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《 違和感 》

今回は少し短いですが、伏線ともいえる章です


「流石に王家の蔵書室ね、ここでなら必要な情報が揃いそうだわ」


王への謁見を済ませ、ウィリアム王子から第三王子ジークフリートへの武術指南を直々に要請されたエステルは今、王城内の蔵書室に居る。


事故の詳細を伏せる代わりに、武術指南を引き受けざるを得なかったエステルは、二つの条件を提示していた。

一つ目は期間。一か月のみで、その間ラスゴーの治療院に代理の治療師を派遣すること。

二つ目が王城での図書の閲覧だった。


まず、300年前の歴史を中心に本を探したが、作者は違えど書かれた内容は『ブリタニア記』と大差ないものばかりだった。やはり、当時アルビオン統一を目指した王はアルザー・ドラゴニアと記されており、魔法について触れている本は全く無い。それ以外は円卓の騎士や宝剣エクスカリバーなど、エステルが知るアルビオンそのものが描かれていた。


「どうしてかしら、ここは別の世界なのに300年前までの記述は、私が居た世界と瓜二つ・・・ 父上の名と魔法以外は」


午前中と午後の1時間ずつを第三王子の武術訓練に費やす以外は、蔵書室に籠りきりの生活を送るエステルをフィンレー将軍が訪ねてきた。


「随分熱心に調べ物をしている様だが、何を調べておるのだ?」

フィンレーはエステルの手元の本を覗き込んだ。


「亡き父が歴史に興味を持っていて、アルザー・ドラゴニア王の事をよく調べていたので・・・」

エステルは悪いとは思ったが適当に誤魔化した。


「その時代の事ならここの蔵書以上に詳しい物はないだろう」

フィンレーがそう言ってパラパラと本をめくり机に戻した際、本の裏表紙が偶々開いた。著作年は今から250年前。


(あれ!? 確かさっきの本も著作年は同じだった筈)

エステルは違和感を覚えて卓上の10冊ほどの本の裏表紙を開いた。1年ほどの差はあるもののほとんど同じ時期に書かれている。

エステルは弾かれた様に本棚に走った。

急に席を立ち走り出したエステルに驚いたフィンレーが後を追うと、やや乱暴に本の裏表紙を確認する姿を目にした。


「エステル殿、許可が出ているとは言え貴重な本なのだぞ、もう少し丁寧に扱って欲しいものだな」

何時にないエステルの様子にフィンレーは驚いた。


「あっ 済みません! つい興奮してしまって・・・」

我に返ったエステルが詫びた。


「一体何に驚いたのだ?」


「これらの本、250年以上前に書かれた物が一つもない。古代の歴史を記した本なのに、おかしくないですか?」


「なに?」

フィンレーも数冊の著作年を確認した。


「確かに・・・ 不思議だな、これより前の著作は何かの理由で焼失したとか・・・」


「と言うと?」


「これは単なる可能性だが、大きな火災や天災で失われたとかな」


「では、250年前に何か大きな災害があったと・・・ しかし、そのような記載はどこにもなかったと思いますが」

エステルは本棚からその頃の歴史を記した本を取り出しページをめくる。


「ああ、俺も聞いた事がないな。だが、250年前、本をどうやって管理していたかもわからん。偶々その場所が被害にあっただけで、歴史書に記すほどではなかったのかもしれんだろう。 ところでエステル殿、そろそろラスゴーへ帰還するのだろう? その前に近衛騎士団で練習試合をして欲しいのだ。今から打ち合わせは出来ないか?」


著作年についてまだ納得は出来かねたが、エステルは渋々フィンレーと共に蔵書室を後にした。




「さて、引継ぎの用意は出来たわね。それにしても、もう1年なのだからそろそろ開放してもらいたいものだわ・・・」

相変わらず、ウィリアム殿下からは3ヶ月おきに『招待と言う名目の出頭命令』の使いがやってくる。お陰でこの1年の4分の1は王都で暮らす羽目になった。

当初不安がっていたエステルの患者たちも、王室付きの医官がやって来る為、最近は笑顔でエステルを送り出すしまつだ。


引継ぎ書を机にのせると、エステルはリュックを担ぎアベルを抱き上げた。


「ご挨拶に行っておかないとね」

エステルは人目につかぬ道を選び、北の山へと向かう。

月が昇る頃、森を抜けいつもの草原に着いた。今夜は大月ではない為、アエネーイスの姿は光の中にありハッキリとは見えない。


【こんばんは、アエネーイス様。また一月ほど留守に致しますのでご挨拶に伺いました】

エステルが光に向かって首を垂れる。


【来週あたり大月になると思っておったが、留守とは残念だな。マーリン殿に何か伝言はあるかや】

残念そうな声が返ってきた。


【元気で過ごしているとお伝え下さい。あ、それから・・・ 私が消えた後、何か大きな災害や不可思議なことは無かったかと尋ねておいて頂けますか】


【災害とな?】

不思議そうにアエネーイスが問い返した。


【はい、少し気になっていることがありまして・・・ いえ、たぶん取り越し苦労だと思いますが、念のため】


【分かった、尋ねておこう。いつもの通りシルフィーに供をさせる故、気を付けて行ってまいれ】



「エステル、何を考えているの?」

アエネーイスが消えてすぐ、アベルが語りかけてきた。


「別の世界だと言うのは分かっているけれど、あまりにも似ている点が多いのよ。何か繋がりを見つけ出せたら、帰る方法の手掛かりにならないかと思って」


「マーリン様に尋ねたのは、こっちに250年前より古い本が無いから?」


「うん、不自然だと思うのよ。フィンレー将軍が言うように、保管していた場所が偶々被害にあったとしても、その後他国から持ち込まれた本もあったはずだし。意図的にそれ以前の本が出回らぬようにされているとか、なにか秘密があるのではとね。今度は歴史書以外も調べてみるつもりよ」


「じゃぁ、今回もずっと蔵書室に缶詰かい? 僕、飽きちゃったよ」


「そうね、実は私もよ!」

エステルは笑いながらアベルを抱き上げ帰路に着いた。




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