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婚約者とその母親が虐めてきて非常に厄介です。なので解放されたいと思い毎日神に祈っていたのですが……するとまさかの!?

 私アリスと彼リオールの婚約は、親同士の話し合いによって決まった。


 婚約と同時に彼及び彼の母親と同じ家に住むこととなった。


 若干気が重かったけれど。

 でもそれはそれで仕方ないことだと受け入れていた。


 しかしリオールとその母親は同居開始するなり嫌がらせをしたりいじめのような行為を繰り返してきたりするようになった。


 ある時は、私が飲む予定となっているティーカップに虫を放り込んだ。

 ある時は、私が実家から持ってきていたアルバムに変な落書きをした。


 また別のある時には私の私服――それも高級めなものを厳選して――ナイフで切り裂いたりも。


 加えて、毎日のように嫌みを言ってくる。


 掃除やそれ以外の雑用も押し付けてくる。


 そんな最悪な日々が嫌だったので私は一度その屋敷から逃げ出したのだけれど、脱出などやり慣れていなかったのですぐ捕まってしまい、それからは嫌がらせがさらに酷くなっていった。


 リオールは顔を合わせるたびに「お前ってほんと無能だよな」とか「お前さぁ、もうちょっと頑張れば? 無能すぎるって」とか言ってくる。

 彼の母親は一日に百回近く絡んできて「アリスさん、貴女、どうしてそんなに無能なのかしら?」とか「ご両親がゴッミーなのかしらねぇ」とか「親がゴッミーンだと娘もゴッミーンになるのかもしれないわねぇ……うふふ、可哀想なアリスさん……無能って遺伝するのね」だとか毒を吐いてくる。


 憂鬱な日々が続く。


 いつになったら終わるのだろう。

 この地獄のような毎日が。


 いつの日か解放される時が来るのだろうか?


 できることならすぐにでも来てほしい。しかしそれを現実化する能力は私にはない。私にできることといえば神に祈って望みを伝えるくらいしかない。なんせ私は特殊能力を持たない一般人だから。祈る、神頼み、そのくらいが私にできる限界だったのだ。


 早朝起きた瞬間に「おはようございます神様。どうか、私を、ここから解放してください」と呟く。

 服を着替えて部屋を出る直前に「神様、どうか、願いを叶えてください。私は彼らから離れて生きていきたいのです。贅沢は言いませんが、取り敢えず、この環境から解放されたいのです」と一人こぼす。

 押し付けられた雑用をこなしながら「自由をください」「解放してください」といった言葉を心の中で繰り返し呟き続ける。


 ……といったように、もうとにかくひたすらに願いを神に伝え続けた。


 神様だけが頼りだったのだ。たとえ非現実的だと馬鹿にされるとしてもそれでも構わない――そう思うほどに。その時私にはそれしか縋るものがなかった。たった一つ、最後に残された希望。それが神という目に見えない存在だったのである。


 それでも心のどこかでは、きっと無理だろうな、と思っていた。


 ――しかしついに奇跡は起こる。


 ある朝、身体が冷えている状態で急に起き上がったリオールは、突然胸の痛みに襲われた。その場で倒れ込み。そのまま彼は二度と起き上がれなかった。理由は不明だが落命してしまったのである。

 そして数日後、リオールの母親は夜中に亡くなった。というのも、息子を失ったショックで少しどうにかなってしまっていたのだ。正気でなかった彼女は夕方頃から数時間にわたって家の柱に頭突きをしており、それが原因となって命を失うこととなったのであった。


 ――こうして私は自由を得た。


 リオールとの婚約は自動的に破棄となり、人として生きる権利を取り戻すことに成功する。


 これで自由だ。

 嫌みを言われることも、絡まれることも、いじめのようなことをされることも、もうない。


 これからは人として生きてゆける。

 一人の人間として穏やかに暮らせるなんてことのない日常を取り戻せる。




 リオールらの死から三年。

 あれからしばらく実家で両親と共に暮らしていた私だったが、先日ついに結婚式を挙げた。


 もちろんリオールとは無関係な人が結婚相手だ。


 これからは希望を信じて歩いてゆける。


 どんな出来事が待っているかなんて分からなくても。

 今はただ幸福を感じながら息をすることができているから、それだけで、とても素晴らしいことだと強く感じている。



◆終わり◆

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