《 『標』の真実 》
物語はいよいよ佳境に
ウィリアムの死でエステルは王妃となります
『守護者』とは『標』とは・・・
エステルが探し求めた答えはあるのでしょうか?
「『標』は、どのような事があろうとも必ずエステル王妃と共に聞くようにと、ウィリアム王の遺言です。絶対に譲れません!」
『守護者の聖域』への入り口でジークフリートは声を荒らげた。
戴冠式後、新王を迎えた『守護者』は思いがけない要求に言葉を失った。このような要求が過去にあったとは聞いた事が無い。勿論、己の判断で受け入れることは出来ない為、暫し待つようにと告げ、本部に相談すべく奥のモニター室へと急ぐ。
「なに?! 王妃も一緒に聞くだと? ジークフリート新王は王妃の傀儡なのか?」
今日の説明担当であるバートン中尉は手元の資料をめくった。
「いえ、第三王子ではありますが、医療従事者の育成や僻地医療の改革を進めた見識ある方です。確かにその事業には元治療師であるエステル妃の献身が大きかったことは事実ですが、妃は常に殿下を立てておられました。王を差し置いて『標』を聞かせろと言うようなお方ではありません。『標』を履行するには、エステル妃に聞かせるべきと亡きウィリアム王が判断されたのではないでしょうか」
コンウェル王国の担当として長年エステルの働きも見て来た彼はそう答えた。
「確かその妃は、魔獣を自ら討伐したとの報告が来ていたな・・・ 魔獣の対処に関しては彼女に事実を知らせるべきと先王が考えたとしても不思議はないか・・・ よし、異例ではあるが、許可しよう。面談室に二人を通して良い」
バートン中尉は渋々了解し、急いでエステル王妃の情報を検索した。
不思議な白い壁に囲まれた部屋に通されたジークフリートとエステルは、壁に映し出される動く絵に驚愕した。鳥のように空を自由に飛びまわる乗り物や、天に届くかと思われるほど高く聳える建物群。そして最後に映し出されたのは、巨大な火の玉が地上を覆い尽くす地獄の様な光景だった。
「今見てもらったように、この星は繁栄を謳歌していたが、国家間の争いの末『死の星』と化してしまった。全ての生命が失われ汚染された星を我々はある方法を見出し、再び生命を育む星に再生した。再びこのような悲劇を生まぬ為、我々は『標』を設け、国家間の争いを防ぐことにした」
箱の様な物の中から話しかける男の横に、ある光景が映し出された。
【!!】
マーリンが息を吞む気配がエステルに伝わった。
【マーリン、どうしたの?】
映し出されたのは、荒涼とした大地に巨石が円形に立ち並ぶ景色だった。
【あれは・・・僕が作った魔方陣だ・・・】
マーリンが信じられないと言うように呟いた。
【え?! 私が未来から帰れるようにと作ったと言っていた魔方陣?】
ラスゴーに居た頃、アエネーイスが開いた鏡越しに聞いた話をエステルは思い出した。
【あれがそうなら・・・ ここは『別の世界』ではないということ・・・】
エステルは椅子の肘掛を強く握り締めた。
「俄かには信じ難いとは思うが、我々の意を汲み『標』を各国が遵守した結果、400年の間この星は平和が保たれている。『標』の重要性を理解して頂けるだろうか?」
箱の中の男はジークフリートとエステルの沈黙をただ理解しかねていると取ったようだ。実際、ジークフリートは思考が追い付いていないようだった。
「では、一つお尋ね致します。先程言われた『星を再生するために見出した方法』とは何なのでしょうか? あの巨石が並んだ様子と関係があるのですか?」
エステルはしっかりした口調で問いかけた。
これまでそのような問いをしてきた者は居なかった為、バートンは驚いた。
「汚染を除去した方法ですか? 貴女は医術に詳しいから興味があるのでしょうね。良いでしょう、お話ししましょう。先程映し出されたのは「ストーンヘンジ」と呼ばれる遺跡です。数千年程前、この辺り一帯を統治していたアーサー・ペンドラゴンと言う王に仕えていた魔術師マーリンが作ったと伝えられています。先ほど画像で見たように、地表の殆どが平らになるほどの衝撃にも『あれ』は耐えたのです。我々はその秘密を探る為調査をした結果、ある石板を発見しました。それは非常に珍しい文字で書かれていましたが、研究の結果『時間を操作する方法』が書かれていることを突き止めました。我々はその技術を研究し、汚染された星全体を清浄な状態に戻すことに成功しました。蘇った大地に我々が保存していた植物を移植し、この星に生命を復活させたのです」
彼は得意げに植物が徐々に増えていく映像を流した。
『アーサー・ペンドラゴン』と『マーリン』と言う名を耳にしたジークフリートは身震いした。
(エステルの姓がペンドラゴン・・・ 魔法の師匠の名が・・・)
「では、人間は? 人間は何処から連れて来たのですか?」
エステルは自分とクレアがこの地に来た謎がそこにあると思った。
「それは・・・ 実は当初、人が住む計画は無かったのだが、植物が育ち始めて50年ほどした時、突如数百から千人近い規模で世界各地に人々が現れたのです。ちょうどその頃、上空の汚染が除去しきれていない事が判明し、再度『時間操作』が行われました。因果関係は不明ですが、その影響で過去から人々がやって来たと思われます。地域によって住んでいた時代は若干異なったものの、ほぼ強力な武器が無い時代から来た者達だった為、元の時代に沿った生活指導をし、そのまま住まわせることに・・・ 詳しい内容は差し控えますが、それが450年ほど前の事です」
新王への説明でここまで詳しい内容を話すのは始めてで、バートンはかなり当惑して何処まで話して良いのかと迷い始めた。
「汚染除去の為に『時間操作』した際に、遠い過去と『通路』が繋がり、人々が送られて来たと言う事ですね」
「えぇ、そうですね・・・」
エステルの冷静で的確な指摘にバートンは唖然とした。『時間操作』などという事象を何の疑いもなく受け入れ、冷静に受け止めることが出来る者が居るとは思ってもいなかったのだ。
「では、各地に『魔獣』が現れるのも同じことなのでしょうか? 『魔獣』の被害については『守護者』も把握されているのでしょう? 何故、危険な獣が現れる『通路』を放置しておられるのですか! 東国で『魔獣』を倒すために強力な武器が作られ、その武器のせいでウィリアム王は亡くなられたのですよ!」
エステルは怒りを抑えきれずに声を荒らげた。隣に座るジークフリートが慌ててエステルの手を握る。
「そ、それは・・・ 確かに各地に『通路』が開き、凶暴な獣が現れている事は把握しているし、対処法を研究中です。東国の兵器についても他国への流出が無いよう指導していましたが、今回は不測の事態で我々も事態を憂慮しています。その件もあったので、今回例外的に王と王妃両名との面談を認めたので・・・」
バートンは明確に『守護者』の無策を指摘され、しどろもどろになる。
「私との面談をお許し頂いた事は感謝しております。『通路』と『魔獣』については今後『守護者』のご意向をお聞かせ頂けると思って宜しいのですね?」
エステルはやや平静を取り戻し、抑えた声で問いかけた。
「え、ええ勿論です。我々も脅威を放置するつもりはありません」
バートンはそう答えたが、声は少し震えていた。
「分かりました。他にもお聞きしたい事はあるのですが、陛下も私も頭を整理する時間が必要でしょう。後日また質問させて頂きたいのですが、お時間を頂けますでしょうか?」
(どうやらこの男はあまり権限がないようだわ。事前に質問を渡して、責任者に取り次いでもらった方が良さそうね・・・)
エステルはこれ以上面談を続けても得られる物は少ないと判断した。それに、ジークフリートの様子も気にかかった。エステルの手を握っている手が小刻みに震えていた。
「思いがけぬ話で、聞きたい事も多々お有りだろうが、まずは少し休まれた方が良いでしょう。質問は出来れば文書にして担当に渡して頂きたい。十分に資料を集めた上で面談を設けましょう。では、今日はこれで」
バートンは内心ホッとして面談終了を告げた。
(彼も自分では手に負えないと判断したようね・・・)
バートンに笑みを返して、エステルはジークフリートを促して部屋を後にした。
エステルが探し求めた『故郷』はすぐ目の前にありました
故郷を守る戦いが始まります




