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《 第二王子 》

これまで姿を現さなかった『第二王子』

どのような人物なのか・・・


(あまりお二人に似ておられないな・・・)

エステルが第二王子ジョージに会った第一印象である。


「貴女が噂のエステル殿か、確かに見事な赤髪だな」


第二王子ジョージはベッドに上半身を起こしてエステルに微笑みかけた。プラチナブロンドの髪にパープルの瞳。濃い金髪にブルー系の瞳のウィリアムとジークフリートとはかなり違う色味だ。ジョージの顔色は青白かった。ここ数年はほとんどベッドから離れられないと聞いていた通り、かなり衰弱した印象を受けた。


「ジョージ殿下、エステル殿は多くの患者の診察をされており、症状に合わせた薬の調合を得意とされています。ウィリアム殿下が是非ジョージ様の診察をとお手配なさいました」

同行したガラハット侍医長が恭しくジョージにエステルを紹介する。


「そうか、兄上にはいつも心配をかけ申し訳なく思っている。エステル殿、よろしく頼む」

ジョージの答えに、側付きの侍従がガウンを脱がせた。


「エステルと申します。では、失礼いたします」

エステルはまず両手首で脈を診ると掌や爪を調べた。

ジョージが不思議そうな顔をしたので、エステルは優しく微笑み返すと、続いて夜着の上から聴診器を当て心音を聞いた。


(左右の脈拍が僅かにずれているし、爪の色も悪く手も冷たい・・・ 不整脈もあるし心音も不定期に雑音があるわね・・・)


「殿下、肺の診察もさせて頂けますか?」

エステルは笑みを絶やさず、肺の診察を申し出た。


「肺もか? 特に違和感はないのだが」

ジョージは少し不安げな声を出した。


「心臓と肺は密接な繋がりがあります。念のためによろしいでしょうか?」

重ねてエステルが了解を得ると、ジョージは仕方がないと言うように頷いた。


(雑音は無い。空気は十分に取り込めているようね)


「有難うございました。診察は以上でございます」

エステルは深く頭を下げてベッドから離れた。


「で、どうであった?」

ジョージがガウンを羽織りながら声を掛けた。


「脈がやや不安定なようでございます。胸に痛みや不快感はございませんか?」


「痛みを感じることはない。時折、胸が重いような気がするが、不快感と言うほどではないな」


「分かりました。現在お飲みの薬を侍医長から伺っておりますが、追加で血行改善に役立つ物をご提案できるかと存じます」

エステルはふんわりとジョージに微笑みかけると、深く礼を取り侍医長と共に部屋を出た。



「どう思われますかな?」

侍医長の執務室に戻るなり、意見を求められた。


「左右の腕で脈に差異がある為、どこか血管に不具合があると思われます。心臓自体も雑音があり、機能的な異常があるようですね・・・ ご存じと思いますが、心臓の内部は四つに分かれ、そのつなぎ目には小さな弁の様な物があります。その部分がどう働くのかは不明ですが、雑音が酷かった患者を解剖した際、その弁が変形していたり、硬くなっていたと師匠から聞いています。ジョージ殿下もその部分に異変があるのではと思われます」

エステルは2点の不具合を指摘したあと、顔を曇らせて言葉を続けた。


「ただ、あの程度の雑音で寝たきりになる程とは思えないのですが・・・」


侍医長は大きく頷いた。

「私と同じ見立てですな・・・ 実は心の病が影響しているのではと思っておりますのじゃ。その点についてはウィリアム殿下からお聞きくだされ」


二人は報告の為にウィリアムの執務室に向かった。



「そうか、エステル殿も侍医長と同じ見立てか・・・ 」

ウィリアムは侍医長を下がらせるとエステルに椅子をすすめた。


「ジョージに会って気付いたと思うが、あれの母親は私とジークの母とは違う」

少し長い話になるがと前置きしてウィリアムは語り始めた。


王妃ヴィクトリアがウィリアムを生んだ数か月後、原因不明の病にかかった。急激な体調悪化に、王妃は第二夫人を娶るようにと王に勧めた。万一の場合、幼いウィリアムの事を案じたのか、幼馴染の遠縁の娘を推挙したらしい。王はなかなか同意しなかったが、王妃が懇願した為、その娘を王妃の侍女として迎え、1年ほど後にジョージが生まれた。

だが、ジョージが2歳の誕生日を迎える少し前に現れた異国の治療師によって事態は急変する。その治療師は王妃を診察するなり、解毒すればすぐに回復すると言い、解毒薬を調合した。みるみるうちに王妃は回復し、王はジョージを第二王子として引き取りはしたが、その母である娘は里に帰してしまったのだ。


「私の母は残されたジョージを我が子同様に可愛がったが、父王は少しよそよそしいと私も感じていた。幼いジョージもそれを感じ取っていたのだろうか、5歳頃から部屋に閉じこもり王妃の来訪も拒むようになった。7歳頃から動悸と息切れを訴えるようになり、前の侍医長は生まれながらの心臓の病と診断し、治療法はないと父王に報告した」


「母君から引き離され心細い思いをされた上に、生まれつきの病と言われては気力を無くされても仕方ないですね」

エステルが辛そうに答えた。


「あぁ、母上も随分と悩んでおられたが、ジョージは心を開いてくれなかった」


「ジョージ殿下の母君はどうされているのですか? 可能であれば母君のそばで療養なされば改善の可能性もあるのではないかと思いますが・・・」


「実は、里に戻って程なく亡くなったらしい。表向きは事故死と言うことになっているが、自殺だったのではないかとの噂もあった・・・」


(それでは、王妃様も猶更悩まれたことだろう・・・)

辛そうなウィリアムにエステルは声を掛けられなかった。


「エステル殿には面倒をかけたな、済まなかった。侍医長と相談して少しでも症状が改善するように薬を考えてやってくれ」

いつもの笑顔に戻ってウィリアムはエステルを送り出した。




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