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2. チュートリアルで死ぬ役目

ゲームでいうところの、オープニングからチュートリアルです。

 目の前には、先程まで死にそうだった少年。

 マグス・ホッパーと言うらしい。ゲームの登場人物の中に、そんな名前は無かったと思うから、つまり『モブ』ってやつ?

 そのマグスに縋り付くように、幼い少女が小さな寝息を立てている。確か、アリアと言ったか、何となく知ってるような、知らないような……。


「で、アナタは何なんですか?」

 そう問いかけるマグスの顔は、俺の方を向いていない。俺の声は聞こえるけど、俺の事は見えていないようだ。

 でも、何者と聞かれても、何と答えて良いのか分からない。ゲームの世界に転生した魂で〜す、なんて言えるはずもなく、ただ言葉を濁すしかない。無視するという手もあったけど、せっかくの俺の声が聞こえる人、逃がす事はできない。


 正体をぼかしたままマグスと話を続ける。マグスは、俺の事をゴーストか何かの特殊個体と認識したらしい。

 そのマグスとの話の中で、ここがやっぱりゲームの世界であり、そのオープニングだと実感した。

 ここは、【ロードランドタクティクス】の世界で間違いない。


「兄ちゃま。誰と話してるの?」

 少女が目を覚ました。


 兄ちゃま?

 その呼び方に引っ掛かりを覚える。


「大丈夫か、アリア」

 体が痛むだろうが、そんな事を妹に見せることなく、マグスの問いに笑顔で答える。

 そして、マグスは解けてしまっていたアリアの足の甲に巻かれた包帯(布切れ)を巻き直す。

 そこに見えたのは、足の裏。土踏まずの少し前あたり、生々しく横一文字に斬れた傷。


 俺は思い出した。

 『アリア』─『兄ちゃま』─『足裏の傷』、峰渡(みねわたり)だ……。

 『峰渡のアリア』──ゲームの二章後半から出てくるキャラ。敵として出てくるんだけど、ストーリーによっては、四章の前半に、途中抜けしていたジークと一緒に仲間に入る。

 弓師(アーチャー)の特殊個体で、移動が通常の弓師よりも一マス少ない代わりに弓の攻撃範囲がニマス伸びているというチートキャラだ。ゲーム終盤で手に入る『ワープリング』を使って高所に位置取りして、安全圏からの遠距離攻撃で魔法系ユニットを狙い撃ちするというハメ技でお世話になった。たかだか一マス二マスと思うなかれ、この手のゲームでの一マスは大きい。その上、弓師は高所からなら飛距離が伸びるという特性もある。

 そうそう、移動が一マス少ない理由なんだが、幼い頃に右の足裏に大きな怪我をしたのが原因で、右足首から下の動きが悪いから。

 それに『兄ちゃま』という呼び方。『兄ちゃまを死なせたのは、お前だよ』、確か、それが彼女の始めのセリフだった。気の強そうな顔立ちに『お兄ちゃま』呼び、絶対に狙ったとしか思えないアンバランスさが一部にとてつもなくハマっていた。

 ちなみに、『峰渡』の意味。山の峰から峰まで矢が渡る程の飛距離が出るという事。実際は、人が引く弓でやがそれほど飛ぶはずがない。二つ名は大袈裟すぎるにしても、戦場での二マスプラスは大きい。戦略的にやっぱりチートは、チート。

 そう見てみると、面影はあるか。

 ツリ目がちだし、髪は薄茶色だし……。でも、ゲーム程キツそうな顔立じゃないような、どちらかといえば可愛い。まぁ、まだ幼いから、かな?


 ん、て、事は、マグスはここで死ななかった?でも、すぐに死ぬ?

 マグスって、チュートリアルで死んじゃうアリアの兄……なの?

 良い奴だよ……マグスは。


 ええい!

 ここで出会ったのも何かの縁、俺はマグスを生かす。

 だって、良い奴だから。

 そう心に誓った。



 ◇


 バグノア民族の侵攻の時から聞こえてくる言葉が、僕を動かしていた。

 言葉の主は、ゴーストの変異種何だろうか、僕に語りかけてくる。

 まるで、友達のように、父親のように、預言者のように。

 そう、預言者のように彼は語る。

 ──強くなれ!

 ──頑丈になれ!

 ──三年後にお前は殺される!

 ──死なない為に、強くなれ!


 それから、走り、鍛え、自分を苛め抜く日々。

 その頃には、僕とゴーストは、お互いに『義兄弟(きょうだい)』と呼びあうようになっていた。

 僕のように両親を失った子供達が寄り添って暮らす戦火跡の孤児院でも、異様な存在だったのだと思う。古衣を拾い、自分の服に継ぎ足していく。義兄に言われるままに、厚く、厚く、もっと分厚く、見た目なんかどうでも良い。そして、歪にして着心地の異様に悪い服は、まるで鎧のように着る者がいなくても自立するようになる頃、三年の月日が経った。

 復興も途中の町に野盗が襲いかかったのだ。


 おそらくは、先のバグノア民族の侵攻の折に潰された村々の村民が野盗化したものだろう。練度も低い農民崩れ達が、策略も無く武器を片手に町に侵入してきた。

 そして、それは孤児院にも迫ってきている。


 初老のシスターが室内へと子供達を誘う隙に、飛び出す者がいた。

「ジーク行くぞ。トワイソン、マクディ、ジェスタ準備は良いか」

 年長で、孤児院でもリーダー的存在だったアイロの言葉に、同じく年長の少年少女が武器を片手に飛び出していく。

 魔獣が溢れ、人々が争いを繰り返す世界。子供といえども自衛の手段を持つ必要がある。

 当然、僕も自分専用のナイフを持っている。


 孤児院の前で五人の野盗と相対するアイロ達。

 郊外の孤児院の前は整理不十分な野路が伸び、両サイドには、雑草と低木が自生する。

 戦いを止めるように声を上げるシスターの声を聞く者はいない。

 臨戦に至っていた。

 そして、名前も呼ばれていないのに、何故か一緒に連れ出された僕。何故か右端の一番前にいる。そして、その僕の前に錆びついた小剣を持った男の人が…………。

 何をする間もなく、左肩から袈裟懸けに斬られた。


 地面に流れる自分の血を見ていると、声が聞こえた。


『生きてるか?義弟(きょうだい)

「ああ、なんとか生きてるよ。義兄(きょうだい)

『チュートリアルが始まったな。本当ならここでメッセージが入るんだよな』

 

 これが義兄の言ってたゲームという預言の始まりなんだろう。シュミレーションロールプレイングゲームとか言っていた。


 という事は、僕は死ぬのを回避できたの?

 でも、死にそう…………。

 いや、まさに今、死にそう…………。

 血が流れ続けてるよ。

 それにしても、体鍛えてて良かった。服を馬鹿みたいに頑丈にしてて良かった。

 即死だけはまぬがれたもんな。

 これを知っていたのか。凄いぞ、義兄。


 と、待て待て、そんな事よりも、今現在の状況確認。

 これはチュートリアルという段階らしい。プレイヤーに基本の戦闘方法を教えているところなんだって。義兄が言ってた。で、僕はユニットのロストを教える役目。つまりは、死ぬ事が仕事。運命って事。そして、運命通りに野盗の剣を受けてしまっている。即死こそ免れたけど、既に死にそう。

 この後、なんて言ってたっけ?

 血が流れすぎて、ボウッとする。

 横で義兄の声がするけど、ちゃんと聞こえない──血が流れすぎている。



 ◇


 ストーリー通りなら、この後、スキルと魔法の使い方を教える為のキャラ、トリイデン侯爵家の騎士ラトラント達が来るはず。

 ならば、これから先でマグスに注視する者はいない。


 とりあえず、オーバーキルされてもいないし、当然ながら殺されてもいないのは、重畳。でも、斬られてるのは事実だし、はっきり言って大怪我だ。痛そう!はっきり言って痛そうで、気を抜くと気を失っちゃうんじゃないかな?今の状態で気を失うと、死んじゃうだろう。そしたら、致死判定は間違いない。間違いなく死んだと思われているマグスを、助けてくれる者なんていない。俺も、マグスに触れる事はできない。肉体の無い身が口惜しい。その上、マグスが下手に動いたり声を上げると、まだ近くにいる野盗に止めを刺されるだろうことは必至。そうしたら、3ターンを経てロストしてしまうどころか、今度こそオーバーキルで1ターンロスト。気を抜くな、マグス!生き残るんだ!クッ、早く来てくれラトラント様!

 駄目……死ぬ…………か?

 遠くでアリアの絶叫が聞こえる。

 マグスの名を呼んでいる。

 泣くなアリア。

 お前の兄は、まだ死んでいない。

 死にそうだけども…………。

 マグスが地面を掴んだ。

 土を掻く。

 ゆっくりとゆっくりとズルズルと目立たぬよう、体が戦場から遠ざかっていく。

 動くな!

 マグス、動くんじゃない!

 今はジッとして、生きる事に集中するんだ。

 ああ、せめて薬草でもあったなら……。


 そうだ、トレジャーアイテム!

 ゲームの中ではユニットが移動を終えたマスからトレジャーアイテムが発見される事があった。大抵が薬草や毒消しで、アイテムを使わない派の俺としては、不必要に溜まってくる、売るしかない不要プチイベントだったけど、そうだ、トレジャーアイテムを見つけるんだ!


 俺は、力一杯の声で、マグスに地面を掘るように伝える。

 ゲームでは、立ち止まっただけで発見できてたんだから、そんなに深い場所にあるんじゃないはずだ。軽く掻くくらいでいい筈。

 いや、その程度の力くらいしかマグスには残ってないだろう。


 緩慢な動きでマグスが地面を掻く。

 身体を這わしては、掻く。

 今は祈る。薬草出てくれ!

 頼む、薬草出てくれ!

 当時は、インベントリのゴミと思っててゴメン。

 這いながら、地面を掻き続けるマグスを見つめる。


 背後で蹄の音と共に数人の声が現れた。

 ラトラント様の声!

 ゲームの中と同じ声だ。声優の山本佐為吾さんの声そのまま。

 やった、来てくれた。

 でも、何ターンで戦闘が終わるか分からない。そもそも、この実際の戦いをターンで区切れるのか分からない。

 ただ、少しでも…………早く。

 んっ?

 マグスが何かを拾った?

 トレジャーアイテム?

 硬い……

 薄い……

 カード?

 薬草じゃないのか!

 

 マグスの動きが止まった…………。



===============


name :マグス・ホッパー

age  :13(男性)

race  :人族 ファルチット民族

LV   :1

job  :無職


HP   :35

MP   :18

STR  :11

VIT  :25

DEX  :9

AGI  :7

AVD  :4

MAG  :9

RES  :31

【昊ノ燈】と申します。


読んでいただき、ありがとうございます。

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