ある夜、婚約者が突然家へやって来ました。~運命はとても素敵な人を連れてきてくれました~
隙間風が冷たくてくしゃみが出そうな夜のことだ。
婚約者であるカイルが突然家へやって来た。
「夜に悪いな」
「いえ」
「ちょっと言いたいことがあってさ」
「はい、何でしょうか」
心なしか急いでいるようだったので早速本題に入るのかと思いきや。
「急ぎだったから夜に来てしまったんだ、それはごめんって思ってる。けど、悪いけど、仕方がないことなんだ。だから失礼とか言わないでくれよ」
まだ本題には入らないようだ。
「あ、はい。大丈夫です」
夜に来るほど急ぎの話であったわりには前振りが長い。
「では言いたいことを言わせてもらっても問題ないだろうか?」
「大丈夫です」
「では言わせてもらおう」
「はい」
いつになったら話が始まるのだろう?
いつまでこういうことを繰り返すのだろう?
急ぎと言うわりには前振りの終わりが見えない。
「ああ、一応確認しておくけれど、常識がない男だと思わないでくれよ? これは仕方なくなのだから。急ぎの用でもないのに夜に人の家を訪問するような常識のない男ではない。勘違いしないでくれよ?」
「しませんしません」
「本当だな? 後でそういった悪口を言い広めたりしないだろうな? もしそういったことがあれば、貶めるような行為があれば、罪に問わせてもらうからな。悪事を働くつもりであれば覚悟しておけよ」
「安心してください、そのようなことはしませんから」
そのようなやり取りが三十分以上続いて――。
「君との婚約だけど、破棄とすることにしたんだ」
――ついに本題に。
彼は私との終わりを宣言したのだった。
「君とはさよならだ。ばいばい」
こうして私はまさかの切り捨てられ方を経験することとなったのであった。
◆
婚約破棄から数年、私は、一国の王子である五つ年上の男性と結婚した。
男性との出会いは春祭り。
他国の王子ながらそのお祭りに参加していた彼と乾杯の際に近い位置であったことから知り合うこととなった。
で、そこから親しくなっていって。
気づけば私たちは特別な二人になっていた。
最初は深く考えず関わっていたのに、いつの間にか、互いを想い合うようになっていたのだ。
運命は私たち二人を離しはしなかった。
国の違い、一般人と王子という立場の違い、いろんな問題もあったけれど――小さなことでも話し合い、協力し合って、それらを乗り越えることができた。
だからきっとこれから先も私たちは前向きに歩いてゆけると思う。
……そういえば、先日、侍女の一人から聞いたのだけれど。
「カイルさん、あの後変な女の人に騙されてあの世逝きになってしまったんですって~」
「あら、そうなの?」
「騙されて借金させられてしまったんですって~」
「へぇ……」
「怖いですよね~、借金させられる罠」
「ええ。恐ろしいわ。気をつけなくちゃ、って思うわ」
カイルは幸せにはなれなかったようだ。
◆終わり◆