10話
期末テストを目前に控えた放課後、図書室はいつもより混んでいた。静かな空気の中、ページをめくる音と鉛筆の走る音だけが響いている。武田聡太は参考書を抱えて席を探していた。すると、窓際の机に竹田沙織の姿を見つける。ノートを広げ、真剣な顔で問題を解いている。
「……ここ、いい?」
聡太が声をかけると、沙織は顔を上げて微笑んだ。
「もちろん。どうせ隣に座るんでしょ?」
自然なやり取り。だが、心臓は跳ねる。幼馴染だから隣に座っても不自然じゃない。けれど、二人の間には秘密がある。
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机に並んで座ると、沙織がノートを覗き込んできた。
「この問題、解ける?」
「……いや、ちょっと難しい。」
「じゃあ、教えてあげる。」
沙織は鉛筆を取り、聡太のノートにさらさらと解法を書き込む。指先が近づき、肩が触れる。聡太は必死に平静を装うが、頬が熱くなる。
「ほら、ここで公式を使うんだよ。」
「……なるほど。」
聡太は頷きながらも、心臓の鼓動が止まらない。沙織の横顔が近すぎて、文字よりも彼女のまつ毛の長さに意識が向いてしまう。
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しばらく勉強を続けると、沙織が小声で囁いた。
「ねえ、こうやって勉強してると、ちょっとデートみたいだね。」
「ば、ばか。図書室でそんなこと言うなよ。」
「だって、二人きりで静かに過ごしてるんだもん。」
聡太は耳まで赤くなる。周囲には他の生徒もいる。バレないように必死に顔を伏せる。だが、沙織は楽しそうに笑っている。
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休憩時間。沙織が水筒を取り出し、聡太に差し出した。
「はい、特製ドリンク。頭使うと甘いの欲しくなるでしょ。」
「……ありがと。」
聡太は一口飲み、思わず笑みをこぼす。
「やっぱり沙織の作るやつが一番うまい。」
「ふふ、そうでしょ。」
そのやり取りを見ていた近くの生徒が、ニヤニヤしながら声をかけてきた。
「お前ら、ほんと仲いいな。」
「ち、違う!幼馴染だからだ!」
聡太は慌てて答える。沙織は笑顔で頷いた。だが、二人の間に流れる空気は、ただの幼馴染以上のものだった。
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図書室を出る頃には、夕焼けが校舎を染めていた。廊下を並んで歩きながら、聡太は小さな声で言った。
「……なんか、勉強よりドキドキした。」
「それ、私のせい?」
「……まあ、そうだな。」
沙織は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、次も一緒に勉強しよ。テスト勉強っていう名目で。」
「……デートみたいに?」
「うん。秘密の勉強デート。」
二人は笑い合いながら歩き続けた。夕焼けの光が背中を押すように、秘密の関係を優しく包み込んでいた。




