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《 幕間 》

父としては娘に幸せになってほしいと願うもの

しかし、為政者としてのアーサーは・・・


「なぁ、マーリン。エステルは俺の娘に生まれて幸せなのだろうか・・・」

軍営の天幕、地面に薄い絨毯を敷いただけの寝床に、毛皮に包まり眠っている愛娘の美しい髪をそっと撫でながら、アーサーはポツリと呟いた。


「急にどうしたんだ? アーサー」

膝の上の黒猫の頭を撫でながら、マーリンが不思議そうに無二の友でもある英雄王の顔を覗き込んだ。


「俺の唯一の後継者とは言え、姫だったら普通は城で優雅に暮らすのではないか? 遠征に同行し、陣頭に立って剣を振るう必要は無いと思うのだが・・・」


「エステルは自分の為に誰かが傷付くのが許せないんだ。だから誰かの背に庇われるより、前に立って自ら剣を振るう」


「やはり、あの事件を気にしているのだろうか・・・」

アーサーが思い浮かべたのはエステルが3歳になった直後の出来事だった。

アーサーとマーリンは隣国との戦に赴いて城を留守にしていた。二人の侍女とキャメロット城の庭を散策していたエステルの前に賊が現れた。一人の侍女は助けを求めようと振り返った瞬間、矢で射ぬかれ息絶えた。


「王女を渡せ! アーサーに返して欲しくば降伏しろと伝えろ!」

賊はエステルを背に庇うもう一人の侍女に剣を突き付けた。


「嫌です! 姫様は渡しません!」

まだ13歳になったばかりの小柄な侍女は賊に背を向けるとエステルをきつく抱きしめた。


「伝言役として無事に帰してやろうと思ったが、虫の息でも話せれば構わん!」

賊はそう言うと彼女の肩に剣を振り下ろした。ザックリと左肩から背に掛けて切り裂かれた侍女の手から王女を引き剝がそうとするが、侍女は死んでも離すまいとしがみついていた。


「死にたいようだな」

そう言って賊がもう一度剣を振りかぶった時、賊の眉間を矢が射抜いた。


「大丈夫か!」


「エステル様は渡しませんでした・・・」

駆け寄って来た円卓の騎士トリスタンの顔を見た途端、侍女はそう言って気を失った。



「俺が戻った時、エステルは意識が戻らない侍女の傍らで手を握って俯いていた。あの侍女、何と言ったかな?」

アーサーは当時のエステルの悲痛な顔を思い出していた。


「クレアだよ。傷のせいで左手が少し不自由になったので、知り合いの商家に預けた。あの件だけが理由と言う訳ではないが、エステルは守られる側ではなく、民を守る為に強くあろうと決めたようだね。僕の弟子は自分の立場を誰よりも理解している。この歳にしては理解しすぎていると言うべきだが、他の生き方をエステルは選ばないだろう。アーサーと民が笑っていれば、エステルは幸せなのさ。だから、僕はこの弟子の笑顔の為にも君を護るのさ」

マーリンは友に笑顔を向けた。


「俺や民の為ではなく、自分の為に生きて欲しいと望むのは『王』としては失格なのだろうが、父親としては不憫に思う・・・ エステル、せめて良い伴侶に巡り合えると良いな」


天使の様な娘が眠る両側で、二人の英傑が語り合うのを、アベルは欠伸をしながら眺めていた。




「あの時にはもう戻れないな・・・ そろそろ用意をするか」

マーリンは立ち上がり、ティターニアに会いに出かけた。



マーリンは何をしようとしているのか・・・

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