第一話
【オカルト板】
【深夜定例】心霊スポット探索スレ《第42夜》【現地実況】
196 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:41:23.11 ID:xTmaTOMA0
トンネルからただいま。多分何も起きなかった、以上
雰囲気はあるけど、それだけだったかな
一応今回も録画してあるから、後で上げとく
197 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:42:08.47 ID:Fgj39Wlq0
お疲れー。最近ずっと空振ってる?
本当に“ガチ”はレアなんだな
198 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:43:55.31 ID:5qkrWJoU0
>>197
今までが当たり過ぎだった説
“廃旅館”とか、あのレベルが身近にあったらやばすぎる
199 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:45:10.12 ID:QlpYtD20O
でも透真氏、最近ずっと当たり引いてないのは確かよな
そろそろ“本物”にぶち当たりそうで怖い
200 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:46:58.04 ID:xTmaTOMA0
一応、これ以上居ても何も無いなって感じた所は、早めに切り上げてるから、普通に怪奇現象見逃してる可能性も、なくはないんだけど
201 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:48:34.21 ID:cqTt6RwM0
透真さん前に言ってたよね
「“ガチ”の場所って、ほんとに空気が違う」って
最近のレポにはその温度がない気がする…
202 名前:◆霧ノ翁[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:51:42.89 ID:KrmYO3kY0
では少し趣向を変えて提案しようか――“水に沈んだ学校”、聞いたことはあるかな?
203 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:52:10.56 ID:Fgj39Wlq0
お、霧の翁キタ
全く知らんのでkwsk
204 名前:◆霧ノ翁[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:53:24.45 ID:KrmYO3kY0
山の方にある廃校舎でな
閉鎖されてから十数年は経っている
廃校になる前から地元では有名だったんだが、廃校になってから直ぐに“水”に関する妙な話が一気に増えた
――雨も降っていないのに、校舎が“濡れている”だの
“水たまりに何か映る”だの、不気味な話が溢れ出した水のように出ておる
205 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:54:11.20 ID:cqTt6RwM0
今聞いてるだけでも結構怖いんだが
ご当地ホラーってやつ?
206 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:55:02.94 ID:9RfPlHoA0
“水に沈んだ”とか言われると気になる
なんか逸話でもあるの?
207 名前:◆霧ノ翁[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:56:21.71 ID:KrmYO3kY0
元々あの地は、“水の神”を祀っていた地域でな
四方に社を建てて、豊かな水を守っていた
――だが、あるとき“水の神”は封印された
その日から、村の水は濁り、災厄が相次いだ…
しかし今、また“水”が戻り始めておる……封じられしものが、目覚めるが如く、な
208 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:57:40.82 ID:Fgj39Wlq0
お、おう……出たな翁のオカルト語り
場所はわかるの?調べてみたい
209 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:58:12.74 ID:xTmaTOMA0
水の怪談か……
詳しい場所が分かるなら、明日にでもすぐ、行きたいんだが
210 名前:◆霧ノ翁[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 04:59:00.31 ID:KrmYO3kY0
それでは、また夜に
座標情報はその時に渡そう
“水の底”に、何が眠っているのか――
嗚呼、今宵も佳き“夜廻り”を……
【オカルト板】
【深夜定例】心霊スポット探索スレ《第42夜》【現地実況】
284 名前:◆霧ノ翁[sage] 投稿日:20--/07/05(土) 20:21:09.32 ID:KrmYO3kY0
では約束の座標を──
「35.1×××× 138.7××××」
山を登る旧道の先、廃村に隣接した校舎らしい。
……気をつけるが良い。
“まだ濡れてはおらぬ”うちに、な。
自前の車中泊できる車に、普段スポット巡りをする際に用意する道具。録画機材、懐中電灯、モバイルバッテリーに予備バッテリー、着替え、簡単な食料等などをバッグに詰め込んで、車の中に入れておく。防災バッグのようなものだ。
明日の備えを一通り終わらせ、スレに貼られた座標を地図アプリで確認した俺は、数秒の沈黙のあと、小さく息を吐いた。
「……これはまぁ、ずいぶんと奥まった場所にあるなぁ」
山間の小さな集落の外れ。かつて人が暮らしていた痕跡だけが残る廃村の近くに、その“廃校舎”はあるらしい。使われなくなった旧道の先にある、通学路を進んだ先との事だが、地図上では道がとても細い。舗装されていれば良いんだがな……
人が寄りつかない、人が居なくなった場所っていうのは、得てしてそういう“何か”が生まれやすい。ましてや今回は水。物理的な面でも気をつけないといけない。
透真――本名、湊崎透真。24歳。
心霊スポット探索を趣味にしていて、実況をかねてネットのオカルト板にちょくちょく投稿している。
ハンドルネーム「夜廻り透真」も、そんな毎日の中で自然と定着していった物だ。
元々の俺は、ただの怖がりだった。
けれど、六年前に経験した“ある出来事”が、ずっと脳裏にこびりついて離れない。
忘れるために、あるいは、確かめるために……。
気づけば、夜な夜な怪しい場所を訪ね歩くようになっていた──そんな感じだ。
──翌朝。
車に乗り込み、エンジンをかける。ナビ代わりにスマホをダッシュボードに固定し、昨日霧ノ翁が貼った座標を改めて確認した。
空は晴れていて、朝の日差しはまだ柔らかい。
それでも、心のどこかで引っかかるものがあった。昨日の言葉──「また“水”が戻り始めておる」「封じられしものが、目覚め」「まだ濡れてはおらぬうちに」という言い回しが、やけに妙だったのだ。
「今回の廃校舎……“本物”かもな」
ひとりごとのように呟いて、車を出す。
街の喧騒から離れ、住宅街の景色が少しずつ緑に変わっていく。朝のラジオが流れる中、車窓を流れる風景はのどかで、どこか拍子抜けするほどだった。
だが、進むにつれて道路は細くなり、携帯の電波も怪しくなっていく。
山道に差しかかる頃には、霧がところどころに立ち込めており、空気の色まで少し違って感じられた。
やがて、廃村の集落跡を通り抜けた先に、それはあった。
崩れた塀に、歪んだ校門。割れたガラス窓。朽ちた掲示板に、錆びついた水道の蛇口。
全体がまるで時間の流れから取り残されたように、そこだけ“何もかもが止まっている”。
幸いにも、車で通学路を通れた為、校門の前で停める。ドアを開けた瞬間、ほんの微かに水の匂いが鼻先をかすめた。
乾いたはずの空気の中に、ひと筋の湿気が潜んでいる。
校舎の入り口付近には、なぜか誰かの足跡のようなものと、足跡の形をなぞるように、水が滲んでいるようだった
「……誰もいないはず……なんだけどな」
季節は夏のはずだが、妙に肌寒い。
透真は、用意したバッグから最低限、必要なものだけを小さなバッグへと移し、荷物を背負い、無人の廃校へと一歩、足を踏み入れる。
まるで、目に見えない境界を越えるかのように。
校舎に入ってすぐ、校内の地図が描かれた”乾いた紙“を見つけた。
元より校長室に行って、一番最初に探そうと思っていたからラッキーではある。だがどうにも、誘われているようで、既に気味が悪い。
ともあれ探索のため、透真は廃校舎の中を一階から順に見て回ることにした。
その中でも特に嫌な、ジメジメとした湿気をまとった教室が3つあった。
1つは理科室だった。扉を開けた瞬間、むわっと鼻を突く水の匂い。足元を見ると、床一面に薄く水が張っていた。水道の蛇口は固く閉まっているのに、実験用の流し台の周囲だけが特に濡れている。流し台の下に転がったビーカーには濁った水が入り、その中に何かが沈んでいるように見えた。
隣接する家庭科室もまた、床が水で濡れていた。特にシンク周辺が酷く、濡れた床を踏むたびに靴底がぐしゃりと鈍く音を立てる。奇妙なことに、調理台の上には乾いたままのガラスのコップが、逆さに置かれていた。水の気配に満ちた部屋の中で、そこだけが不自然なまでに乾いている。
三階にある音楽室では、ドアを開けた瞬間、どこからともなく「ちゃぽ……ちゃぽ……」という水音が聞こえた。室内には誰もいないはずなのに、音楽室奥の合唱マイクに反響したような、かすかな声も混ざっていた気がする。透真は眉をひそめながら足を進める。部屋の奥、グランドピアノの下だけが濡れており、小さな足跡が何度も同じ場所を回ったように残っていた。
廊下に配置されている水道は全て、蛇口の向きが上を向いていて、水が溜まっている。ほぼ全てが逆向きになっていること。そしてそれぞれの階に1つ。通常の向きの蛇口がある事も、不気味で仕方なかった。
体育館も確認してみたが、中央に向かって伸びた濡れた足跡が目に入った。だが、その足跡は途中で唐突に途切れていた。上を見上げると、壁の高い位置にまで濡れた筋が伸びており、まるで水が天井を這ったような痕跡が残されている。
普通教室もいくつか確認した。
黒板にチョークの跡はなく、机も埃が積もっていた。だが、どの教室にも必ず一つだけ「水を連想させるモノ」が置かれていた。ある教室には空っぽの水槽、別の教室には濡れたスケッチブック。そしてまた別の部屋には、コップのような形をした丸石が教卓の上にぽつんと置かれていた。
不自然に見えるそれらは、どこかから持ち込まれた痕跡もなく、まるで元からそこにあったかのように違和感なく馴染んでいた。
透真は探索の最後に、三階の校長室へと向かう。
割れたガラス戸の向こうには、古びた資料棚と木製の机が見える。扉を開けてみれば、むっとするような空気が肌にまとわりついた。埃とカビと、どこか生臭いような水の気配。ただ、この部屋は他の教室と違って、少し落ち着けるような気がした。こういった場所は、セーフルームと勝手に呼んでいる。
ふと、外を見てみれば探索前は太陽が真上にあったのに、今は日が傾きかけて、部屋の中にオレンジ色の光が差し込んでいた。
机の上には、古びた地図と校内の見取り図が描かれたもの。ほかには使い込まれた文具と、黄ばんだ紙の束。手帳かと思ったそれを開くと、旧式のボールペンでびっしりと記録が書かれていた。
──「この数年、校舎のどこに居ても水の音が聞こえると連絡があった」「誰もいないはずの音楽室から、川のような音が聞こえる」「濡れた廊下は今日も拭いても乾かず」「児童の描いた絵に、また“水の社”が……。教えた覚えはないのだが、皆なぜか同じようなものを描く」。
「随分古いが……いつの記録だ?」
日付は最後の年、廃校が決まった直前まで続いていた。
その隣の引き出しには、写真が何枚か束ねて入れられている。
開校記念の集合写真、運動会、地域地図。
だが、一枚の航空写真だけ、裏に何かが書かれていた。
──「ひとつは“見えぬ”が定め。記せぬ場所、忘れられし“縁”の座」──
「……どういう意味だ?」
印刷の掠れた白地図を透かすと、赤いインクで描かれた四社が映る。 しかしこの地図の地形は、見覚えがある気がして──だが、その記憶の出どころだけがどうしても思い出せなかった。
さらに、机の奥の棚を引き開けると、そこには小さな風鈴のようなものが。金属の輪とガラス玉、細い紐だけの簡素なものだが、試しに揺らしてみても……なぜかほとんど音が鳴らない。
ただ、廊下から微かに吹いた風に揺れたそのとき、「サー……」と雨のような音が聞こえた。
透真はバッグからスマホを取り出し、いつものスレッドに繋ぐ──
【オカルト板】
【深夜定例】心霊スポット探索スレ《第42夜》【現地実況】
402 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:47:04.21 ID:xTmaTOMA0
今、三階の校長室。ようやく一通りの探索を終えた。
……正直、ここまで“異常”が多い場所は久しぶりだ。
水浸しの理科室と家庭科室、音楽室の水音、人の声。体育館には濡れた足跡。
そして──各教室に、同じ何かが置かれていた。
(詳細は後でまとめて上げる)
403 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:47:49.62 ID:cqTt6RwM0
出たな「全部ヤバい」案件
てか、オブジェクトって何? 詳細はよ
404 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:48:03.81 ID:QlpYtD20O
水気まみれの空間+音+人影系のコンボって
まじで久々に本物来たんじゃないかコレ……
405 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:48:45.03 ID:5qkrWJoU0
廃旅館のときもだったけど、透真氏のガチ実況って
スレの空気一気に変わるよな……
ちょっとスクショ保存しとくわ
406 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:49:12.89 ID:xT??TOMA0
あと、校長室に残ってた記録と地図──それにも気になる点があった。
“水の社”って単語と、赤で描かれたマークが地図に四つ。
……だけど、さっき見た時と見取り図が微妙に違う。
407 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:49:47.62 ID:Fgj39Wlq0
地図が変わってる……? 怖すぎ
それって、地下とかない?
408 名前:◆夜廻り透真[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:50:33.31 ID:xT??T??A0
あった。今、光の角度で浮かび上がった線を確認した。
地下通路──多分、非常階段の奥に繋がってる。
今からそこを調べる
409 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:51:11.41 ID:cqTt6RwM0
逢魔が時に地下とか
やめろやめろやめろ(歓喜)
410 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:51:22.30 ID:5qkrWJoU0
なあ、ちょっと待って……
透真氏のID、微妙に変じゃね?
411 名前:◆?廻□?真[???] 投稿日:20--/07/06(日) 17:52:04.21 ID:??a???A?
□みく……□く み□
……すぐ、□ニ……
412 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:52:30.50 ID:QlpYtD20O
うわ、やばいやばい
レスの内容も文字化けしてる
誰かこのログ保存しとけ
413 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:52:56.41 ID:cqTt6RwM0
これマジで“繋がった”系のヤツじゃない……?
414 名前:本当にあった名無し[sage] 投稿日:20--/07/06(日) 17:53:10.82 ID:Fgj39Wlq0
おい、またIDそのままだし更新されてる……
透真氏、マジで大丈夫か?
画面の向こうで、スレは徐々に騒然となっていく。
だが透真本人は、何も知らず──
地下へと続く、冷たい闇の入り口に手をかけようとしていた。
重たい扉が、きぃ……と軋んだ音を立てて開く。
その向こうには、静寂と、鈍く濁った水の匂いが満ちていた。
地下通路は、まるで違う世界のようだった。
むしろ“違う”としか思えなかった。あの地上の廃校舎とは、明らかに空気が異なっている。
音がない。湿度だけが張りつき、喉の奥をじっとり濡らしてくる。
天井は低く、壁には所々、黒い斑点のような染み。
足元には浅く水が張っているが、歩くたびに波紋すら立たない。
まるでこの空間だけ、時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
(ここ……もう、“向こう側”だ)
透真は、背中をぞわりと這い上がる感覚を覚えながら、そっと一歩を踏み出した。
水面に靴音は響かない。
無音。
通路の奥、ぼんやりと灯る青白い光。
そこに、誰かがいる。
透真はその姿を見た瞬間、心臓が跳ねるのを感じた。
「……澪?」
その背中は、確かに──妹・澪のものだった。
小さな肩、紺のワンピース、濡れて重たげな髪。
昔と同じ、幼い日のままの姿。
(なんで……? なんで、あの頃のままなんだ)
背中を向けたまま、動かない澪。
それでも確かめずにはいられなかった。
「澪!」
声を張り上げながら、透真は走る。
そして、彼女の腕を掴んだ──その瞬間。
足元が、崩れた。
音もなく、感触もなく、まるで地面そのものが存在しなかったかのように。
身体が一気に沈む。
「うわっ──!?」
水の感触。
冷たさ。
光が揺らぎ、遠ざかっていく。
腕に感じていたはずの澪の体温が、不意に、氷のように冷たくなった。
そして──その耳元で、確かに声が囁かれた。
「あ〜あ……来ちゃったんだ」
それを最後に、すべてが水の中へと沈んだ。
──第一部・第一話 終──
誤字発見 修正済
小さい頃に→六年前に (7/11 21:30)