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《 幕間 アベル ・ ジークフリート 》


《 幕間  アベル 》


僕の(あるじ)はなかなかの苦労人だ。

偉大なアーサー王の唯一の後継者にして、類い稀な美しい容姿を持って生まれた姫であれば、さぞかし『蝶よ花よ』と育てられたと思われがちだが、それはとんだ見当違いだ。

主は幼い頃からアーサー様と共に民の暮らしを目の当たりにしてきた。上に立つ者の責任と覚悟をアーサー様の背を見て学び、常に国と民を第一に思っていた。武術と医術も全てはアーサー様を支えて国と民に尽くす為。主が自分の為に我儘を言うのを僕は見たことが無い。


さらに主は、人と深く接することを避けている。臣下や民と接する時はいつも穏やかな笑顔の主だが、特定の者と親しくするのは為政者として避けるべきだと思っているようだった。それはこの世界に来てからも変わらなかった。今は自由な身分なのだからと僕は思うのだけど、いずれは自分の世界に帰るとの思いと、自分はこの世界にとって『異端者』であると言う思いから、一線を引いている様に見える。

だけど、あのウィリアム殿下には何か思う所があるように感じる。単にアーサー様に少し似ていると言うだけではないような・・・


アベルはウィリアムの後ろ姿を眺めるエステルを見つめてそっと溜息をついた。



《 幕間  ジークフリート 》


私は武術が苦手だ。

弓はまだ良い。的に集中する一瞬『無』になれるのは気に入っている。10射中6射は的の中心付近を射抜くことが出来るから、そこそこ及第点ではないかと思っている。

だが、剣はどうしても好きになれない。訓練用の刃を潰した剣とは言え、相手に当てるのは気が進まない。そんなことを言えば、いざ襲われた時に身を守ることすら出来ないぞとウィリアム兄上に叱られた。騎士団との訓練では、相手は遠慮して打ち込んで来ないうえ、私の攻撃は彼らにとっては避ける必要も無いほどの単純なもので打ち合いにもならない。こんな訓練、何の役に立つのかといつも気が重かった。


エステル殿が弓と剣の指南役になり、まず弓の訓練をすることになった。

半数以上、的のほぼ中心を射抜けた。少しは褒めてもらえるかと思ったが、エステル殿は困ったような顔をして私に言った。王族が弓を使うのは、祭祀が多い。外すわけにはいかない場面だから、百発百中でなければならないと。

また、万一出先で獣に襲われた場合でも、確実に仕留める自信が無ければ護衛の者に任せるべきだと。手負いの獣を野放しにしては返って民が迷惑するからと言うのだ。


更に剣の訓練は、これまでとは全く違っていた。彼女が最初に言った言葉は『敵を倒す必要はない。ただ致命傷を避け、防御に徹し時間を稼ぐことのみ考える』だった。


「王族たるジークフリート殿下には常に護衛がいます。単独の際に敵と相対したとしても、護衛が駆けつけるまでの時間を稼げば良いのです。例え手傷を負っても致命傷を避け、時間を稼ぐ戦い方を身につけるのです。敵を切り伏せるのは殿下の役目ではありません」

強者だけが剣を握るのではなく、自ずとその人に適した戦い方があると説き、ジークフリートには防御術しか教えなかった。


私はずっと『脆弱な王子』だと馬鹿にされていると思っていた。勿論、ウィリアム兄上のように近衛騎士とも互角に打ち合える腕があるのが理想だろうが、私には私なりの戦い方があるのだとエステル殿に教えられ、眼から鱗が落ちた心地だった。


とは言え、エステル殿の鋭い攻撃を受け流すのは非常に難しい。勿論、私が避け損なってもエステル殿は寸止めで私に剣を当てはしない。それが惨めで、庭園での二人きりの訓練を申し出た。だがあの日、エステル殿が庭園から飛び降りた経緯を『詮索するな』と兄上から言われた時、寸止めされた時以上に惨めに感じた。


ちょっとした反抗心だったが、その後は騎士団の訓練場で稽古をつけてもらうことにした。必死でエステル殿の剣を躱す私を、騎士達は黙って見ていた。だが、以前とは何か雰囲気が違う。馬鹿にしていると言うより、興味深そうに見ている感じだ。最終日の訓練の後、数人の騎士がエステル殿に話しかけてきた。


「随分と上達されたと思われませんか?」

エステル殿の声が風に乗って聞こえてきた。


思いがけない言葉に振り返ると、「我々は考え違いをしていたようですね・・・」そう答える騎士達に微笑むエステル殿の顔はとても優しかった。少しは認められたのかと頬が緩んだ。


だが、残念なことがある。最後まで私に対する際は『教師』の顔で、微笑んですらくれなかったエステル殿。勿論、武術訓練なのだから真剣に行うべきだ。しかし、近衛騎士とは打ち合いながらも時折笑顔が垣間見える。彼らの鋭い攻撃を笑顔で躱すエステル殿を見て、少なからず嫉妬心が沸いた。私がもっと強くなったら、私にも笑いかけてもらえるのだろうか・・・



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