《 第二王子の決意 》
先日の謀反でジョージだけが狙われなかったことで、『黒幕はジョージ殿下なのでは』との憶測が臣下の一部で囁かれていた。
「ジョージの耳に届いているとは思わないが、もし、誰かが口を滑らせたら気に病むだろう。すべてを話してやった方が良いのではないか?」
ウィリアムから調査の詳細を聞いたエドワード王はジョージを案じた。
「マリー様が城を去られた時の事情を私は詳しく存じません。どう説明したらよろしいでしょうか」
「ジョージの母マリーは自分の意思で里に下がったのだ。留まるようにと私も王妃も止めたのだが、王妃が回復したのなら自分が城に留まる必要は無いと言ってな。その時は、本人も身籠っているとは気付いていなかったのだろう。知らせてくれれば、私も王妃もマリーと子を蔑ろにはせぬと分かっていただろうに・・・ やはり、側に置くべきであったな」
エドワードは去ると告げに来た際のマリーの凛とした顔を思い出し、後悔の念を新たにした。
「では、フィリップの事はどうなさるおつもりなのですか?」
「お前の調査ではフィリップはカーライルの謀反には関係してはおらぬのだろう? 本人が望む暮らしをさせるつもりだ。私を恨み、今後刃を向けてこようとも、それまでは好きにさせる」
王としては懸念材料は事前に取り除くべきだろうが、これまで苦労を掛けたであろう息子を思うと非情にはなれなかった。
「畏まりました。では、ジョージと話し合って参ります」
ウィリアムは父王の気持ちを汲み、執務室を辞した。
ウィリアムはガラハッド侍医長にジョージの診察を頼み、終わる頃を見計らって部屋を訪れた。寝室のドアの前にガラハッド侍医長が待っていた。
「侍医長、ジョージの具合はどうかな?」
「はい、今日はご気分が良いご様子です」
会釈しながらガラハッドがウィリアムに答えた。
「少し面倒な話をしなければならない。体調を崩すかもしれないから、少し控えていてくれるか」
「畏まりました」
ウィリアムが扉の向こうに消えるのをガラハッドは複雑な表情で見送った。
「兄上、ぜひ私にやらせて下さい!」
全てを聞いたジョージは決意に満ちた顔でそう言った。
「カーライル伯を追求するには物証が足りないのでしょう? ならば、罠に掛けるしかありません。私の弟を利用するとしても、母亡き今、弟の血筋を証明する物証はない筈。私と瓜二つだと主張するつもりかもしれませんが、私の顔など知っている者の方が少ないのです。そんな弟を使うより、私自身がカーライル伯と共謀すると伝えたら、きっと飛びついてきますよ」
ジョージは何時になく力強い表情で自身の考えを説く。
「それはそうだが・・・ 確かに、お前が誘いをかければ乗ってくるかもしれん。だが、カーライルとどうやって連絡を取る? のこのこと王城には来ないだろう」
決意を秘めたジョージの視線にウィリアムは僅かにたじろいだ。
「策があります。兄上、カーライル領内に療養できるような場所はありませんか?」
「たしか海辺の町に湯治場があったな。カーライル伯の別荘もあったと思うが・・・」
以前カーライル伯爵領を視察した時、別荘に誘われたのをウィリアムは思い出していた。
「では、エステル殿を伴って療養に行きたいので、別荘を使わせて欲しいと手紙を書きましょう」
「何故エステル殿を伴うのだ? カーライル伯はエステル殿の命を狙っているのだぞ」
ジョージの言葉にウィリアムは驚いた。
「だからですよ。謀反の障害だったエステル殿を既に味方につけたと言えば、私の事を信用するでしょう」
ジョージは力説する。
「確かにな・・・ だが、後顧の憂いを消す為に、お前の意に反してエステル殿に危害を加えるかもしれんぞ」
「勿論、油断はしません。私にとってもエステル殿は大切な人です。護衛は十分付けて下さいますよね、兄上」
ジョージはどうあっても実行する気だ。
「それは手配するが、エステル殿にまず相談しないとな。あと、ジークに知れたらついて行くと言い出しかねん。あいつには黙っておいた方が良さそうだな・・・」
ウィリアムは一番厄介なのはジークだろうと案じた。
「ジークに恨まれるようなことは絶対にしませんよ。例え私の命に代えても」
ジョージは真顔で断言した。
「ジョージ、お前もジークも大切な弟だ。そして、もう一人の弟もな。万全の態勢を取ろう」
ウィリアムは微笑むとジョージの肩をポンと叩いて寝室を後にした。
「侍医長、待たせてすまなかった。ジョージは大丈夫なようだ」
スッキリとした表情で去って行くウィリアムの後ろ姿を、ガラハッドは安堵の表情で見送った。




