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《 暗雲 》

『地球の終焉』 では、この世界は・・・

ウィリアムが聞いた『標』の正体とは


しかし、意外な事態がコンウェル王国を襲う気配が・・・


戴冠式の三日後、ウィリアムは漸く執務室にジークフリートとジョージを呼んだ。


「これから二人に『標』の一部を話そうと思う。後継者となるジークだけではなくジョージも呼んだのは、ジークの相談役になってもらう為だ」


「兄上、そういう事なら私ではなくエステルを呼ぶべきではありませんか? ジークを側で支えていくのは彼女なのですから」

ジョージがウィリアムの言葉に戸惑うように尋ねた。


「実は以前、父上から聞いた『標』の一部を既にエステルには話してあるのだ。これから二人に話す内容と大きな差異は無いと思うので改めて呼ばなかった」

ウィリアムは少し含みがある言い方をしたが、二人は敢えて聞き返すことは無かった。


ウィリアムから『標』の一部を聞いたジョージとジークフリートは暫し言葉を無くした。


「では、我々は常に『守護者』に監視されているという事ですか? 極端な暴政を敷かない限り内政や内乱には関知しないが、他国への侵略は制裁の対象にすると」

ジークフリートが驚きの声をあげた。


「どのような方法で監視しているのかは分からないが、他国への軍事侵攻は察知できるらしい。我が国は武器の生産は盛んではないし輸出もほぼ無い。誤解が生じる可能性は低いだろうが、用心はしなければならないだろうな」

ウィリアムの言葉に二人は頷いた。


更に『守護者』から供与される技術情報等を伝えると、ウィリアムは二人を送り出した。


「本当ならもう少し話してやるべきなのだろうが・・・ エステルの事を考えると、ジークには返って重荷になるだろう。私が退位する前にヘンリーが重責を担える年齢になってくれれば、生涯知らせずに済むのだが・・・ 参ったな、私はこんなにも卑怯な性格だったかな」

『この世界の真実』を知らせたくないと思ってしまう自分が情けなく、ウィリアムは苦笑した。




「ジーク、ウィリアム様は大丈夫でしたか?」

出迎えたエステルはジークフリートの様子に違和感を持ったが、努めて平静を装って尋ねた。


「あぁ、落ち着かれていたよ。『標』は予想以上に大変な事だったそうだ。私とジョージ兄上に『話せる範囲で』と一部を教えて下さった。エステルを呼ばなかったのは、既に話した内容と大差無い事しか話せないからだと仰っていた。私は聞かせて頂いた内容だけでショックを受けたというのに、兄上は王として全てを背負って行かれる。ジョージ兄上と共に少しでもお役に立ちたいと思うよ」

ジークフリートはしっかりとした口調で兄を支えると明言した。


「そうですね」

予想とは違うジークフリートの反応にエステルはある確信を持った。


実は『標』を聞いたウィリアムが、明け方近くに玉座の間からふらつきながら出て来た様子を、エステルはマーリンから聞いていた。その様子から重大な事を打ち明けられるだろうと予想していたのだが、自分はともかく、弟達にも話せない内容だったらしい。

(何をお一人で悩んでおられるのかしら・・・)




ウィリアムは即位に伴い、一部の大臣と軍関係者の入れ替えを行った。特に大きな波乱もなく王政は強化され、穏やかな時間が流れていた。


7か月振りにコンウェルに入港したバルスからエステルに手紙が届いた。

(予定より半年近くも早いうえ、王城ではなく『館で内密に』とは・・・ )

エステルは手紙を開いて顔を曇らせた。常ならばまず王城に挨拶に訪れ、エステルから館での逗留を許される段取りだ。エステルはアンソニーも連れずにフードを深く被り王城を後にした。


館の裏門から入ろうと脇道に入ると、前方に外套の襟を立て顔を隠した偉丈夫が居た。


「バルス」

エステルが抑えた声で呼びかけると、驚いたように偉丈夫が振り返った。


「エステル様でしたか、気配も感じませんでした。まだまだ修行不足ですね」

バルスは苦笑いして会釈した。


エステルはバルスに微笑み返すと、裏門を開け庭沿いに離れへとバルスを案内した。ここはエステルが特殊な薬剤の調合や魔法の実験に使っており、トーマス達も近寄ることを禁じられている。


「ここは使用人も近づかないから大丈夫よ。余程の事なのでしょ?」

エステルは奥の部屋にバルスを通し椅子を勧めた。


エステルの言葉に、挨拶すらも省略してバルスは語り始めた。

「9か月ほど前、ある商会から荷を預かりました。自社の船に積む予定だったが手違いがあり、私の高速艇なら次の寄港地で追い付く筈だと言うのです。偶にある事なので当初気にも留めませんでしたが、嵐で荷崩れが起こり、その荷の蓋が開いたのです。中身は極東の国で開発された強力な弩でした。大型の肉食獣駆除の為に作られたそうですが、あまりに強力な為、国外への持ち出しは厳禁とされています。密輸品ですので面倒に撒き込まれぬ為に、荷受け先を確かめようと寄港地で情報屋を雇ったところ、エステル様にご報告するべき内容と判断し、急遽伺った次第です」


「交易の予定を変更してまでと言うからには、余程の事ね。国事に係る事?」


バルスは頷いて話を続けた。

「不躾ですが、ジョージ第二王子には同腹の弟君が国外に居られますか?」


「その話、この件と関係があるの?」

フィリップの事は公にはなっていない。他国の商人が知る筈がない情報だ。


「はい、大変重要です。例の荷受け先を探り出したところ、我が国の隣国の商会でした。その主が『コンウェル王国の第三王子』と名乗っているそうなのです。しかも、荷は今回だけではなく、かなりの違法武器を購入している疑いがあります」


「その商会は武器を集めて何を企んでいるのかしら。その辺りは分かっているの?」

エステルの声は強張っていた。


「それと思われる荷が既に複数回、コンウェル王国へと送られた形跡が見つかった為、急ぎ参った次第です」


「複数の違法武器が我が国に・・・ 荷を受け取った者は?」


「カーライル港で茶の貿易をしている『バッカル商会』らしいのですが確証が無く、これ以上の調べはエステル様にお願いするしかなく。力不足で申し訳ございません」


エステルは天を仰いだ。カーライル伯爵は獄中で既に他界したが、意を継ぐ者がまだ居たのだろうか。フィリップとカーライルの貿易商・・・ あの謀叛はまだ終わっていないと言うのか。


「バルス、貴重な情報を有難う。貴方が言うように、ジョージ殿下には弟君が居られるわ。東国で商会を営んでいると聞いているけれど、王家とは縁を切ったはずなのよ。武器の行方を調べるにあたって、情報収集に詳しい者と直接話をして欲しいの。良ければ直ぐに呼ぶわ」

頷くバルスに少し待つように告げ、エステルはアレックスを呼ぶ為に本館に向かった。

(フィリップ殿は何をする気? 東国で静かに暮らしたいのではなかったの・・・)

トーマスにアレックス宛の文を持たせて、エステルは離れに戻った。


「バルス、使いを出したから少し待ってね。ところで、以前お願いした『噂話』は何か収穫はあった?」

エステルはバルスに茶を淹れながら問うた。


「今回の弩こそがその答えです。極東の国で見たこともない大型の肉食獣が多大な被害を出し、国を挙げて開発を急いだと聞いています。肉食獣の容貌は分かりませんが、剣も跳ね返す程の剛毛に覆われているとのこと。エステル様が仰っていた『魔獣』だと確信しました。他にも砂漠の国で『頭が二つある大型の犬を見た』と言う話もありましたが、こちらは目撃者が少ないので不確かです」


【オルトロスかも知れないな・・・】

エステルの頭にマーリンの呟きが届いた。


「少なくとも我が国やアイルレアだけに現れる訳ではないと分かったわね。人に関してはどうだった?」


「それらしい話は今のところは・・・ ところでクレアさんはお元気ですか?」


「えぇ、この館でサラを手伝ってくれているわ。今回も館に逗留するでしょう? 後で引き合わせるわ」


「いえ、ご挨拶は次回に。実は急遽出航した為、今回はコンウェルでの取引予定はございません。補給が済み次第、明後日には出航しようと思っておりますので、船で過ごすつもりです」

バルスがやや言いにくそうに苦笑いした。


「それって、すごく迷惑を掛けているわね。だったら・・・」

エステルが補償を申し入れようとした時、ドアをノックする者があった。アレックスが来たようだ。


「バルス、こちらは陛下の側近でアレックス・ダルトン。情報収集ならわが国で彼の右に出る者はいないわ。アレックス、手紙の通り厄介事よ。バルスから詳しいことを聞いて頂戴。私は一旦王城に戻ります。バルス、私は明日の午後船に伺うわ」

エステルはバルスにアレックスを引き合わせると急ぎ王城へと戻った。




「エステル様、これは!」

桟橋でエステルを出迎えたバルスは荷車の列に目を見張った。


「今回は無理をさせてしまったから、ホンのお詫びよ。いつも貴方が仕入れている物に近いと思うわ。量は少し物足りないだろうけれどね」

エステルはニコリと笑った。それらは昨日王城に戻ったエステルが手を尽くして搔き集めた品々だった。王子妃の名と伝手を駆使して集めた一級品ばかりだ。


「恐れ入ります、エステル様。ですが、代金はきちんとお支払いさせて頂きます」

バルスが慌てて申し入れる。


「これは情報に対する正当な対価よ。陛下もとても感謝して、よろしく伝えてくれと仰っていたわ。今回は船員たちにも無理をさせたのでしょう? 果物とお酒も少し用意したから振舞って頂戴」

エステルは笑顔で脇の馬車に目を向けた。


「お心遣い痛み入ります。エステル様、くれぐれもお気を付け下さい。あれは本当に強力ですから」

バルスは既にこの国に入っているであろう危険な武器を思い浮かべ顔を曇らせた。


「バルスのお陰で備えられるわ、有難う。次回はゆっくり子供達と遊んでやってね」

備えられる、エステルはそう思っていた。しかし、極東の国が作り出した弩は、エステルを含め調査に当たった者すべての想像を遥かに超える凶暴な兵器だった。




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