表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/61

《 再会 》

武術大会から帰ったエステルはアエネーイスに会いに行きます


「二週間も留守にしたから、すっかり埃だらけねぇ。まずは掃除しないと・・・」

久しぶりに治療院に帰ったエステルは溜息をついた。

掃除が粗方終わった頃、シスターエセルがやってきた。


「エステルさん、お帰りなさい。お預かりしていたお薬は患者さんにお渡ししましたよ。予備に頂いていた傷薬と解熱剤も半分ほど残っていますから持ってきましたわ」


「シスターエセル、有難うございます。お陰で助かりました、一度にたくさん渡すと飲む量を間違える方があるので・・・ これ、王都のお土産です。後で持って行こうと思っていたんですよ」

エステルは王都で評判の焼き菓子が入った箱をシスターに渡した。


「まぁ、嬉しい。聖歌隊の子供たちと頂きますわ。それよりエステルさん、アレンさんから聞いたのですが、剣と弓の両方で優勝なさったって」

シスターエセルは興味津々に瞳を輝かせた。


「えぇ、運良く。お陰で当分の運営費は心配ありません」

アレンはエステルよりも一足先にラスゴーに帰っていた。どうやら、あちらこちらでエステルの武勇伝を広めているらしい。


表彰式の後、フィンレー将軍から呼び止められたエステルは、第三王子の練習相手の要請を丁重に断った。では、せめて近衛騎士団との模擬戦をと懇願され、断り切れずに2日程王都滞在を伸ばしたのだった。


治療院の掃除を終えるとエステルはスーの食堂に向かった。


「女将さん、これお土産です」

エステルはシスターに渡したものと同じ箱をスーに渡した。


「エステルさん、本当に優勝したのかい? アレンの話があんまり大げさだからさ、皆あんたが帰るのを待っていたんだよ。詳しく話しておくれよ」

スーをはじめ、ノーマやアルバートなど常連の面々に囲まれて、エステルは渋々話を始めた。



「あぁ~ 疲れた! 皆、なかなか帰してくれないんだもの・・・ 今からだとかなり遅くなっちゃうけど、妖精さんたちにもお土産を持って行こうか、アベル」

エステルは土産の菓子の他に、敷物と夕食用のサンドイッチを用意して北の山に向かった。

森に入り魔法で灯りを点すと、複数の気配が近づいてきた。


【やぁエステル、久しぶりね。弓の練習は役に立った?】

優しい声が脳裏に響いた。


【こんにちはシルフィー、お陰で優勝したわ。今日は王都のお土産を持って来たのよ。アエネーイス様にお目にかかれるかしら?】


気配が一つ離れていくのが分かった。


【お許しが出るまで少し待ってね。あれから1度、ティターニア様から連絡が来ていたから、アエネーイス様もきっと貴女とお話になりたいはずよ】


直ぐに離れて行った気配が戻ってきた。

【いつもの所でお待ちになっておる。さぁ、行こう】

少ししゃがれた声がした。


草原の大岩に近づくと、長い黒髪にアメジスト色の瞳が美しい女性が座っていた。これまでは光に包まれて見えなかったアエネーイスの姿が今日ははっきりと見える。


【今夜は大月(おおつき)じゃ。エステルは初めてだったか?】

思わず立ち止まったエステルにアエネーイスが声を掛けた。

アエネーイスの言葉に空を見上げたエステルは絶句した。蒼月がいつもの2倍ほどの大きさになっているのだ。


【不定期にあのように大きくなる。我ら妖精族は月の力に強く影響されるから、今夜はこの地の霊力が特に強い。その為、私の姿がはっきりと見えるのだ】

ポカンと空を見上げているエステルにアエネーイスが説明してやる。


【アエネーイス様、お姿を拝見出来て光栄です。これは王都のお土産です。皆さんでご賞味下さい】

エステルが差し出した箱が宙に浮き、後ろに控えた獅子の背に乗った。


【エステル、良い夜に来た。今宵なら、そなたもティターニアと話が出来よう】

アエネーイスはそう言うと、岩の上に立ち両手を天に差し伸べた。すると、空の一部が揺らぎ始め、大きな鏡の様な物が現れた。


【ティターニアよ、そなたの知古が来ておる。顔を見せてはくれぬか】

アエネーイスが呼び掛けると宙に浮いた鏡の中に渦が巻いた。暫くすると渦の向こうから銀色の光が広がり始める。


【アエネーイス、そちらは大月(おおつき)か? ところで、私の知古とはエステル姫のことか?】

懐かしいティターニアの声が聞こえた。


【そうじゃ。エステル、岩のそばにおいで】


エステルが岩に近づくと、鏡の中のティターニアが声を弾ませた。

【おぉ、誠にエステル姫じゃ! シルフィード達、すぐにマーリンを呼んでまいれ!】


【ティターニア様、マーリンが近くに居るのですか!】

エステルはティターニアへの挨拶も忘れて叫んだ。


【久しぶりじゃな、エステル姫。マーリンは10日程前からこの地に来ておる。アエネーイスからそなたの事を聞いて連絡を取ったのじゃ。呼びにやった故、暫し待て】

ティターニアはふんわりと笑みを浮かべた。


【ティターニア様、ご挨拶もせず失礼致しました。アエネーイス様のお力で、再びティターニア様にお会い出来て大変嬉しいです。マーリンにも会えるのですね!】

エステルはマーリンがそばに居るという言葉に顔を輝かせた。


【この50年、マーリンは必死でそなたを探しておった。無事を知ってとても喜んでおったぞ。あぁ、来たようだ。マーリン、ここだ。エステルがおるぞ】


「エステル!!」

駆け込んできたマーリンが鏡に映り、聞きたくて堪らなかった声が響いた。


「マーリン!!」

懐かしい師匠の顔を見て、エステルは涙ぐみその場に膝をついた。


アエネーイスは手を振って周囲の妖精達に去るように命じた。自身も通信が維持できる程度に離れてエステルと師匠との邂逅を見守った。


「エステル、無事なんだね? 転移のせいで何処か不調は? 暮らしはどうだい、苦労していないか?」

矢継ぎ早にマーリンが声を掛ける。


「マーリン、私は大丈夫よ。確かにここが異世界だと知った時は辛かったけど、幸い言葉や文字も同じだし、偶々多めに持っていた金銀が役に立ったから。それよりマーリン、お父様は? モードレッドの謀反はどうなったの?」

エステルは最も気がかりだった父アーサーの事を尋ねた。


「アーサーは剣の呪いを受けて・・・ ごめんよ、僕の魔法ではどうにも出来ず、ヴィヴィアンに託してアヴァロンへ送るしかなかった。アーサーは『アルビオンに再び危機が訪れた時、必ず戻る』と言い残したよ。モードレッドはアーサーが倒し、謀反は失敗した。その後、アルビオンは再び分裂して、今は4か国に分かれている。この50年、僕は君を探しながら、アーサーが戻る日を待っていたんだ」

マーリンは悔しそうに下を向いた。


「母上は? モードレッドの計画に加担していた事は知ってる?」


「グィネヴィアが謀反に関係していたというのか!? アーサーをアヴァロンへ送ってからキャメロットへ戻った時は、お前が行方不明だと泣きながら探し回っていたが、まさかあれが芝居だったとは・・・ あの時よく見えなかったが、エステルに剣を向けていた女性はグィネヴィアだったのか!?」

思いがけないエステルの言葉にマーリンは強張った声を出した。


「えぇ、モードレッドに呪いの剣を渡したのも母上よ。私が居たら父上を亡き者にしても、自分が女王になれないからって・・・ アベルが剣の前に飛び込んで、私を庇ってくれたの。その瞬間にマーリンの声が聞こえ、ここに飛ばされた・・・」


「そうだったのか・・・ じゃぁ、アベルもそこに?」


「はい、マーリン様。ここに居ります」

アベルがエステルの足元に歩み寄り、マーリンに答えた。


「アベル、よくエステルを守ってくれたね。これからもエステルを頼むよ」

マーリンの言葉にアベルが大きく頷いた。


「ところでマーリン、別れた時よりもずいぶん若い姿ってどういう事?」

再開した直後から気になっていたことをエステルは切り出した。鏡の中のマーリンはエステルよりほんの少しだけ年上に見える。

エステルが知るマーリンは、普段は父アーサーと同年代の姿をしていた。しかし、戦場や他国との交渉時は、白髭の老魔術師の姿になることが多かった為、『偉大な魔術師マーリン』は長い白髭を持つ老魔術師だと思われていた。


「この50年、大陸にも君を探しに行ったんだ。この格好のほうが相手が気を許してくれるんだよ。それに、ティターニアも気に入ってるようだしね」

マーリンの後ろでティターニアが微笑んでいた。


「ところでマーリン。アエネーイス様が、私がここに来たのはマーリンの魔法の力だけではないだろうと仰っていたけど・・・」

エステルは別世界に来た経緯を尋ねた。


「僕とティターニアの見解も同じだ。あの時、僕は洞窟に閉じ込められ魔力も削がれていた。そこで、水の精霊の力を借りて水鏡に映った君に向かって魔法を放ったんだ。その時、水鏡に何かが影響して、偶然そちらと繋がったと考えている。モードレッドが洞窟に張った結界も影響した可能性があるが、いずれも確かめようがない。済まないが、君をこちらに戻す方法は今も分からないんだ」

申し訳なさそうにマーリンの声が曇った。


「うん、分かってる、大丈夫よ。私、マーリンに教わった薬草や医術の知識と、魔法を少し使って治療師をしているの。街の人達から結構頼りにされているんだよ。あのねマーリン、こっちの世界には魔法が存在しないの。だけど、気付かれないように用心しているから心配しないで。 でも、こうしてマーリンと話せたからとっても安心した。これからも時々話せると良いけど・・・ 」

【アエネーイス様、お願い出来ますか?】

エステルは離れて見守っていたアエネーイスを振り返った。


【何時でも繋がる訳ではないが、大月の時は特に繋がりやすい。ただ、大月は不定期でな。ちょうどその時にエステルやマーリンがそばに居れば良いがのう】

アエネーイスが近づきながら答えた。


【アエネーイス様、出来るだけ近くに居るように致します。どうか大月の度に呼び掛けて頂けると助かります】

マーリンが鏡の中で頭を下げた。


【承知した。エステルにも大月の日にはシルフィーを使いに出そう。久方振りの逢瀬じゃが、そろそろ月の力が弱まり始めた。道を閉じねばならぬ】

アエネーイスがすまなそうにエステルに告げた。


「マーリン、最後に一言だけ。私を助けてくれて有難う! そして、ずっと探し続けてくれて有難う!」


鏡が歪み始め、少し白み始めた空が鏡を覆い隠した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ