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思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

「サコッティーーーー!!」


 ガラッと扉が開いた瞬間、朝の日差しと共に舞い上がった埃の粒子がキラキラと輝いた。

 ゆらぎが飛び込んできた。

 両手をバンッ!!と教卓に叩きつけて「おはよッ!」とまるでボーイフレンドかなにかに言うような感じで教師である迫に馴れ馴れしく挨拶をした。


「おはよう、ゆらぎ。朝から元気があっていいね。」

「あと、、サコッティはやめようね、迫先生だよ。」

ゆらぎは待ってましたと言わんばかりに、勝ち誇った顔をして言う。

「えー、だって迫先生って呼ぶより“サコッティ”のほうが可愛いじゃん!」

「かわいいって、そう言う事じゃないんだけどなぁ。」

 迫は苦笑しながら知らない名前だらけの出席簿を閉じた。

 ゆらぎは当然のように一番前の席に座り、机にあごをのせる。

「はぁ、、」

 迫のため息は本当に呆れているのか、はたまた予定調和なのか、ゆらぎはそれに一切気にも留めず、迫を見つめている。

 半開きの窓から差し込む風が、少しカビくさいカーテンをふわりと持ち上げていた。


「今日はね、ちゃんと授業聞く気あるんだから、ノートと鉛筆も持ってきた!!」


「へぇ、珍しいもんだね、枕もちゃんと持ってきたかい。」


「うんッ!」

「でも鞄に入れておくから!」


「それはありがたい、でも、その鞄を枕にするんだろ。」


 ゆらぎがくすっと笑った。

 その笑顔を見て、迫も自然と頬がゆるむ。

 この教室には、生徒が彼女一人しかいない。

 でも、こうして笑い声があるだけで、迫はまだ日常は続いている気がした。


「じゃあ今日は「勉強」ってなんだろう、って話をしようか。」


「うっわ、説教くさそう。絶対つまんないやつ。」


「そうだね、先生も数学と保健体育以外の授業は最悪だって思ってたよ。」


「それ、セクハラ?キッショッ。」

迫はそう言い放った後のゆらぎの表情を見て、少し興味がこちらに向いた事を確認すると、自分の喋りも捨てたもんでもないなと思い話を続ける。

「まあ、そうかも。」


「じゃあさ、男女の身体のしくみについて教えてくれる?」


「いや、それは専門外だからちと厳しいな」


「うわ、真面目か!?」


 二人の笑い声が教室の壁に跳ね返る。

 二人で使うには広過ぎる教室には不安を掻き消す為の笑い声とやさしさが隙間なく詰められているようだった。


「勉強ってさ、色んな事を覚えるって事だよね。」


「うん、先生も昨日一晩考えたけどなかなか思いつかなくてね。でも先生の立場から言えるのはね、先生の言葉や教科書の内容を覚える事が勉強ではないよ。」


「えっ、じゃあ、学校来る意味なくない?私とサコティしか今はいないんだし。」


 彼女の話だと、この学校には迫を含め教師が二人、ゆらぎを入れて7人の生徒がいるらしい。各々が気が向いた時にここへくる、試験も、進級も無ければ卒業もない。

「学校がなくなったら俺たち、おばけになっちゃうからな。」


「なにそれ?」

 とても退屈そうにしていたゆらぎはオバケという言葉に少し興味が湧いたのか、その表情は変えず、少し瞳孔の大きくなった瞳を迫に向けてそう言った。


「鬼太郎、ゲゲゲの鬼太郎。知ってる??」


「知らなーい」

やはり僕には年頃の女の子が楽しめる様な話術は持ち合わせてないな。と迫はついさっき得た自信にひびが入る音を聞いた。


「ゆらぎさん、先生はこれが勉強だと思うんだ。」


「げげげな金太郎?」


「先生そんなに滑舌悪いか?」


「え、すごく悪いよ、今まで気づかなかったの?」


「あぁ、すまないね、聞き取りやすいように少しゆっくり喋るようにしよう。」


「ねぇ、ねぇ、先生、耳貸して!」


「二人しか居ないのに内緒話ってこともないだろう。」

と、言いながらも迫はゆらぎの机の前に立ち、膝を曲げて右耳をゆらぎに向ける。


「うそ!」


「あんまりふざけてるならもう今日は授業しないよ。」


「あーん、ごめんじゃん!」

 迫はゆらぎと目を合わせずに毅然とした態度で注意したが、声と共に耳に当たる吐息で、その温度より熱くなった耳の赤を誤魔化せなかった。

 ゆらぎは勿論、そんな迫を見てご満悦であった。


「サコッティは数学の先生なんでしょ。」


「はい、そうですよ。」


「じゃあ、なんでいっつもヘンテコな授業してるの。」


「ヘンテコって、、、先生もゆらぎさんには色々教えたい事たくさんあるんだけどね、数学は楽しいぞ!ちゃんと理解さえすれば正しい答えが出てくるしね。でも、世の中こんな状態じゃ、数学なんてやってもなぁ。」


「サコッティはもっと適当に生きていいんだよ。」


「先生そんなにクソ真面目か。」


「超堅物の耳真っ赤か先生。」


「えっ??」

しまった、と、迫はふいに顔をそむけた。


「ザコザコサコッティだね、小娘に言いくるめられて。」

 きっとまた、してやった様なら顔つきでこっちを見ているんだろうと、迫はゆらぎに目をやった。

 ゆらぎは少し考えるように窓の外を見て静かに口を開く。

「こんな世界でも私はサコッティとお話ししてるこの時間がとっても楽しいよ。」

「数学だって保健体育だって今から学んだっていいじゃん!」


「あぁ、ゆらぎさんの言う通りだね。」


 風が止まり、世界が一瞬だけ静かになる。

 でも、彼女はすぐに明るく笑った。


「じゃあ、私がサコッティに教えてあげる!」


「おぉ、それは嬉しいな!どんな事を教えてくれますか、先生。」


「愛!」

「なんてねッ」


「おい、大人を揶揄わないの」


 迫はそんな言葉とは裏腹に、彼女の意地悪な笑顔一つでどこか、「愛」というものが少しわかったような気がした。


 


 


ジャンルはその他でいいのかよくわかってませんww

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