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《 黒幕 》


エステルの暗殺を請け負った組織の(かしら)は部下の死体を片付けると、手紙を鳩の足に着けて飛ばした。

エステルはシルフィーに見張りを頼み、酒場から少し離れた宿に入った。

翌朝、鳩が戻って来たとシルフィーから連絡が入った。返事の内容は『北の丘で待つ』


(かしら)は護衛2名を連れ酒場を出ると馬で北に向かった。エステル達は距離を取り、シルフィーが(かしら)に付けた『粉』の痕跡を追う。


先行するシルフィーから知らせがミレニアに入った。

【丘は見晴らしがよく、付近に身を隠せる場所が無いそうよ。かなり手前の林で待つようにって】


【会話の内容はシルフィーのお陰で聞けるけど、相手の顔が見れないわね・・・】


【『粉』をかけておけば大丈夫よ。街中でなら近づくことも出来るでしょ】


【貴女たちの『粉』って本当に便利よね~ 薬草で同じような物が作れたら良いのに】


丘の麓に豪華な馬車が停まっており、頂上にフードを被った男が一人、少し離れて5人ほど体格が良い者が控えている。(かしら)も護衛を中腹で待たせ、一人で登って行く。

短い会話の後、フードの男は馬車に乗り街へと戻って行った。勿論、シルフィーが馬車の屋根に乗っている。街の手前でシルフィーは風で砂塵を巻き上げ、馬の視界を遮った。その隙にエステルの馬は道を外れて馬車を追い越し、街の入り口に先回りした。


苛立つ馬を御者が宥めて、馬車が街に入ってきた。大通りを暫く進み馬車が入って行ったのは一際大きな屋敷だった。屋敷の前は人通りが多く、馬を停めていても怪しまれない。エステルは人ごみに紛れてそっと門内を窺った。

馬車から下りた男はまだフードを被っており顔は見えないが、出迎えた執事らしき男が『お館様』と呼んだ。その時、黒猫が男のフードに飛びつき顔が露になった。


「アベル!?」

エステルが驚いて鞄を覗くと、そこはもぬけの殻だった。

(無茶するわね、アベル。でも、お陰で顔を確認できたわ)


アベルは執事に追いかけられたが、無事に門の外に逃げ出した。


(カーライル伯爵・・・ 予想はしていたけど、当たって欲しくなかったわ)

エステルは溜息をついた。カーライル伯爵とは面識があり、ある理由から謀反に関わっているのではと予てから怪しんでいた者だったからだ。

黒幕の正体が分かり、屋敷のそばを離れようとした時、若い男が屋敷から出て来た。


(えッ!! どうして!)

エステルは我が目を疑った。それはジョージ王子だった。いや、違う。よく見ると血色が良く、ジョージより髪が長い。

(そうよ、彼の筈がない・・・ だったらあれは誰?)


「伯爵、何かあったのですか?」

ジョージそっくりの男がカーライル伯爵に声を掛けた。


「フィリップ、話は中で。外に出る時は顔を隠せと言っておるだろう!」

伯爵はフィリップと呼んだ若者の背を押して、急いで屋敷内に姿を消した。


シルフィーが二人の話を聞かせてくれたが、フィリップと呼ばれた若者は謀反や暗殺計画については知らされていないようだった。

エステルは街はずれでアベルを拾い上げると王都へと馬を走らせた。帰って良いと言ったが、ミレニアとシルフィーも護衛がてらついて来ると言う。


【ねぇ、エステルはあのカーライルって伯爵を怪しいと思っていたの?】

肩に乗っているミレニアが尋ねた。


【うん、伯爵は第二王子の母君の従兄弟にあたる人でね。彼を王にして、実権を握るつもりなのではと考えていたの。でも、少し違うみたいだわ・・・】


王都が近づいて来た。

(どう話そうか・・・ 物証が何もないのだから)

エステルは溜息をついた。




「エステル殿、心配していたのだ! 砦の兵が貴女を見失ったと連絡してきた。何があった!」

エステルは目立たぬように、通用門でウィリアムの側近であるアレックスに面会を申し入れた。門のそばの控室で待っていると、息を切らしてウィリアム本人が駆け込んで来たのだ。


(走ったりして大丈夫なのだろうか?)

エステルは先日の怪我の具合を問いたいと思ったが、心を鬼にして低い声で切り出した。


「殿下、内密でお話ししたいことがございます」


ウィリアムは一瞬驚いた顔をしたが、頷くとエステルを伴って執務室に向かった。フードを深く被り後ろを歩くエステルはウィリアムの足元を見ていた。少し体重の掛け方が不自然だが、歩行に問題はなさそうだ。

執務室に入る際、ウィリアムは護衛兵にも下がるように合図をした。


「エステル殿、何があったのだ」

ソファーに座り、エステルにも向かいの席を勧めてウィリアムが問いかけた。


「殿下、まずお詫び申し上げます。私に付けて下さった護衛の方を撒いた事、全て私の責任です。どうか、彼らにお咎めなきようお願い致します」

エステルはフードを外し深く頭を下げた。隣室に気配がするが、アレックスだろう。彼には聞いておいてもらった方が良い。


「まず、説明してくれ」


エステルはラスゴーで不審な者達が治療院を見張っていた事。彼らを森に誘き出して負傷させ、アジトへ逃げ帰る彼らを尾行したことを話した。


「つまり、兵士らが巻き添えで傷つく事を避ける為に故意に撒いたのだね」


ウィリアムの問いにエステルは答えずただ苦笑いした。


「分かった。フィンレー将軍に『処分無用』と言っておこう。で、上手くいったのか?」


「はい。仕事を請け負った組織のアジトと依頼主と思われる者を確認致しました。場所はカーライルです」


「カーライルか・・・ やはり『黒幕』は伯爵か」

ウィリアムも懸念を持っていたようで、エステルの言葉に頷いた。


「はい、カーライル伯のお顔をこの目で確認致しました。 ただ、もう一つ重要なことが・・・ あの、ジョージ殿下の母君は里に帰られて直ぐに亡くなったのですか?」

エステルは若者の事を話す前に確認をしておきたかった。


「いや、1年以上は経っていたと思うが・・・ この件に何か関係があるのか?」

謀反に無関係な問いにウィリアムは面食らったようだった。


(1年・・・ なら、可能性はある)

エステルは覚悟を決めたように話し出した。

「カーライル伯の屋敷にジョージ殿下と瓜二つの若者が居りました。弟君ではないかと推察致します。カーライル伯はあの青年を王位に即けるつもりではないでしょうか」


「!!」

思いがけないエステルの言葉にウィリアムは言葉を失った。


「先日の謀反で陛下と両殿下を亡き者にしてジョージ殿下を即位させても、親類とは言えカーライル伯が必ずしも実権を握れるとは限りません。そのような不確かな状態で謀反を起こすのは無謀ですが、もう一人の王子の後見人であれば・・・ お体の具合が優れないジョージ殿下よりも弟君が適任だと、カーライル伯が強く押せば家臣たちも従うのではないでしょうか」


「ジョージに弟が・・・ なぜ誰も気付かなかったんだ」

ウィリアムは頭を抱えた。


「『フィリップ』とカーライル伯は呼んでおりました。まずは、お調べ下さい。あと、暗殺組織のアジトの地図と(かしら)の人相書きです。カーライル伯は私への攻撃は暫く見合わせると伝えていました。当面動きは無いと思われますので、私の護衛は解除して下さい」

エステルは地図等をテーブルに置き、暇乞いをした。


「エステル殿、ジークも心配していた。顔を出してやってはくれないか?」

直ぐにも王城を出ようとするエステルをウィリアムが引き留めた。


「いえ、王城内にもカーライル伯の密偵が居るでしょう。私がこのタイミングで王城に居ては警戒されます。通用門の面会記録も削除し、門番にも口止めして下さい。ジークフリート殿下には、ただ無事が確認できたとだけお伝え下さい」

エステルは硬い表情でウィリアムに進言した。


「そうか・・・ 分かった。気をつけて帰ってくれ」

この状況ではジークには嘘をつくしかないかとウィリアムは心の中で溜息をついた。



「アレックス、聞いていたな」

エステルが退出すると、ウィリアムは隣室に声を掛けた。


「はい、カーライル領に放っている密偵からはそのような情報はありませんでした。ただ、別邸に貿易商が長く滞在しており、その息子らしき者が外出時、必ず顔を隠しているとの報告はありましたが・・・ 顔を確認できず申し訳ありません」

隣室から現れたアレックスが頭を下げる。


「いや、ジョージの顔を知っている者は城内でも限られる。エステル殿だからこそ気付けたのだ。直ぐに調査を開始してくれ」


「暗殺組織についてはどういたしましょうか?」


「暫くは監視のみで良い。直ぐに潰してはカーライル伯が警戒する。エステル殿の警護も解除して良いだろう」

 

「そうですね、あの方なら心配ないでしょう」

アレックスは口角をやや上げた。


(あの方か・・・ アレックスにそう呼ばせるとはな)

ウィリアムはフッと頬が緩んだ。




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