声が響く。聡太は全力で走った。風を切り、ゴールテープへと突き進む。最後の数メートルで相手を抜き、テープを切った瞬間、校庭は歓声に包まれた。
「やったー!」
沙織が駆け寄ろうとしたが、周囲の視線に気づいて立ち止まる。慌てて笑顔を作り、他の応援団と一緒に拍手を送った。聡太も必死に平静を装う。
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競技が終わり、休憩時間。聡太はテントの陰で水を飲んでいた。そこへ沙織がやってきた。
「すごかったね。最後の追い抜き、鳥肌立ったよ。」
「……ありがと。」
聡太は照れくさそうに答える。沙織は少し頬を染めながら続けた。
「ほんとは、抱きつきたかったくらい。」
「ば、ばか!そんなことしたらバレるだろ!」
「だから我慢したんだよ。でも、心臓はまだドキドキしてる。」
聡太は耳まで赤くなり、視線を逸らした。
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午後の競技が進むにつれ、二人は何度も視線を交わした。玉入れで沙織が投げた玉が聡太の頭に当たり、笑い合う。綱引きで聡太が力を込めると、沙織が応援団の声を張り上げる。周囲には「幼馴染だから仲がいい」としか見えない。だが、二人の間には秘密の空気が流れていた。
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閉会式。赤組は僅差で勝利した。校庭に響く歓声の中、聡太と沙織は目を合わせた。ほんの一瞬だけ、互いの笑顔が重なる。
「……今日、最高だったな。」
「うん。ずっと忘れないと思う。」
その言葉に、聡太の胸は温かくなる。周囲の視線を気にしながらも、二人の心臓は同じリズムで跳ねていた。体育祭は、幼馴染という言い訳に隠された恋人同士の秘密を、さらに強く結びつける一日になった。




