表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/38

15. 鼬は可愛いけど、短足なのか胴長なのか

 マグスの背中を叩いた後、ツォーネは小さく息を吐いて前を見た。

 背後に感じている遠ざかる足音に少し安堵し、笑みを浮かべる。

「なぁ、お前達、見逃してくれる気は?」


 子供を追うようにと、折れた剣を持った男に指先で指示を出した大剣を持った男の横で、女が嘲るような声を上げる。

「アタシ達が逃さないって分かってるから、ガキを逃がしたんでしょ?」


「まあな」

「で、アンタはどうするのよ。勝てると思ってるの?」

「無理だろ」

「だったらどうするの?」

 ツォーネは、笑みを深くして応える。

「逃げるさ」


 刹那、タンッという強く地面を打ちつける音がして、男敗残兵狩り達の視界からツォーネが消えた。

 重心からも子供の逃げた方向に走ったと思い込んでいた一団は、目を男の背後にあった雑木に向けるが、木々が揺れる気配はなく、煙のように消えたのだ。 


「どこだ?」

「どこに行った?」

 慌てて叫ぶ男達を尻目に女が声を荒げる。

「あっちだよ!」

 女が指さしたのは、弓持ちがいた方だった。


 見た時には、弓持ちは首を裂かれ、地に伏していた。

 ツォーネの姿は、既にない。

 キョロキョロと辺りを見回す男達。

「そっちだよ」

 指さされた槍持ちの男が、振り向いて槍を翳す。

 ガインッという金属どうしがぶつかる音。


「止められちまったか〜。なんか感の良いネエちゃんがいるみたいだな。盗人(ぬすっと)か?」

 ツォーネは、言いながら無造作に槍持ちの男の首を裂く。

 吹き出す血を押さえながら、膝立ちから顔を地面に沈める槍持ちの男。


「ローグよ」

「ふ〜ん、じゃあ、【気配察知】スキルか。ならず(ローグ)のネエちゃんは」

「で、アナタは忍者かアサシンと言うところかしら?ウサギさん」

「やっぱり感が良いね〜、ネエちゃんは。でも、どっちかは言えねぇな」


 女が就いているローグもそうだが、忍者、アサシンもシーフから派生する中級職である。戦士系の職に比べたら攻撃力という点では劣るが、スピード等に特化した職類。トリッキーさと危険察知に秀でたローグ、簡易版の魔法とも言える【忍術】を用い、よりスピードに秀でた忍者、対個人に特化した術である【暗殺術】を用い、より気配遮断に秀でた暗殺者。

 職を教える事により、自分の動きを悟られる可能性があるので、ツォーネは答えることはなかった。


「カリエラ、そいつの足を止めろ」

 大剣を持った男が、女に声をかけた。

「無理……と言いたいんだけどね、出来る限りはしないとね。分かったわ、ングヴェ」


 短剣の女はカリエラ、大剣の男はングウェというみたいだ。

 あの男は戦士系か。圧を感じるが、正面から当たらなければなんとかなるだろう。それより、今注意すべきは女。ローグということは、罠とかの搦め手もあり得るか。

 そんな事を考えながら、ツォーネは重心を傾ける。


 タンッ


「右だよ!」

 ツォーネが足を鳴らした瞬間、カリエラが声をあげた。

 ツォーネの重心から動く方向を予測していた男達は、たたらを踏みながらも声に従って警戒する。


 ツォーネの動きの秘密は簡単なものだ。重心に逆らって動く、この一点で説明が成る。方法としては、動き出しの瞬間、足裏を地面に叩きつけて無理矢理進行方向を変えるだけなのだが、これを刹那の間に行う反射神経と兎獣人ならではの脚の強さが、消えるように見させているのだ。


 この時、ツォーネは右方向に移動しようとしたのではないが、ツォーネが移動しようとした方向にスローイングナイフが飛んできた為、結果として、右方向への移動となっていた。

 クソッ、厄介な女だ。心で毒つきながら構えられた斧に山刀を当て、速度を落としながら振り下ろされる大剣を躱し、男達の警戒を抜けた。


「怖えネエちゃんだな」

「失礼ね、良い女って言ってほしいわ」

「ふん、(いたち)か」

「そうね、兎さんの天敵かしら」

 そう言ってかき上げる茶色い髪の合間からは、丸い耳が見える。

「そっちの大っきい剣持ったニイちゃんも怖えな」

「だったらどうするの?あっ、そうだ、仲間になるなんてのは、どう?いいでしょ、ングウェ」

 視線を外す事なく、口先だけでングウェに同意を求めるカリエラ。


 そんな様子を見ながら、ツォーネは戯けた振りをしながらも、足に力を込めていく。

「すまねぇ、鼬は嫌いなんだ。足が短いから」


「はぁ?なんつった?足が短い?はぁ?殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!アタシの足は短くない!動物と一緒にするんじゃねえ!」

 激昂するカリエラを抑えながら、ングウェが大剣を下ろす。

「なぁ、本気で仲間にならないか?そうしたらさっきのガキも見逃してやる。どうせ、軍に入ってる訳じゃないだろう。じゃなかったら、死ぬぞ。二人殺られたとはいえ、まだこっちには五人いる。それに──」

 手に力を込め、大剣を構えなおす。

「お前は、俺には勝てない!」


「……だろうな。そこの短足鼬なら何とかできただろうが、あんたは無理だ」


「はぁ?まだ言うか。ほれ見てみろよ。どこが短いって、スラッとしてそそられるだろうがよ」

「ほう、なかなか──って、今、シリアスなんだからよ」

「はぁ、アタシだって真剣だよ」


 コホン、一つ軽く咳を溢して。

「すまねぇな、ングウェつったっけな、強いなあんた。今のままじゃ敵わない」

「だったらどうする気だ」

 ングウェの言葉に、ツォーネは一層に笑みを深くする。

「本気をだすさ」


 ダンッ!


 ツォーネの重心が振れ、破裂音にも似た一際大きな音が響き、姿が消える。


 ングウェは、全方位に対応出来るように力を込めながら、叫ぶ。

「カリエラ、奴はどこだ!」


「クソッ、掴めない。どっちから来るのさ」

「皆、気を付けろ!背合わせになって、背後を守るんだ」

「クソックソッ──」


「………………」

「…………………………………………」

「…………………………………………………………………………」

「……………………居ないよ」

「「「「はあ?」」」」

「逃げられたんだよ」

「本気、これが奴の本気か──やられたな」

 ングウェの大笑が響きわたった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ