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《 虚しい結末 》


「まさか王都に来るとは・・・」

ミレニアと共に、弩を放った賊達の後を追って来たマーリンは呟いた。


【エステルに知らせる?】

ミレニアが問うが、マーリンは首を振った。


【誰に会うのか確かめてからだ】

マーリンはミレニアを伴い館の中に入って行った。



「して、首尾は? 皆殺しに出来たのだろうな」

ハロルド男爵の前に跪いた6人の男は答え辛そうにお互いの顔を見合った。


「まさか、仕損じたのではあるまいな!」

ハロルド男爵が声を荒らげると、漸く一人の男が口を開いた。


「いえ、王一家が乗る馬車には4射が命中し、馬車ごと谷底に転落しやした。槍で直接仕留めなくても、あの崖から落ちれば望みはありやせん。王弟一家の馬車には2射が命中しやしたが怪我したかは分かりやせん。更に撃ちかけようとした時、場所を気付かれあっちこっちから矢を射かけられ逃げるしかありやせんでした」


「あれほど離れた場所から攻撃したのに、すぐに場所を特定されたと言うのか!」

ハロルド男爵は驚きを隠せなかった。


「俺達も思いもしやせんでした。凄い反撃で逃げるのが精一杯で・・・」


「もうよい! ところで、現場に証拠は残していないだろうな」

ハロルド男爵は吐き捨てるように男の言葉を遮ると、手掛かりを残してはいないかと問い質した。


「へい、装置や槍には何の印もありゃしませんや、誰の物かなんて調べようがありやせん。逃げる時もわざと遠回りして岩場と川を何度も横切ったので、足跡を辿ることも出来やしやせん。安心して下さい」

男は自信満々だった。


【そうだな、僕達でなければ突き止められなかっただろうね。ところで、ここは誰の屋敷なんだ?】

マーリンは周りを見渡したが、紋章らしき物は見当たらない。マーリンはその場にミレニアを残し、男達から離れて屋敷内を見て回った。母屋の最奥、主人の書斎らしき部屋を見つけ中に入る。魔法で机の引き出しを開けると手紙が何通か入っていた。宛先は『アルバート・ハロルド男爵』。部屋には離れで賊達と話していた老人の肖像画と、二人の少年が描かれた絵の二枚が掛かっていた。


【ミレニア、彼らを見張っていてくれ。エステルに知らせてくる】

マーリンは離れで彼らを見張っていたミレニアに引き続き監視を頼んで王城へと向かおうとした。


【待ってマーリン、妖精達が何か騒いでいるわ・・・ え?ホントなの!? マーリン大変よ!王様が亡くなったって! アベルが妖精達に貴方を探す様に頼んで回っているそうよ】


【そうか・・・ 分かった。ミレニア、彼らを見失わないように頼む】

(やはり戻るべきだったかな・・・)

マーリンは一縷の望みを託していただけに、エステルの悲しみを思うと後悔の念が過った。



王城に戻ったマーリンはアベルに案内されウィリアムの寝所に向かった。

【エステル、済まない。僕が付いていながら・・・】

マーリンは姿を消したままエステルの肩に舞い降りた。


【ジークから話を聞いて、マーリンが守ってくれたのだと分かっているわ。あの崖から転落した馬車が原型を留めているなんてあり得ないもの。残念ながら最初の攻撃で陛下は致命傷を負われたみたい。ジークの馬車が無事だったのもマーリンのお陰よね、有難う。今回は私の責任よ。私が居たら例え誰が見ていようと魔法で助けられたのに・・・】

侍医長が側にいる為、エステルは顔色一つ変えずに魔法でマーリンに答えた。


【ところでマーリン、どこに行っていたの?】


【実はミレニアが先に『弩』を見つけて、賊達に『粉』を掛けておいてくれたんだ。彼女と追跡をしたら、奴らは王都のある屋敷に入って老人に攻撃の様子を報告していた。屋敷の主人は『アルバート・ハロルド男爵』だ。ミレニアに見張りを頼んで知らせに戻った】


【ハロルド男爵・・・ アレックスの調べと合致するわ。マーリン、その屋敷に案内して頂戴。直ぐに兵を出すわ】

「ガラハッド殿、済みませんが少し外します」

エステルは侍医長に会釈すると、肩の上のマーリンがよろめいて思わず飛び立つほどの勢いで振り返り、ジークフリート達が居る書斎に向かった。


【エステル、まさか君が行くつもりか?!】

マーリンは慌ててエステルの後を追いながら声を掛ける。


【当然でしょ! 貴方に案内してもらうのよ、私以外、誰が貴方の声を聴けると?】


【それはそうだけど・・・ 代わりにアベルに案内させるとか・・・】

マーリンは何とかエステルを止めようとする。怒りにかられたエステルが無茶をしそうで不安なのだ。


エステルは書斎のドアの前で立ち止まり、掌を胸の前に掲げた。マーリンは姿を現し掌に乗る。

「マーリン、私は謀反を起こす者が許せないの。父上が亡くなり、その上私まで姿を消して、アルビオンの民はとても苦労したとクレアから聞いたわ。先王もウィリアム様も慈悲深い名君よ。そんな方々を自身の欲望の為に害するような者は許せない。この中にはジークの他、アレックスとアンソニーが居る。彼らは私の魔法についても少し知っているわ。この際、貴方の事も話そうと思うの。でないと、襲撃者の行方を掴めたと説明出来ないでしょ?」

エステルは敢えて魔法を使わず声に出してマーリンに語り掛けた。


「分かったよ、エステル。言葉を話すフクロウを見たら、彼らどんな顔をするかな?」

マーリンはエステルの覚悟を悟って、わざと小首を傾げてお道化て見せた。




エステルはアレックスを伴ってハロルド男爵の別邸を急襲した。


「ハロルド男爵、この槍をご存じですよね」

エステルがアレックスが持つ槍を指差して問いかける。


「はて、なんですかな? 変わった槍ですが、見たこともありませんな」

ハロルド男爵は素知らぬ顔を決め込む。


「見たことも無いと? 密輸品であるこれらを、マンチェスター子爵領から貴方の屋敷に運び込んだ者達を既に捕らえております。それに、そこに居る男達が陛下の馬車を襲撃し、この屋敷に逃げ込んだのを目撃した証人もいるのですよ。それでもまだ、しらを切られますか?」


エステルの確信に満ちた言葉に、ハロルドは後ろで縮こまっている男達を睨んだ。男達はそんな馬鹿なと小声で呟きながら首を横に振る。


「あくまで否定なさるのなら、その者らがあの山から何処をどのように通ってここまで来たか、目撃者に証言させましょうか?」

マーリンの身代わりとして、アレックスの部下に襲撃者達の逃走経路を詳しく教えてあったが、ハロルド男爵はエステルの態度から言い逃れは無理だと観念したようで、大きく溜息をつくと無言で両手を差し出した。


「ハロルド男爵、同行願います」

兵士二名が歩み寄り手を縛ろうとした刹那、男爵は兵士の腰の剣を抜き取ると自らの胸に突き立てた。兵士の数歩後ろにいたアレックスが飛びつくが、一歩遅かった。


「男爵、なぜウィリアム様を・・・ 弟さんの為なのですか!」

崩れ落ちるハロルド男爵はアレックスの言葉に僅かに口元を動かしたが、言葉を聞き取ることは出来なかった。


「弟の為ってどういう事? アレックス」

エステルの問いに、アレックスは先の謀反の際に調べたことを話した。


「馬鹿な! それなら、先王の時に事を起こすべきでしょう、なぜ今になってウィリアム陛下を!」

エステルは横たわるハロルド男爵の亡骸を前に怒りを隠せなかった。既に責任を負うべき人々はこの世を去っていると言うのに、何故民の平和を乱そうとするのか・・・  

だが、今はやらねばならない事がある。襲撃実行者の捕縛と、男爵の領地に残されている武器の回収をアレックスに命じると、エステルは重い足取りで王城へと向かった。






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