8.お昼ご飯の一幕
バスケ対決。
これまで圧倒的な点差をつけて勝ってきた山下チーム。対してこれまで接戦を勝っていた小野寺チーム。観客である生徒達は山下チームが勝つと思っていた。対戦をした感覚的に、山下チームの方が勝ち目がないと感じる場面が多かったからである。
しかし、それがどうだろう。
山下チームが今は負けている。僅差ではあるがそれは小野寺チームがほどよく手を抜いているから。
生徒達はその光景に驚きを隠せないでいた。
山下はこれまでのあらゆる競技で部活メンバー達をコテンパンに負かしてきた。少しやれば部活メンバーに勝てる程に彼の運動神経は優れていたのだ。
***
ピーーーーッ!
試合終了のホイッスルが鳴る。
俺はバウンドさせていたバスケットボールを持ち、コート中心へと向かう。
「小野寺チームの勝ち!」
森下がそう言って俺たちの方へ手を向ける。
見ていた生徒達から拍手と歓声が寄せられる。
結果としては俺たちの勝ち。点差だけを見ればまるで接戦をしたような形であるが、試合の中身は全く違っていた。こちらが圧倒的に上だった。遼太郎と明美さんのコンビネーションを止められたことは一度もなかったのだ。
そして何と、俺も点を決めることが出来た。遼太郎からゴール下で待っとけと言われたから待ってたら手元にボールが来たのだ。ちひろが俺のシュートをブロックしようとしたけどそこは俺も男子。華麗に躱してやったぜ。
「ちっ」
山下は不満げだ。余程俺たちに負けたことが気に入らないらしい。
そしてそれはちひろも同じで俺を汚物を見るような目で見ている。
「では、今日の授業はこれにて終了! 片付けをして解散!」
森下は特に整列などをさせる事なく、その場で解散とさせた。
片付けは体育委員の仕事なので、体育委員は片付けを始めた。もちろん、それを周りの生徒が手伝ったりしている。
「おい」
山下が俺たちに話しかけてくる。
いや、山下の目は俺だけを見ていた。なぜ、俺なんだろうか。
「なに」
「勝ったからって調子のんじゃねぇぞ。お前の力じゃないからよ」
「分かってるよ。二人のおかげってことくらいは」
「はっ。そりゃそうだ。てめぇみたいな奴は他人の力にすがって生きていくんだよ」
以前からそうだ。こいつは妙に俺を敵視している。俺を下に見て。俺を堕として自分が上だと認識する。
「なん…」
「そうね」
俺が言葉を発しようとしたら、聞き慣れた声が間から入ってくる。
ちひろだ。ちひろが俺に向かって言葉を発していた。苛立ちが見て取れる。
「ちひろ…」
「気安く呼ばないでくれる? もう彼氏じゃないんだし」
「……」
随分と嫌われたものだ。でも不思議と悲しくはならない。
それは遼太郎が言ってくれたから、姉さんが言ってくれたから。そして浜松さんが教えてくれたから。
「そうだな。悪かったよ」
「…何? その変わり様」
「どういう意味だ?」
「この前まで私と別れて落ち込んでたじゃない」
「ああ」
「それが何? 今のそのすっきりした顔は」
すっきりした顔か。それはきっとみんなのおかげだろうな。自分を自分で評価するようになったからだろうな。
「むかつくわね」
怒気を露わにする。何がそこまで気にくわないのだろうか。
「もう良いわ」
「お、おい、ちひろ…」
ちひろは俺を見下すような目をしたあと、振り返って行ってしまった。
そして山下もそれを追うように去って行った。
「なんだったんだあれ」
「さぁ?」
遼太郎が話しかけてきたので、分からないと返しておく。
なぜあそこまで嫌っているのか、敵視しているのか俺には分からなかった。
***
体育が終わって、数時間。午前中の授業が終わり、昼休みの時間がやってきた。
さて、ここで俺達に問題が発生した。
いつもは俺と遼太郎でご飯を食べている。座席も前後だし、移動しなくていいしな。お互いが弁当を開き、適当な話をしながらご飯を食べている。
しかし、それがどういうことだろう。今、俺と遼太郎の座席の近くに居て、一緒にご飯を食べているメンバーが追加で二人いた。
「おい…! 何この状況…!」
「いや、分からん…!」
俺と遼太郎は二人でこそこそと話し合う。
俺たちは入学してかずっと二人でご飯を食べてきた。故に、今の状況が理解出来ないのだ。
「あら、二人で何を話しているのですか? 私達も混ぜて下さい」
「そうそう! 内緒話とか良くないよ!」
女子二人が声を上げる。片方は浜松さんで、もう片方は高橋さんだ。
浜松さんは同じクラスだし、まだ良いとして。高橋さん。あなた何やってるの?
違うクラスだよね? 遼太郎を狙っているのだとしても行動力すごすぎない?
「いや、内緒話って訳じゃ」
「じゃあ、何話してたの?」
「う、そ、それは~」
「二人と食べれるなんて良い日だなってさ!」
遼太郎が言葉に詰まった俺を見かねてうまくフォローを入れてくれた。
でも、それ言っちゃうとさ…。
「それは嬉しいですね」
「ね! ちょっと嫌なんじゃないかとか思っちゃったよ!」
「明日からもご一緒しても良さそうですね」
「それ良いね!! これからは四人でご飯だ!」
ほらあ。こうなった。だって、浜松さん、なんか目が笑ってたもん。
この子絶対、遼太郎と高橋さんのこと面白がってるよなぁ。
だがしかし。そんな簡単にやられてやる男ではない!
「…でも、今まで食べてた人とか大丈夫? 今日は良いとしても他の日もずっとってなったら少し気まずくなるんじゃない?」
カウンターだ!
ほらどうだ!
「私は一人で食べていたので大丈夫ですよ」
そうだった! いつも浜松さん一人で食べてるじゃん! しかし! 高橋さん、君は違うだろう! 何せ、君は可愛い部類に余裕で入る人だ! いつも複数で食べてそうだもん!
「あ、私も大丈夫! その、友達には言ってきたし…」
ちょっと頬を染めながらそう言ってご飯を口に運ぶ高橋さん。
言ってきただと!? それはもう確信犯じゃないか!
「おい…! どうすんだよ!」
「知らねえよ…! 俺たちも同意するしかないだろ…!」
「なに~? また二人でこそこそ話~?」
今まで男二人で食べてきたのだ。女子にそんなことを言われたら俺たちは従うしかない。
逆らえない。浜松さんからの圧がすごい…。
「い、いや。俺たちも嬉しいなってさ!」
「え~? それ誰にでも言ってんじゃないの~」
「そうですね。言ってそうです」
うっぜぇぇぇ!!
「いやいや、そんなことないよ。俺たち女子と初めてご飯食べるし。な? 遼太郎」
「あ、そうそう! 俺たちいつも二人で食べてたからさ!」
「まあ、それは嬉しいですね。私達が初めてなんて」
「そ、そうだね!」
てめぇ浜松! お前はいつも同じ教室で食べてるんだから知ってるだろ!
「じゃ、じゃあ明日からもきていいってこと?」
高橋さんが頬をバラ色に染めながら上目遣いで遼太郎に聞く。
「あ、う、うん! もちろん!」
「やった!」
高橋さんは子供みたく喜んでいる。その横で、浜松さんがにやっと笑った。食事中なのでマスクを外しており表情がよく分かる。
楽しんでやがる…。
純粋な高橋さんと、計画的な浜松さん。対照的な二人と俺たちは昼食を取ることになった。




