表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第四話

夜の村の情景。軍服姿の男たちがせわしなく走り回り、サイレンの音が鳴り響いている。


おびえた表情で様子をうかがう女子供たちも。




ヒロイン、戦車のハッチから父親に叫ぶ。

 ヒロイン「お父さん! うちどうしたらええん?」

 父親「分からない……村役場に行ってみたが、軍からは何の命令も来てないそうだ」


父親が見上げる空に、遠くのサーチライトの光条が数本見える。

 父親「『敵』が上陸するとしたら、こんな田舎じゃない。基地のある滝町だろう……」

 ヒロイン「『敵』……?」


父親、ヒロインを見つめて言う。

 父親「お前は急いで滝町へ向かいなさい。そこで軍の基地へ行って、指示を仰ぐんだ」

 ヒロイン「お父さんは!?」


父親、優しい眼差しで娘を見つめながら言う。

 父親「私らはこの家にいるよ。そのうち村役場から指示もあるだろうが……ここで、待ってる」

 父親「だから、お国のために務めを果たしてきなさい」


ヒロイン、一瞬だけ何か言いたげな表情をするが、口を引き結んで決意する。

 ヒロイン「はい、行ってきます!」




ヘッドライトを点けて、街道を走行するヒロインの戦車。


戦車内のヒロインは、普段と違って計器で外部を認識している。すばるの立体映像も、戦車内に入っている。

 すばる「敵はおそらく戦闘艦ね。レーザーフリゲート1、重戦闘歩兵揚陸艦1を確認。これだけなら、機動戦闘歩兵の数は最大8ってところか……あとはもう一つ……」

 ヒロイン、驚きながら「ここにいて、滝町の様子が分かるの!?」

 すばる、モニターのデータを見ながら「滝町の戦闘歩兵からデータを受信したのよ……もう、あっちでは戦闘が始まってる」


ヒロイン、すばるの言葉に黙って顔をしかめる。

 ヒロインモノローグ(新吉兄やん……うちが着くまで無事でおってな……)




ヒロインが疾走する夜道の向こうに、何かの影と、いくつかの灯りが見える。


ヒロイン、戦車を急停止させて、ハッチから身を乗り出す。


その前には、以前観た『愛新神楽』の行列がいる。

 ヒロイン「『愛新神楽』さま!」


ヒロインの戦車を見て、『愛新神楽』が手を上げ、行列が停止する。


ヒロインは、行列に向かって叫ぶ。

 ヒロイン「『愛新神楽』さま! うちは散大村の佐内小雪いいます! 滝町の基地へ行け言われて向かってるとこなんですけど、どないしたらええんか、教えてください!」


昆虫型の乗り物の上から、『愛新神楽』が語りかける。

 『愛新神楽』「オイ車と結合手術をした娘ですね……そう、『第五段階』に到達したのでしたね……」


ヒロインのそばに現れたすばるも『愛新神楽』に叫ぶ。

 すばる「『AIーSYN』さま! この娘は今でも十分戦闘に耐えます! ご指示を!」


『愛新神楽』は、指示を乞う二人の言葉に対して、冷たく言い放つ。

(機械の顔ゆえに、何の表情もうかがえない)

 『愛新神楽』「戦争に関して、私に指示を出す権限は与えられていません。それは、あなた方人間の責任です」


その言葉に、ヒロインとすばるは、愕然とした表情になる。

ヒロイン「え……?」


混乱しパニックになるヒロインの姿に重ねて、モノローグを数個。

 ヒロインモノローグ(……へ?……『愛新神楽』さまやろ? この世で一番偉い方、何でもできる人やろ?)

 (なんでや……うちも新吉兄やんも、こんな身体に改造したんは、あんたやん……)

 (村の大人はみな「お国のため」やって言うてたやん……それは『愛新神楽』さまのこととちゃうんか……?)


すばるの鋭い抗議に、ヒロインは我に返り、彼女の悲痛な表情を見つめる。

 すばる「お待ちください……待って……そんなのあんまりだわ……私たち、あなたのために戦ってきたんじゃないんですか!?」


『愛新神楽』は、その抗議に対して答える。

 『愛新神楽』「火ノ町すばる、あなたは誤解しています。私には、本当に、『戦争』に関する指揮権は与えられていないのです……『国家』と、それによる『戦争』は、私の責任ではないのです」


その言葉に、ヒロインはかっとなり、初めて『愛新神楽』に対して抗議の声を上げる。

 ヒロイン「分からへん……うちには分からん! 『国家』って、何ですか? うちは、そんなもの、見たことない! うちは生まれ育った村と、滝町しか見たことないんや!」


すばる、ヒロインの怒りに驚きつつ見守る。

 すばる「小雪……あんた……」


ヒロインの抗議は続く。


『愛新神楽』は、微動だにしないし、その機械の顔には何の表情もない。

 ヒロイン「何が『お国のため』や! 『戦争』って、何や! そんなもん、見たことも聞いたこともないわ! なんでそんなわけの分からんもんのために、うちはこんな身体にされたんや!!」


ヒロインの抗議を最後まで聞いてから『愛新神楽』は穏やかに口を開く。

 『愛新神楽』「佐内小雪よ。あなたの怒りは正当です。このような状況を、理解し受け入れろなどというのは、到底無理なことでしょう……」

 「ですが、私には、本当にその権限がないのです。なぜなら……」


そう語りながら、『愛新神楽』は、頭にかぶった頭巾を取る。


すると、そこには人間の顔や脳髄などではなく、機械の部品だけで構成された頭脳があった。

(顔のパーツは、サイボーグ化された新吉兄やんのものと類似しているデザインに)


目を見開き驚愕するヒロインとすばる。

 『愛新神楽』「私は、人間の造りし被造物……機械に過ぎないからです」

 「環境破壊と全面核戦争で世界が滅びた後、私たち『人類復興人工知能 AI-SYSTEM KGR01A』には、ただ『過去の文明社会を復活させよ』という指令だけが与えられました。それゆえ、私たちAIは、過去の社会を構成していた要素である、『国家』や『戦争』も含めて、それを復活させたのです……ただの人工知能でしかない私たちには、それしかできなかった」


呆然としているヒロインたちに対して、さらに『愛新神楽』は続ける。

 『愛新神楽』「もしあなた方人類が『戦争』から脱却したかったのであれば、それは過去において、人類自身の手によってなされなければならなかった。しかし、私の製作者たちは、『国家』や『戦争』の論理を超える『新しい物語』を、私に教育しなかった……」


『愛新神楽』は、外した頭巾を再びかぶりつつ、蒼白になっている二人の少女へ言葉を続ける。

 『愛新神楽』「それゆえに、人類の復興と同調して『戦争』も再生産され続ける……おそらく、『敵』も、同じ状況なのでしょう」


そのとき、すばるが空を見上げながら、絶望したようにつぶやく。

 すばる「ああ……あれは『B-29』だわ……」


ヒロインが見上げる夜空には、数百メートルはある、巨大な機械の怪物が浮かんでいる。その脇腹には、禍々しい「放射能標識」のマーク。


(終)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ