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《 襲い来る闇 》

『闇』が世界に広がり、この世界も終焉を迎えるのでしょうか・・・


「父上、速く!」

アイリスが王城の庭を楽し気にスキップしている。手にした籠には母エステルの為に摘んだ白薔薇の花が溢れんばかりに入っている。


「アイリス、そんなに籠を揺らすと花が痛んでしまうわよ」

父ジークフリートと手を繋ぎ、ゆっくりと歩いてくるローズが声をかける。ローズは先週木から落ちて足を挫いていた。


「お転婆なローズがアイリスを窘めるとは珍しいな」

ジークフリートは二人の愛娘を交互に見やり微笑んだ。


「私は『お転婆』なのではなく、アイリスより少しだけ運動が得意なだけです。そうよね、アイリス?」

ローズはかわいい口を尖らせて父に抗議し、それを聞いたアイリスは振り返ってアッカンベーをした。

ジークフリートはローズの頭をそっと撫で、十数歩先にいるアイリスに目線を戻した。その瞬間、ジークフリートは恐怖で全身が凍り付いた。


「アイリス、止まれ!!」

ジークフリートはローズの手を離すと叫びながら走り出しアイリスに手を伸ばした。アイリスの背後に漆黒の闇が口を開こうとしていたのだ。吸い込まれるように闇へと引きずり込まれるアイリスを追ってジークフリートは迷わず闇に飛び込んだ。

少し離れた場所から家族団欒を見守っていたアンソニーは、恐怖で立ち竦むローズをすぐ後ろで震えている女官の腕に押し込むと、二人を追って漆黒の闇へと飛び込んだ。



庭に面した二階のベランダに居たエステルの耳に、ジークフリートの悲鳴にも似た叫び声が飛び込んできた。


【瘴気が! 直ぐ近くだ!】

同時にマーリンの鋭い声がエステルの頭に響いた。


エステルはスカートの裾を左手で絡め取るとベランダの柵を乗り越え庭へと身を躍らせる。マーリンは羽根を一振りし、風を起こしてエステルの着地の衝撃を和らげた。


「何故こんな処に・・・」

王城の奥深くの庭に開いた禍々しい漆黒の闇にエステルは我が目を疑った。すぐさま飛び込もうとするエステルをマーリンが止めた。


【僕が入る。エステルはローズを遠ざけて、浄化の準備を】


【でも!】


【今の僕より浄化の力はエステルが上だ! 二人は必ず連れ戻す!】


マーリンが闇に飛び込むと、エステルを追ってきたアベルも後に続いた。エステルは立ち尽くしている女官にローズを部屋に連れ帰るようきつい口調で命じた。


数十秒経っただろうか、闇の中からアイリスを抱いたジークフリートが転がるように出て来た。数歩遅れて肩に傷を負ったアンソニーがアベルに襟首を引かれて這うように出て来る。


【今だ、エステル!】

マーリンの声にエステルは闇に手を翳し、浄化の呪文を脳裏に記す。後ろで軽く束ねていたリボンが解け、エステルの真紅の髪がフワリと浮き上がりキラキラと輝くと、闇は徐々に小さくなり消えていった。


【よし、閉じた】

マーリンの声と同時に、弾かれる様にエステルはジークフリートに駈け寄った。意識を失った二人の周りには瘴気が纏わりついている。


「ジーク! アイリス!」

エステルは構わず二人を抱き寄せ声をかけるが、目を開くことは無かった。浄化魔法をかけようとするエステルをマーリンが止めた。


【あの浄化魔法は強力だ、人体にどんな影響が出るか分からない】


「だったら、どうしたら良いの? このままでは二人が!」

取り乱したエステルは魔法で呼びかけることさえ忘れていた。マーリンは姿を現し、エステルの肩に止まった。


「いいかエステル、浄化の呪文は僕が唱える。君はアイリスの記憶を消すんだ」

マーリンはそう言うと二人の上で羽根を広げた。ジークフリートとアイリスに纏わり付いている瘴気が徐々に薄くなっていく。


「マーリン、まだ二人の身体から瘴気を感じるわよ」


「今はこれが限界だ、これ以上強い魔法は影響が大きい。彼らを寝室に運びなさい。僕はアンソニーの手当てをする」


エステルはハッとして後ろを振り返った。肩から血を流して倒れているアンソニーをアベルが心配そうに覗き込んでいた。


「大丈夫、こっちは僕に任せて早く行きなさい。ほら、クリス達がやってきた。ジーク達を運ぶんだ」

そう言うとマーリンは再び姿を消した。


「陛下! エステル様何があったのですか!?」

問いには答えず、エステルは駆けつけたクリスとロバートにジークフリートを両脇から支えるように命じ、アイリスを抱き上げると寝室へと急いだ。



【マーリン様、アンソニー殿は大丈夫?】

アベルが心配そうにマーリンに尋ねた。


【肩の傷は深いが命に関わることはない。瘴気の影響は残るが、ジーク達より抵抗力はあるだろう。どうやら応援も来たようだ、アンソニーは彼らに任せなさい。僕はエステルの所に行く】

アンソニーの浄化と傷の止血を済ませたマーリンは、アベルに後を任せてエステルの元へ急いだ。




「医療に詳しい方とすぐにお話しさせて下さい!!」

エステルは玉座の間で『守護者』に訴えかけた。


「急に言われましても・・・」

ボタンを押すと話が出来る『箱』の向こうから迷惑そうな声が返ってきた。


「王城の庭に『通路』が開き、陛下が瘴気に侵されたのです。直ぐに治療方法を教えて下さい! 緊急なのです!!」


「え! 王城内部にまで!? 都市部も危ないとは言っていたが・・・」

驚いた声の後『守護者』は口籠った。


「『都市部も』とはどういう意味ですか?『通路』が開くことを貴方達は知っていたのですか! それなら猶更です、民にも被害が及んでいる可能性がある。至急、治療方法を! 薬剤も是非用意して下さい!」

エステルは強く治療法の開示と薬の提供を求めた。


「しかし王妃様、今は・・・ いえ、分かりました。担当部署と至急協議致します。暫しお待ち下さい」

『守護者』は何かを言おうとしたが、思い返したようにエステルの要求を検討すると答えた。



「あの様子では被害が広範囲に出ている可能性が・・・ 直ぐに対処しなければ」

魔獣に対応出来る兵士がいる砦を思い浮かべながらエステルは玉座の間を出た。


「エステル様、こちらでしたか!」

今日は王都警備隊に居るはずのアレックスが息を切らして廊下を駆けてきた。


「王都内で二か所『魔獣』が出現しました。幸い小型のヤツだった為、王都警備隊で対応出来ましたが『通路』は開いたままです。改良型の弩を持たせた弓兵を配備して警戒に当たらせております」


「やはり、王城だけではなかったのですね・・・」


エステルの呟きにアレックスは顔を強張らせた。

「まさか、王城でも被害があったのですか!」


「陛下が瘴気に侵されました。アイリスとアンソニーも・・・ 治療方法を『守護者』に尋ねたところです。『守護者』の様子では王都だけではなく広い範囲で被害が出ている可能性があります。直ぐに伝書鳩を飛ばして、全ての砦に警戒態勢を取らせて下さい。王都内の『通路』は私が出向きますが、陛下の治療法が分かるまでは地方へは行けません。押収した『弩』を配備している砦には使用許可を与えます。全力で民を守るようにと」

ジークフリートが倒れたと聞き顔色を変えたアレックスだったが、すぐに一礼すると廊下を駆けていった。


エステルは一度ジークフリート達の様子を見に寝室へ戻った。


【マーリン、三人の容体は?】

寝室に残って容体を見守っていたマーリンに尋ねた。


【瘴気の影響だと思うが、ジークとアイリスは心臓が弱っている。魔法で血流を促してはいるが・・・ アンソニーは日頃から鍛えているせいか、影響は少なく安定しているよ。それで『守護者』から治療法についての情報は?】


【詳しい者に連絡を取ると約束してくれたけれど、あの口調ではあまり期待は出来そうにないわ。それに、何かが起こっているみたい。王都内でも『通路』が開き、魔獣が現れたそうよ。魔獣は警備隊が駆除してくれたけれど『通路』を塞ぎに行かなければ。暫く二人をお願いするわね】


エステルが廊下に出ると、クリスに伴われたガラハッド侍医長が到着した。


「エステル様、ご指示通り内密にご案内して参りました」

クリスが心配そうに寝室への扉を見やり、エステルに(こうべ)を垂れた。エステルは黙って頷くとガラハッドを奥へと案内した。


「これは! 陛下は如何なされたのですか?!」

ガラハッドはベッドに横たわる土気色の顔のジークフリートを見て愕然とした。


エステルは以前『魔獣が現れる通路』についてガラハッドに話したことがあった。瘴気に人が触れた場合の治療について相談する為だった。今回、王城の庭に開いた『通路』で三人が瘴気に侵され、出来得る限り取り除いたが、ジークフリートとアイリスには影響が強く残っていること。治療手段を問い合わせてはいるが、すぐに返事は来そうにない事を話した。


「私は王都に開いた『通路』を見に行かねばなりません。戻るまで陛下達を頼みます。それについては・・・ マーリン来て」

エステルは一度言葉を切って、マーリンに姿を現すように呼び掛けた。


突如、目の前に現れた小型のフクロウにガラハッドは驚愕した。


「驚かせてすみません。これは私の医術の師匠であるマーリンという魔法使いの『使い魔』なのです。そして今、二人の心臓が弱っている為、彼の魔法で血流を改善しています。彼をここに残していきますから、治療の相談をして下さい」

エステルの言葉に、マーリンは「よろしく」と声をかけて、片方の羽根を広げてお辞儀をした。


「こ、これは驚きましたな・・・ エステル様の師ですか、是非ゆっくりとお話ししたいですな」

ガラハッドは驚きながらも、マーリンの存在を受け入れてくれた。



物語は一気に終末へと向かいます

もう暫くお付き合い下さい

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