なんてことのない平凡な秋のある日、婚約破棄を告げられました。〜私は未来を恐れない〜
「アイリーナ、お前はもう要らない」
婚約者からそんな言葉を投げつけられたのは、なんてことのない平凡な秋のある日だった。
「これまで努力してきたがお前を好きにはなれなかった。だからもうやめにする。これ以上努力するのは嫌だ、面倒臭い、だから……お前との婚約は本日をもって破棄とすることにしたんだ」
彼は冷たい目をして平然と言い放った。
「え……待ってください、そんなの、あまりにもいきなり過ぎませんか」
「いきなりか否かなんて関係ないことだろう」
「で、ですが……!」
「うるさい女だな。これまで相手してやったんだ、感謝してくれよ。というか、そもそもはお前のせいだろう。お前が面白みのない人間だからこんなことになったんだ、大人しく現実を受け入れろよ」
終わってゆく。
崩れてゆく。
一度は確かに築いたはずの関係が。
「じゃあな、ばいばい」
彼は唇に薄っすらと笑みを滲ませて。
「永遠にさよなら」
最後ははっきりとそう言いきったのだった。
◆
あの後彼は痛い目に遭ったようだ。
まず婚約破棄を告げた翌日に母親が亡くなった。事故だったらしい。
それでかなりのショックを受けていたところに、昔の恋人である女性から「お金貸してくれない?」と頼まれて。精神的に弱っていたこともあり断れず、貸してしまったそう。
それは借金返済のためのお金に消えたらしい。
また、その女性は、彼に借りたお金を返さないまま黙ってどこかへ消えた。
それから少しして、妹が可愛がっていた飼い犬が謎の死を遂げた。
それで妹は壊れてしまい。
妹は心を病み、療養していたが、数週間も経たないうちに自ら命を絶ってしまったそうだ。
で、その一件によって心を病むこととなってしまった彼は、一ヶ月も経たずに妹の後を追うようにこの世を去ったらしい。
ちなみに私はというと、今はまた婚約者ができている。
現在の婚約者とは良い関係を築けている。
今度こそ急に捨てられることはないだろう。
私は未来を恐れない。
希望を信じて、歩む。
◆終わり◆