1. オープニングは、突然始まった
ステータスが書きたくって書いた話です。
とりあえず30話までは書いてるので、それが尽きるまでは修正しながら、毎日投稿できると思います。
楽しんでくれたら幸いです。
刃毀れした剣が、少年に振り下ろされた。
後方からは、悲鳴が聞こえる。
そして、少年は地面に伏す。
町外れの小高い丘の上の教会。
孤児院の役割を持つその教会は、今、炎に包まれていた。取り囲むのは、痩せ細り、薄汚れた十人程の野盗達。それぞれに刃毀れした小剣や鉈を持ち、震える手で凶刃を振るわんと目を血走らせている。おそらく食べるものもなく、田畑も戦に荒らされ、身を持ち崩し、暴力に身を委ねてしまった元農民達だろう。
男達に対し、教会から飛び出したのは、六人の子供。
その内の一人が、斬られたのだ。
殺された仲間を見て動揺する子供達。その中でリーダー格と思われる少年は、ただ一度、視線を斬られた子供に向けるだけ。そして、目の前の野盗達に小剣を向け、相対する。
「皆、気を引き締めろ!」
少年の一言で戦闘は、始まる。
◇
『生きてるか?義兄弟』
「ああ、なんとか生きてるよ。義兄弟」
俺の言葉に、今、斬られた少年が小さい声で返してきた。
正直、死んじまったかと思ったよ。
地面に広がっていく、少年の肩口から流れる血を見ながら、焦っていた。
今、この場でこの少年に気を向けているのは、俺と、教会の入口で年老いたシスターに抱きしめられている幼い少女だけだろう。
少女の『兄ちゃま兄ちゃま』という悲痛な叫びが聞こえている。
戦場にいて、既に死んだ者とされ、戦う誰からも意識の外に捨てられた少年の周りには、誰もいない。
俺は、少年の横。
『チュートリアルが始まったな。本当ならここでメッセージが入るんだよな』
──攻撃を受け、HPが0になると、仮死状態となります。仮死状態中は、一切の行動ができません。仮死状態となり、3ターンを過ぎると、そのユニットは死亡となり、消えてしまいます。それまでに、ステージをクリアするか、アイテム等により蘇生させてください。また、今回のようにオーバーキルの場合は、1ターンで死亡となります。
それが本来なら入る筈のメッセージ。
そう、ここはゲームの世界だ。
◇
前世(?)で、死んだだろう(多分、死んだんじゃないかな?)俺が目を覚ましたのは、他民族からの侵攻を受ける境界の町だった。
三年程前だったか。
目の前には、夥しい死体。鎧を着た兵士達に命を奪われていく普通の人達。遠くの方でカンカンという剣がぶつかり合う音が聞こえていたので、町を護る兵達も戦ってたのだろう。素人目で見ても多勢に無勢という状態。
見たこともない町並み──見たこともない人々──見たこともない戦闘──でも、どこかで見たことがあった。
──オープニングだ!
それは、根拠のない確信だった。
根拠なんてあるはずがないのに、俺は知っていた。これは、ゲームのオープニングだと。
【ロードランドタクティクス】というゲームの世界。俺が中学生の時、スーフ○ミでオリジナルが発売されて、それまでに無かった民族闘争、種族闘争を題材とした深いストーリーで人気を博し、コアなファンを掴んだ伝説的ゲーム。その後、プ○ステ、スイ○チ等のハードでリメイクされ続けているシュミレーションロールプレイングゲーム(S−RPG)の金字塔。俺は当然、全部制覇した。
と、したら俺は誰?
ゲームキャラでこのオープニングの町に存在しているとしたら、主人公?主人公の仲間?主人公の片腕で最強キャラの一角のジークなら良いのにな。イケメンでちょっと陰があって──モテるだろうな。ヒロイン一択の主人公とは違って、選び放題。
そんな事を考えてる時もありました。
逃げ惑う人々に話しかけても、誰も返事をしてくれない。それどころか、目を向けることもしてくれない。完全スルー。
剣を持つ兵士達すらも、俺のことを完全スルー。焼け落ちた建物に挟まれた老人を助けようとしても、その目には俺が入っていない。それどころか、崩れた柱を持とうにも持つことができない。それ以前に手足がない。
これは、かの有名なスライムに転生したとかか?
いいや、どうも違う。
俺が話しかけた人達は、何も見えていなかった。スライムすら見えていないようだった。割れたガラスで自分の体を確認する。
『何も映ってない?』
そう、俺には体が無かった。
その時、頭の中に声が差し込んできた。
──死亡寸前の肉体に入りなさい。
──転生を行うのです。
声?
言葉のようであったが、声色が無い。どこの言語かも分からない。でも、確かな声。
まるで『お腹が減ったからご飯を食べる』『眠いから寝る』みたいな本能のように、その声の指示は、当たり前の生存本能の如く俺に入ってきた。
周囲を見回す。
そこに、幼い妹を庇い、焼け落ちた建物の柱の隙間で蹲る少年を見つけた。
もう死ぬだろう少年。
俺の本能が転生を促す。
聞こえてくる、幼い少女の嘆き。
少年はまだ生きている。
俺の理性が本能を遮る。
『おい、生きてるんだろ!立ち上がれ!生きるんだ!妹を残して死ねるのか!』
聞こえる筈のない声を上げる。
『立て!立て!立て!逃げるんだ!』
「そうだ……僕は死ねない…………」
少年はフラフラと立ち上がり、歩きはじめた。
これが、俺と義兄弟の出会いだ。
義兄弟にしか声の届かない俺と、俺の声が唯一聞こえる義兄弟のマグスとの冒険が始まる。
◇
僕には、声が聞こえていた。
僕が初めて声を聞いたのは、三年前の事。そう、三年前、この町を襲ったバグノア民族の侵攻の時。僕の両親を含む多くの町の人々が殺された時だ。
まだ幼い妹を抱えて逃げながら見た、燃え上がる町。
その時、声が聞こえた気がした。
──オープニングだ。
微かに聞こえた声は、音のようであり、耳鳴りのようであり、僕の意識を通り過ぎていった。
足が痛いと、妹が泣き出すので、崩れかけた商店に忍び込む。略奪の後なのか、荒らされた店内。多くの建物に火が放たれているが、この建物まではまだ余裕がある。
少しでも妹の足を休ませたい。
僕は、剣を持つ兵達が来ていないかを確認しながら、妹の足をみる。
硝子でも踏んだのだろう。
足の裏を横に真一文字の傷。
逃げてるうちにサンダルが脱げていたに気が付かなかった。服を裂いて包帯代わりに巻いてやる。
──ミシッ
妹を突き飛ばす。
瞬間、建物が崩れた。
轟音の中、太い柱材が背中を打ち、頭を掠める。
身体が動かない。
妹は無事か?
そんな事を思いながら、意識が遠ざかっていく……。命が薄くなっていく…………。
その時、声が聞こえた。
『おい、生きてるんだろ!立ち上がれ!生きるんだ!妹を残して死ねるのか!立て!立て!立て!逃げるんだ!』
僕は立ち上がる。
妹の泣き声が聞こえる。
泣くな、泣くな、アリア。
兄ちゃんは、生きるから!
不意に聞こえてきた声。
その声と共に、目の前に広がる光景は、それからの僕の思考の奥底で澱のように沈殿し、僕の行動を支配していくことになる。
読んでくださってありがとうございます。
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