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《 情報交換 》


「では、エステル殿はあの獣を見たことがあったのか!」

アレックスから獣討伐の一部始終を聞いたウィリアムは直ぐにエステルを王城に呼び出していた。


「向こうの世界で一度だけ対峙したことがあり、ブラックドッグと呼ばれていました。非常に硬い毛が体を包み、矢はもちろん角度が浅いと剣も弾き返します」

エステルはキャメロットでの討伐時、ランスロットの剣が弾き返されたのを思い出していた。


「だから眼を射て視界を狭め、毛が少ない胸腹部を狙ったのだな。砦の兵だけだったら討伐は難しかっただろう。ところで、ジークの事はすまなかった。危うく貴女が犠牲になるところだったと酷く落ち込んで、未だに思い悩んでいる。だが、もしかしたら魔法で危険は回避できていたのか?」

ウィリアムは少し言い難そうに尋ねた。


「はい、ジークフリート殿下を後方に投げた後、魔法で魔獣を停止させました。多くの方の前で魔法を使うのは躊躇われましたが、あの時は他に選択肢が無くて。幸い、アレックス殿が飛び込んで来られたので、皆がそちらに気を取られ、魔獣が宙に浮いた状態だったとは気付かれなかったようです。ジークフリート殿下の視界からも外れていましたし。アレックス殿は何か仰っていませんでしたか?」

エステルは正直に状況を説明した。


「確かに違和感を覚えたとは言っていた。彼のことは気にしなくて良い、私の許可なく他言することはないから。ところで、演習地で兵を襲ったのもアレだろうか? 被害者に残っていた歯型と回収した獣の歯型がよく似ていたのだが」


「恐らく同じ種だと思います。ただ、同じ個体かと言われると、私は違うと考えます。 あくまで仮説なのですが、魔獣が多く生息している場所と、何らかの事情で『通路』が繋がったのではと。この世界の過去なのか、私が居た世界、またはもっと別の世界と言う可能性も・・・ いずれにしても、演習地の獣が痕跡を残さず消えたのは、傷を負った為にその『通路』に逃げ込んだからだと思うのです。今回は国境までは痕跡が在ったと聞いています。アイルレア側で『通路』が開いたのではないでしょうか」

エステルは以前マーリンと話し合った仮説を交えて話した。


「『通路』か・・・ 実際にエステル殿がここに居ることを考えると突飛な説とは言えない。別世界と通じる可能性があるのなら、遠い過去と繋がる可能性も無いとは言えない。だが、何時どこに開くか分からないのでは警戒のしようがない。どう対策したら良いのだろうか」

為政者として、民を護る責務を担っているウィリアムの苦悩は手に取るように分かった。



エステルがまだ幼い頃、父アーサーの馬に乗り領内を巡回している時だった。領民達は仕事の手を止めると満面の笑みで挨拶をし、アーサーたちを見送った。


「みんな父上の事が大好きなのですね!」

エステルは振り返って偉大な父に笑いかけた。


「エステルはそう思うか? 皆は私個人にではなく、平和で安定した暮らしを与えてくれる領主に笑いかけているのだよ。だから、そうなろうと私も常に努力をしている。お前も皆に笑いかけてもらえるようにしっかり勉強しなさい」

アーサーは幼い愛娘の美しい髪をそっと撫でた。



父アーサーの言葉を思い出しながら、エステルはウィリアムの髪を眺めた。

(やはり似ているな・・・)


「エステル殿、どうかしたか?」

少しぼんやりしていただろうか、ウィリアムが心配そうにエステルの顔を覗き込んでいた。


「いえ、何でもありません。殿下、過去の目撃情報は集められるかもしれません、少しお時間を頂けますか。あと、別件でお尋ねしたいことがあるのですが・・・」

エステルはライリーから聞いた事をアエネーイスに相談しようと思っていた。あと、この機会に前々から疑問に思っていたことを思い切って尋ねてみることにした。


「私がこの世界に来て一番驚いた事は、町や村に防壁や壕が無い事でした。この世界では、なぜ他国からの侵略に備える必要がないのですか? 歴史書を読んでも300年前のアルザー王以降、大きな戦は起こっていません。領地を広げたい、隣国の資源を手に入れたいなど、欲望を持つ国はないのですか?」

父アーサーと共に度々戦に出ていたエステルにとって、それは最大の疑問だった。


「ああ、そのことか。私も子供のころ疑問に思っていた。15歳になった頃父上に聞いたのだが・・・」

そう言ってウィリアムが話したことはエステルには到底信じられないことだった。


すべての国に為政者だけがその存在を知る『守護者』と言う組織があり、為政者が交代すると『守護者』から国を導く『標』を授けられると言う。その第一が『決して国境線を変えてはならない』と言う事。経済的に他国を支配下に置いている国はあるらしいが、王を廃して統合することは出来ないらしい。その為、各国は対外的な軍事力を持たず、強力な武器の開発もしない。国内の治安維持を目的とした小規模な軍隊しか必要としない為、農業従事者が増え、気候が安定している限り国の安寧は保たれると言う。


「何故すべての国が『標』を実直に守るのか、未だに不可解ではあるのだが、私自身が王にならなければ全てを知ることは出来ないらしい。父が私に話した事自体も『標』に抵触するスレスレらしいから」

限られた王族しか知らない秘密をウィリアムは迷うことなくエステルに話した。


「そのような極秘事項を私に話されて良かったのですか?」

話の内容以上に、率直に話してくれたことにエステルは驚いた。


「エステル殿は『魔法』と言う秘密を私に明かしただけでなく、露見することも厭わずジークを救ってくれた。そんな貴女に隠し事はしたくないからね」

ウィリアムはエステルの目をまっすぐに見て微笑んだ。



(『守護者』に『標』・・・ すべての国を従わせる組織だなんて、一体どんな力を持っていると言うのかしら・・・)

ウィリアムに退出の挨拶をし、扉に向かったエステルは得体が知れない恐怖に心が震えた。



『守護者』『標』 この世界を支配するものとは・・・

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