24.お返し
彼女は先ほど慌てふためいていたにも関わらず、机に向かうとすぐに集中し始めた。
去年も同じ感じだった。俺が側で見ているととても集中できるのだそうだ。
「あ、春成さん。ここの問題なんですけど…。いいですか?」
「あ、うん。もちろん」
彼女からの要求があった時のみ、彼女の近くに椅子を寄せ、教える。
これも去年と変わらない。
「ああ、これね。……うん、この問題はこれをXに置いて、これを使ってYを表すんだ」
「あ、こっちをXにするんですね! ありがとうございます!」
数学の問題ならば分からない問題はない。俺は数学だけは得意だから。
でも、最初聞いてた話だとどうしても分からない問題があるから、って聞いてたんだけど。
なんか全般的に教える感じになってるな。
数十分後。
「あ、すいません。これなんですけど…」
「あ、確率ね~。難しいよね。これはね余事象を使って求めるといいよ」
「余事象! 分かりましたやってみます!」
さらに数十分後。
「あの…」
「あ、この問題はね…」
そんな風に、数十分に一回、やってくる彼女の疑問を解消しつつ俺は午前中を過ごした。
「ん~!」
「お、終わり?」
「はい! そろそろお昼ご飯なので一旦終わろうかと!」
「そうだね~。休憩は大事だしね」
部屋の壁に掛けられている可愛い兎の時計を見ると12:00を指していた。
俺がこの家に来たのが9時くらいだから3時間くらいは勉強をしていたことになる。
「あ、午後からはお兄ちゃんと遊んで大丈夫です!」
「そ? もう大丈夫?」
「はい! 今日だけで分からなかったことが色々解消したので!」
「なら良かったよ」
彼女の頑張りを目の当たりにした俺としては全然午後もやって良いのだが、どうやら気を遣ってくれているみたいだ。
なら、遠慮なく遊ぼう。元々そう言う予定だしな。
「あ、そう言えば」
「ん?」
彼女は伸びをした後、ふと思い出した様に俺の耳を見た。
「そのイヤーカフって前からしてました?」
「ああ、これ? クリスマスプレゼントで貰って、それでつけてる。変?」
「いえ! 私はとっても似合ってると思いますよ?」
彼女は、クリスマスの時の胡町と同じ様な顔をする。
何やら良い物を見たみたいな嬉しそうな笑み。
そんな顔をされるとこっちが照れくさくなってきてしまう。
「お姉さんとかからですか?」
彼女は微笑みを浮かべながら聞いた。
「あ、いや。胡町…浜松さんからだけど」
下の名前で言っても覚えていないかも知れないから一応、フルネームで言っておく。
「へえ。胡町さんから。ねぇ」
彼女は変わらず微笑んでいる。
でも俺にはその笑みの意味が変わった様に感じた。良い度胸ねとか言い出しそうな顔をしているのだ。
「…どうした…?」
「いえ? 特に何もないですよ? ふふっ」
コッワぁ。
胡町と千朿ちゃんはなんか因縁でもあるのかなぁ。部活で歳を超えたライバルだったとかか…?
「あ、そうだ! なら私もあるんですよ」
「え? 何が?」
彼女は立ち上がってクローゼットの中をごそごそと、何かを探している。
なんだ…?
「もうクリスマスって時期じゃないけど……、これ」
彼女はプレゼント用に包装された箱を取り出した。
こっちにやってきて、両手で俺に手渡そうとしている。
「これは?」
「クリスマスプレゼントくれたじゃないですか。それのお返しです!」
彼女は満面の笑みだ。
無邪気にそんな風に笑われたら受け取らざるを得ない。
「あ、ありがとう!」
「はい! 開けてみて下さい!」
俺は彼女の言葉に従って包装を丁寧に破り、中身を取り出した。
出てきたのはシルバーのアクセサリーだった。
「……指輪?」
銀色に輝く指輪は少し太めでつけたらとても目立ちそうな見た目をしていた。
「はい! そんなに高いものじゃないですけどつけてくれれば良いなって!」
「え、でも、俺あげたのぬいぐるみだよ?」
「ぬいぐるみが凄く嬉しかったので! 春成さんに似合うかなと思って買いました!」
彼女はひまわりのような笑顔を咲かせる。
本当に俺のことを思って選んでくれたのがよく分かる笑顔だ。
「ありがとう。じゃあ、つけてみるよ」
「はい!」
俺は指輪を親指に通した。
俺の手はそこまで太くないので親指でも難なく指輪はハマった。
「ど、どう?」
親指を数秒見つめた後、俺は千朿ちゃんへと視線を移す。
彼女は俺の指を眺めながら優しい顔をしていた。
「とても似合ってますよ。これからもつけて下さいね?」
「あ、うん。もちろんつけるよ」
胡町といい、千朿ちゃんといい、なぜか俺にアクセサリーをつけることを望んできている。
もしかして、俺はアクセサリーが似合いそうな見た目をしているのだろうか?
そのうちアクセサリーまみれになりそうだななどと、ニコニコしている千朿ちゃんを見ながら考えていると部屋がノックされた。
「お~い。昼、出来たぞ~」
遼太郎が昼ご飯が出来たことを告げに来たようだ。
「は~い。じゃ、ご飯食べに行きますか。春成さん」
「あ、おう」
軽く足を弾ませながらドアを開けて階段を降りていく千朿ちゃん。
遼太郎はそんな千朿ちゃんを見ながらこちらを向いた。
「なんかあった?」
「指輪貰った」
「指輪……。ふ~ん」
遼太郎は得心がいったような顔をして頷くと、顔をにやつかせてこちらを見た。
そして何も言うことなく階段を降りた行く。
「……?」
遼太郎が何を考えているのかは分からなかった俺は、その場に少し立ち尽くした後、階段を降りて1階へと昼食を食べるために向かった。
昼食はまさかのハンバーグオムライスだった。




