《 ウィリアムの即位 》
物語もいよいよ核心に近づきつつあります
『守護者』とは・・・
ドライアドに調査を依頼し、数か所の瘴気が濃くなっている事が分かったものの、エステルは王城を離れられなくなってしまった。義父エドワード国王の容体が思わしくないのだ。2年ほど前に侍医長ガラハッドから頭痛の原因が分からないと相談され、すでに何度もマーリンと共に探知魔法をかけてみたのだが、はっきりとした診断はつかず、有効な手は打てていなかった。
「侍医長、如何でしたか?」
ウィリアムが父王の寝室から出て来たガラハッドに声を掛けた。王子三人とエステルが控えの間に集まっていた。
「申し訳ございません、ウィリアム殿下。頭部の何処かに異常があると疑っておりますが、確かめる方法も対処法もございません」
ガラハッドが深々と頭を垂れた。
「エステル、君の見立ては?」
ジークフリートが隣に立つエステルに声を掛けた。
「侍医長と共に昨日も伺いましたが、私も同じです。お役に立てず申し訳ありません」
エステルもガラハッド同様に頭を垂れた。
「いや、侍医長と貴女が診てそう言うのであれば、これ以上どうすることも出来まい。せめて痛みを和らげて差し上げることは出来るか?」
ウィリアムは二人を責めることは無く、父王の負担を減らせないかと問うた。
「痛みを軽減する為に意識レベルを下げる薬を処方することは出来ますが、陛下に使用するには事前に重臣の前で、ウィリアム殿下に『政務代行』を言い渡して頂く必要があると存じます。陛下も先程その点について案じておられました故」
ガラハッドの言葉にウィリアムは頷いた。
「これからすぐに大臣達を招集しよう。ジョージ、お前も立ち会ってくれ。ジークフリートとエステルは孫たち四人に事情を話して欲しい。大臣達との面談が済んだら父上とお別れをさせよう。侍医長は薬の準備を頼む」
ウィリアムの言葉に皆が動き出した。
一カ月後、エドワード王は眠るように息を引き取った。ウィリアムの指示で秘密裏に準備を整えていた為、3日後に盛大な国葬が滞りなく取り行われた。
国葬から7日後、ウィリアムの戴冠式が行われた。エステルが知る戴冠式は、臣下や国民に祝福される盛大な式典であるが、この世界では『守護者』の指示により、家族と高位の臣下のみが立ちあう簡素なものだ。
「どうして『守護者』は戴冠式を国民に見せたくないのでしょうか?」
戴冠式が行われる玉座の間でジークフリートはウィリアムに尋ねた。
父王の葬儀直後にジークフリートも『守護者』の存在をウィリアムから知らされた。ウィリアムの長男ヘンリーがまだ成人しておらず、ジョージが体調を理由に王位継承権を辞退したため、近い将来ウィリアムに万一の事があれば、ジークフリートが次に即位する可能性が最も高いからだ。
「恐らくだが、『守護者』から与えられる『標』の内容を新王が受け入れない場合、『守護者』はその者を王と認めないのではないだろうか。その場合、次の王位継承者が再度『守護者』と会い、認められれば国民の前に王として立つのではないかと・・・」
「『守護者』に認められなければ王になれないと・・・ それほどまでに『標』とは重要な物なのですか?」
「そうらしい。実は父上から少しだけ話を聞いた事がある。それは驚くべき内容だったが、『全容』からすれば話すことがギリギリ許される『ホンの一部』だと言われたよ。『守護者』の元から帰った父上は、数日の間一言も発することなく寝室に閉じ籠られたとも聞いている。正直な所、私は王位を継ぐことは吝かではないが『標』の内容を聞くのは恐ろしい。後を継ぐ可能性があるお前にも出来る限りは話すつもりだ。覚悟しておいてくれ」
名君に足る素質を持つ兄が、そこまで恐れる『標』とは何なのだろうとジークフリートも背中に悪寒が走った。
「では行ってくる」
戴冠式を終え、ウィリアムは玉座の間の奥にある『守護者の聖域』に続くドアに向かった。
他の出席者は既に退出し、ジークフリートだけがウィリアムを見送った。
半日後、『守護者』に見送られ、ウィリアムは玉座の間に戻った。
ドアが閉まった途端、ウィリアムは膝から崩れ落ちる様に床に座り込んだ。新王自らが玉座の間から出てくるまで、何人も入室を許されない理由が分かったとウィリアムは痛感した。
「確かに『あれ』を聞いて正気を失う者も居たかもしれぬな・・・ 王座すら投げだす者が居ても不思議ではない。私とて、今どんな顔をしていることか・・・ この世界があんな恐ろしい出来事の結果だとは・・・ それにエステルにどう言えば・・・ 」
ウィリアムは天を仰ぎ、深い溜息をついた。膝がまだ震えている。当分部屋からは出られそうにないと呟き、ウィリアムは壁に凭れ掛かり目を閉じた。
☆ ☆ ☆
玉座の間の奥、『守護者の聖域』と呼ばれる場所。ウィリアムが話を聞いた部屋の更に奥、電子機器に囲まれた部屋で神官風のローブを纏った『守護者』が大型モニターに映る男と話をしていた。
「少尉、ウィリアム王はもう玉座の間に戻ったのか? 質問はしっかりした口調だったが、顔色はかなり悪かった。もう少し休ませてからのほうが良かったのではないか?」
大型モニターの向こうの男が『守護者』に声を掛けた。
「はい大尉殿、既に戻られました。かなりショックを受けている様子でしたが、足取りは思いの外しっかりしていました。私が担当した中では一番冷静だったかと」
「それは良かった。以前、私が他地区で担当した王は、話の途中で狂ったように暴れ出して、鎮静剤を投与する騒ぎでね。王の選定をやり直し、全くの二度手間だったよ。これでコンウェル王国は暫く問題ないだろう。ところで、少尉は来週の連絡便で月基地に戻るのだったね」
大尉と呼ばれた男は手元の書類を捲りながら尋ねた。
「はい、来月が妻の出産予定なので休暇を頂きました」
「そうか、それは楽しみだな。では、少尉ご苦労だった」
モニターが暗くなり、少尉と呼ばれた『守護者』は部屋の照明を消すと、音もなく開いた銀色のドアを潜った。
物語の方向が変わり始めました
この世界の謎が・・・




