《 環状列石 》
イギリスにある「ストーンヘンジ」
魔法使いマーリンが作ったという伝説をご存じでしょうか?
久しぶりに巡って来た大月の夜、エステルはマーリンに謀反の顛末を話した。
「『王』なんて苦労ばっかりなのに、謀反を起こしてまでなりたいなんて・・・」
エステルがボソッと呟くとマーリンが可笑しそうに笑った。
「その『王』になろうと、日々努力をしていたのはどこの誰だったかな?」
「だって、父上があれほどご苦労なさって築いた国よ。私が無能なばかりに皆に辛い思いはさせられないじゃない・・・」
フンと横を向いて唇を尖らせるエステルに、若き日のアーサーの面影をみたマーリンは苦笑いした。
(アーサーが逝ってしまった後もエステルさえ居てくれたら、アルビオンは今とは違う国になっていただろうに・・・ 僕がヘマをしたばかりに民には苦労を掛けてしまったな)
「どうしたの?マーリン」
黙り込んでしまった師匠にエステルが声を掛けた。
「いや、何でもない。ところでエステル、王子妃になる気はないのかい?」
「はぁ? 何言っているの! ここでの私は一介の治療師よ。それに・・・」
思いがけない問い掛けにエステルはたじろいだ。
「こちらに帰るのを諦めきれないか・・・ すまない、そこが単にアルビオンの未来であったのなら何とかなったんだが、世界を跨ぐとなると全く手立てが思い浮かばないんだ」
マーリンの思いがけない言葉にエステルは驚いた。
「単に時間軸の問題なら手立てがあるの?」
「あぁ、別世界では意味が無いから話していなかったね。エステルが姿を消して20年後に行方不明者が沢山出たと話しただろう。あの時に考えたんだ、僕が探し出せるより遥か未来に君が飛ばされていた場合、帰る方法を伝えることが出来ないだろうかってね。そこで『ある物』を作った。キャメロット領の西の端にソールズベリー平野があっただろう。あそこに巨大な石を円形に並べて魔方陣を作ったんだ。君が見たらきっとアーサーの円卓を思い浮かべると思ってね。一番大きな石の隣に少し赤味がかった小さめの石を置いた。その中に魔方陣の起動方法を書いた石板を入れてある。あれなら数千年はそのままだと思うよ」
「大きな石が父上で、隣の赤いのが私・・・ 見たらきっと気付くわね」
エステルは巨石群の様子を思い描いて眼を輝かせた。
「対象物を指定して時間を戻す魔法を覚えているだろう、あれの応用だ。僕の魔方陣とヴィヴィアンの加護の力があれば戻れるはずなんだ・・・ 」
エステルが居る場所に新たに魔方陣を作り、ヴィヴィアンの加護を全て注ぎ込んだとしても、時空のみならず世界をも越える魔法を構築できそうもない。マーリンはやり切れない思いにかられた。
「ありがとうマーリン。私が消えてから、いろいろやってくれたのね」
諦めず手を尽くしてくれていた師匠にエステルは感謝した。
「で、話を戻すけど、王子妃にはならないのかい?」
マーリンが悪戯っぽい笑顔で再び尋ねた。
世界を繋ぐ鏡が揺らぎ始めた。
「あ、もう閉じちゃうわね。マーリン、またね!」
誤魔化すようにエステルは手を振って鏡の前から姿を消した。
(あの子はもう決めているんだろうけど、僕に帰らないとは言い辛いのだろうな)
マーリンは閉じた鏡に向かって苦笑いした。
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主人公『エステル』の名付けについて「活動報告」に記載しました
よろしければ覗いていただけると、小さな「布石」を感じ取っていただけるかも




