《 死の星 》
時間軸は再び戻ります
パーシヴァル号が月基地に到着したのは地球が死の星と化してから1年ほど後だった。
調査団の団長はハロルド・ベーカー少将、副長がロバート・モートン船長である。技術顧問として同行したのは、終末兵器に精通したトーマス・モードレッド博士。
「モードレッド博士、汚染の拡散は対流圏までだろうか?」
月基地の窓から変わり果てた母星を眺めながら、ベーカー団長はデータを睨んでいるモードレッド博士に声を掛けた。
「いえ、ベーカー団長。成層圏までは達しているようです、オゾン層がそれ以上の拡散を防いでいると良いのですが・・・ 中間圏以上は観測データを採ってみませんと判断し兼ねます」
モードレッドはデータから目を離さず答えた。
「モードレッド博士、この状態で地表の調査は可能でしょうか・・・ 汚染物質の濃度によっては小型船の投入が難しい可能性があります」
モートン船長は調査にどれほどの時間が掛かるのかと不安を募らせた。
調査隊はパーシヴァル号を地球と月の中間地点に待機させ、無人観測機器を大量に飛ばした。対流圏から成層圏上部を中心に観測した結果、オゾン層に濃い汚染帯が見られるものの、有人小型宇宙船のバリアでも汚染の影響を受けずに地表に到達できると判断された。ベーカー団長は直ちに有人小型宇宙船10機を発進させ地表観測を開始した。
「少尉殿、あれは何でしょう?」
ヨーロッパ西部上空に派遣された3号機の副操縦士がモニターを指さした。一面の荒野と化した地表に影の様な物が映し出されていた。
「ここからでは良く見えんな・・・ よし、進路を南西に10度修正」
3号機機長ウィルコック少尉は予定の調査範囲を離脱することを決めた。
「何だ、アレは!? 巨大な石が並んでいる様だが・・・」
そこには十数個の巨大な石が円形に並んでいた。他の全てが無に返った地表に立つそれらは、まるで何かを告げる様に静かに佇んでいる。
「至急、映像と座標をパーシヴァル号に送信しろ! 上空を旋回して詳しいデータを集めるぞ」
ウィルコック機長が指示を出すと、乗組員達が慌ただしく動き出した。
「モードレッド博士、どう思われますか?」
3号機から送られてきた情報を前に、ベーカー団長は顧問の意見を求めた。
「座標から検索したところ、数千年以上前に作られたと言われる『ストーンヘンジ』だと思われます。しかし、只の石の遺跡があの壊滅的な衝撃に耐えられたとは思えません。それに、あの周辺だけ汚染濃度が異常に低い。何か理由がある筈だ。ぜひ、現地で調査させて下さい!」
大発見にモードレッドは興奮を隠しきれなかった。
「モートン君はどう思うかね。付近に着陸しても問題ないだろうか?」
「そうですね・・・ 画像からの判断になりますが、着陸には問題ないと思われます。念の為小型船2機で向かい、1機は上空待機しておくのが良いでしょう。着陸船は私が操縦しましょう」
ベーカー団長からの問いにモートンは自ら調査に赴くと答えた。
無事帰還した調査隊は一枚の石板を回収していた。立ち並ぶ巨石群の一つに隠す様に置かれていたその石板には見たこともない文字がびっしりと刻まれていた。直ちにパーシヴァル号のコンピューターで解析をしたところ、古代ドルイド文字と判明したが、その内容はまるで意味不明な文章の羅列で、何を示した物かは謎だった。
「『ストーンヘンジ』自体が何の為に作られたのか謎と言われています。しかし、この遺跡付近だけが汚染が低く、只の石がほぼ原形を留めているからには、この石板に秘密が隠されている筈です。月基地に戻って、火星ステーションのスーパーコンピューターとの接続を頼みましょう。何としても謎を解かなければ!」
モードレッドの言葉に、ベーカーは直ちに月基地への帰還を指示した。
3週間後、解析された内容に一同唖然とした。一部解読不明な部分もあったが、石板には対象物を特定し、時間を遡る方法が書かれていたのだ。しかも遺跡周辺の地質調査で、辺り一帯にバリアらしきものが張られていたことも判明した。
(数千年以上前にバリアを張る技術があり、タイムトラベルの方法まで確立していたと言うのか!! マーリンと言う魔術師は遥か未来からタイムトラベルして来たとでも言うのか・・・)
モードレッドはスーパーコンピューターが導き出した回答に愕然とした。銀河系外に渡航出来るほど科学技術が発達した今でも『タイムトラベル』はSF世界の出来事でしかないからだ。
「遠い昔、ジュール・ヴェルヌと言う作家が書いたSF小説で、実現しなかったのは『タイムトラベル』と『透明人間』だけだと聞いた事がある。もしや、実際にはどちらも存在したが、影響力の大きさに隠蔽されていたのでは・・・ それにしても、この石板に書かれた『呪文』はどうやったら起動できるのだろうか? 『ストーンヘンジ』全体が起動装置だとしてエネルギーはどうすれば・・・ それにしても、あの(・・)アーサー(・・・・)王の側近マーリンが関係しているとは、どんな因果だ・・・」
モードレッドはモニターに映し出される巨石群を眺め考え込んだ。
多くの研究者が火星ステーションに集結し、数年に渡る研究協議の結果『ストーンヘンジ』を5倍に拡大した装置を南極大陸に建設することになった。だが、起動の為のエネルギーをどうするか、それが問題だった。
「モートン船長、本当に申し訳ない」
ベーカー団長がモートンに頭を下げる。
「いえ、現状を考えるとパーシヴァル号の原子炉を使用する以外方法はないでしょう。長年共に過ごした船ですから寂しくはありますが・・・ それにパーシヴァル号を装置の維持要員の基地とすれば、居住性も確保されますし、月基地との連絡用シャトルの運用も可能です。一番良い方法だと私も考えます」
二度と宇宙空間を飛ぶことが無い愛機のブリッジを眺め、モートンは過ぎ去った日々を思い返した。
石板の発見から7年、南極に設置された『時間操作』施設がついに稼働する日が来た。万一を考えて、強力なバリアを張ったパーシヴァル号に必要最低限の人員だけを配備し、この地球を石板が作成されたと思われる年代の環境に戻す実験が開始された。パーシヴァル号に装備された3基の原子炉のうち2基が装置に繋がれ、徐々に出力を上げていく。実物の5倍程の巨大な『ストーンヘンジ』が光を放ちだした。光は渦を巻き上空へと勢いよく登って行く。あまりの眩しさに観測用員も偏光グラスを掛けた目を更に細めた時、光が上空で広がり星全体を包んだ。
「何と神々しい光景だ! 今、死の星が蘇る・・・」
責任者としてパーシヴァル号で見守っていたモードレッドは感嘆の声を上げた。
マーリンの魔法は科学を凌駕しました
しかし、成功したはずの『時間操作』は完璧ではなかったのです




