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11. 失うことを惜しむのは、仕方のないこと

 冬になり、スウォルス大森林にも雪がチラホラと舞ってきた。森の獣達は冬眠に入ったが、殆どの魔獣は冬眠することなく活動している。おかげで、肉に関しての食料事情には大きな変動なく生活できているが、野菜、木の実に関しては厳しい。

 成長期真最中のマグスにちゃんとした栄養を摂らせる必要があるのだ。

 俺自身に肉体が無いから、味や満足度なんて事には疎いが、前世の知識が『栄養バランスが大事』と訴えてくる。

 前世の記憶の中で、なんとなく肉だけでは駄目、野菜もちゃんと食べないと病気になる、という事がある。でも、実際にどの程度の割合で食べないと駄目なのか、どんな種類の野菜を食べれば良いのか分からない。正直、あまりハッキリとした記憶が無いんだ。ハッキリとしてるのは、ゲームの事、ラーメン、映画、まぁそんな事くらい。

 何をしてたのか、どんな人生で、どうやって死んだのかも、靄がかかっているようで、よく分からない。崖の上で銃に撃たれたような記憶。火炙りにされたような記憶。木の杭を胸に打ち付けられたような記憶。雷に打たれたような記憶。誰の記憶だ?

 映画?

 アニメ?

 ドラマ?

 記憶の殆どが画面の中。

 前世(?)、死ぬ前の自分が、ゲームとか映像にしか興味のない人間だったのかと嫌悪感を抱くが、結局のところ、自己嫌悪に至っても、何も解決しないので、考えないことにした。


 そんな事より、今、現実に危機に直面している。

 いや、命の危機とかではなく、どちらかといえば、心の危機かもしれない。

 最近、マグスのレベルが上がりにくくなっている。レベルが高くなってくると、上がりにくくなるのは当たり前の事で、そこに関しては、問題がない。問題は、それでもゆっくりながらもレベルが上がっているということだ。

 

 順調じゃん。

 レベルが上がるなら良いじゃん。

 なんてことを思われるかもしれないけど、ヤバイんだ。

 マグスは、レベルアップ毎にMPが減っていく。既にMP11。下手をすると、次でMPが、一桁になるかもしれない。前回のレベルアップがマイナス1。マイナス2は、初回以降出てないけど、可能性が無いわけじゃない。あると思う。

 ビーストテイマーだから魔法なんて使えないし、MPなんか関係ないだろ?なんて言わないでほしい。

 あるんだ。

 あるんだよ。

 ビーストテイマーにも、MPを消費するアクションがあるだよ。【魔獣捕獲】、魔獣と話をして、仲間になってもらうスキル。何故か交渉するだけのスキルなのに魔法扱い。それも、MP10。

 もうじきレベルアップしてMPが一桁になる前に、せめて一体くらいは仲間にするところが見たい!

 いや、マグスに仲間を作ってやりたい!

 なんかさ、ワラストフェルトが帰っちゃってから、どことなくマグスが寂しそうなんだよな。それに、マグスのMPが下がっていくのは、俺が転職させてしまったからだし…………。やっぱ、責任感じてるのよ。


 ちなみに、仲間にした後の【魔獣使役】は、MPを消費しない。【応急処置】でさえMPを消費しないのに、何で【魔獣捕獲】がMP消費するんだよ!!


 と言う訳で、マグス君には、【魔獣捕獲】の為に、移動してもらっております。

 目標は、コカトリスかグリフォン。ゲームでも活躍していた魔獣。空を飛べるということで、ステージによっては難易度を格段に下げることができる、ビーストテイマーに唯一と言っていいくらいの脚光を浴びさせることができる魔獣。普段のステージでは、出撃ユニット数の関係で魔獣は出してもらえない。行動のバリエーションが少なすぎるから、使い難いんだよね、魔獣って。

 それでも、マグスの助けにはなる──と、信じてる。


 ここで俺は、狙いをグリフォン一択に絞らせた。答えは簡単。なぜならコカトリスよりも格好良いから。石化吐息(ロトンブレス)を使えるコカトリスの方が後々便利なのは分かってるけど、ここはファンタジーの大道たるグリフォンを選びたい。死にキャラだったマグスでも、それくらいの大道を味わっても良いじゃないか。

 今まで、グリフォンを倒した事はないけれど、前に北方で(つがい)でいるのを見たことがあるから、多分その辺がグリフォンの狩り場だと思う。


 みっしりと樹木の生えた小高い丘を越えると、広がる峡谷。この峡谷も大森林の一部なんだから、スウォルス大森林の大きさが半端ないものだと、ちょっと感動する。


 予想通り!

 グリフォン発見。

 グリフォンは、上半身が鷲で下半身がライオンという、空駆ける魔獣。

 一体だけで良かったんだけど、以前通り番で狩りをしている。

 ちなみに、グリフォンは飛べるけど、鳥のように飛び続けることはできないらしい。だから、遠距離攻撃を持っていないマグスでも対応可能なはず。



 ◇


「殺り方は、コカトリスと同じで良いか」

 小石を投げて注意を惹くと、立ちつくして、寄ってくるのを待つ。


 義兄(きょうだい)が、魔獣を使役しようって言い出して、グリフォン狙いでここに来た。

 正直、魔獣と心を通わすなんて出来るのかな?って思わないでもないけど、自分のステータスにも書かれている【魔獣捕獲】と【魔獣使役】。次のレベルアップまでが最後のチャンスになるかもしれないんだって。

 うん、なら、挑戦しよう。

 グリフォンか〜、乗れるのかな?お伽噺にあった、グリフォンライダーとかグリフォンの騎士みたいになれるのかな?

 ちょっと──いや、かなり期待してる。


 二つ目の小石を投げたところで、何か獲物を啄んでいた一体が頭を上げて、こちらを見た。

 そしてそのまま翼を広げて突進。

 デカい!

 人が乗れるくらいのサイズがあるので、大きいとは知っていたが、実物はさらに大きく見える。


 ズドッ!


 【体当たり】ノックバック効果のある攻撃。

 僕は吹き飛ばされるけど、HPは減っていない。イケると、踏んで、吹き飛ばされた分、前に出る。

 後はいつも通りの泥仕合。

 攻撃を躱すこともなく受けて、ナイフで刺す。

 攻撃を躱すこともなく受けて、ナイフで刺す。

 攻撃を躱すこともなく受けて、ナイフで刺す。

 ひたすらにこれの繰り返し。

 格好良く戦略をたてることも、間一髪で躱してカウンターも無く、ひたすらの作業。

 嘴が迫ってくるのも、爪が振り下ろされるのも怖いけど、痛いけど、傷付く事はない。

 傷だらけのグリフォンは距離を取ろうとするけど、飛ばれない限り、逃がさない。その前に、飛ぶ隙なんて与えない。


 問題は、もう一体のグリフォン。

 流石に二体を同時に相手するのは困難。そうなくても、倒すのに時間がかかるのだから。仕方なく、背中から襲ってくる一体を無視して、目の前の一体に集中する。


 前から振り下ろされる爪を肩で受けて、首めがけてナイフを刺しにかかる。首を捩って躱そうとするが、この近距離、躱しきれないグリフォンに僕のナイフが首元に傷をつける。

 浅いか…………。

 背中に攻撃を受ける。

 ?

 いつもと違う感覚。

 背中を伝うドロッとした感触。

 背中に回した手に付いた血液。

 怪我をしている?

 僕が?

 慌てて確認したHPは、減っていた。

 えっ?

 怪我をした?

 僕が?

 驚く間にも傷付き、減っていく僕のHP。

 挟まれてるから?

 バックアタック判定になっている?

 通常の攻撃より、1.5倍の攻撃判定だというバックアタック。

 ヤバイ?

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

 慌てた僕に、前方のグリフォンが体重をかけてのしかかってくる。

 体重差で押し倒す気か?

 パニックに陥った僕は、倒れるままにナイフをグリフォンの首に深く差し込んでしまった。

 クリティカルのカウンターになって、一体のグリフォンがが死亡。

 首から溢れ出る鮮血に顔を濡らしながら、ゆっくりと心を落ち着かせる。

 殺してしまった。

 レベルアップは?

 レベルアップはない。

 でも、本当にレベルアップまでギリギリだろう。

 もう殺せない。


 残りの一体に向かい、ナイフを構える。


 MPは?

 MPは、戦闘開始時は0で、戦闘ターンが過ぎるほどに溜まっていく。既に満タン。

 焦った俺は、十分な攻撃をするまでもなく【魔獣捕獲】を発動。


 ──────────失敗。


 当然だ。

 まだ、仲間にできるはずがない。

 またMPが溜まるまで小さい攻撃でグリフォンのHPを削らないといけない。


 その後の戦闘で、幾度となく【魔獣捕獲】を仕掛けるが、成功の気配がない。

 その時、俺は気が付いていなかった。【魔獣捕獲】の成功率はレベルに準拠する。相手のレベルが自分より低ければ成功率は高いが、相手の方が高ければ成功率は下がる。もし、こちらのレベルが2も下回れば、限りなく成功率は0に近い。確実にグリフォンは格上。【魔獣捕獲】が成功するはずがなかったのだ。


 血に塗れ、動きに精彩を欠いていくグリフォン。

 間違いなく瀕死状態。

 これ以上攻撃すると殺してしまうと判断した僕は、距離を置く。そして、撤退を決断する。

 【魔獣捕獲】は成功しない。そう感じた。

 瀕死状態でも奇声を上げて追ってくるグリフォン。

 僕は逃げた。

 逃げるしかなかった。

 出直して、別の個体に【魔獣捕獲】をする為に。


 ──トッ!

 不意に足をとられた。

 躓いたのは、小さな生き物。

 さっきまでグリフォンに啄まれていた小さな魔獣。

 まだ生きている。


 何故そうしたのか分からない。

 ただ、使いたかっただけなのかもしれない。

 僕は、瀕死のその小さな魔獣に【魔獣捕獲】を使用してしまっていた。


「■■■■■■■、■■■■■」

「▲▲▲▲、■■■▲▲▲▲」

 

 自分でも理解できない言葉が口から溢れ、何故か小さな魔獣との交渉が成立したのを感じた。


 そして、その小さな魔獣は跳び上がり、その小さな角をグリフォンの首筋に突き立てた。



===============


name :マグス・ホッパー

age  :13(男性)

race  :人族 ファルチット民族

LV   :8→10

job  :ビーストテイマー

JobLV:10→14


      前回値 上昇値 ジョブ特性値

HP   :129 +51 ( +17)

MP   :13  一2  ( + 0)

STR  :26  +5  ( +12)

VIT  :55  +11 ( +17)

DEX  :22  +4  ( + 0)

AGI  :21  +4  ( + 2)

AVD  :13  +3  ( + 0)

MAG  :9   +0  ( + 0)

RES  :60  +6 ( + 3)


スキル  :短剣(LV5→7)

      魔獣捕獲 魔獣使役

      応急処置2

      アイテムスリング2


装備

武器 右 :大きなナイフ(攻撃力+5)

武器 左 :無し

頭防具  :無し

上半身防具:破れたポンチョ(防御力0)

下半身防具:破れたズボン(防御力0)

靴    :履き古したサンダル(防御力+1)

アクセサリ:無し








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