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23.お勉強を教えるよ!


 土曜日。

 俺は胡町に言われた通りにイヤーカフをつけて遼太郎の家に来ていた。

 服装はいつもと替わらず、真っ赤なパーカーにウィンドブレーカーのズボンを着ていた。

 特に着飾るような相手でない以上どれだけ楽な格好を出来るかが重要だ。


「お、来たな」

「よ。今日はお邪魔するぜ」


 インターホンを押すとこちらもダル着姿の遼太郎が出来てきた。

 そしてその後ろから。


「春成さん! いらっしゃい!」

「おお、千朿ちゃん。おはよ」

「はい! おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」


 千朿ちゃんがひょこっと姿を現した。

 短めの灰色スカートに、オーバーサイズのセーターを着てる。髪は後ろでまとめている。

 彼女はいつもこういう外向けの服装だ。まあ、年頃の女の子と言うことだろう。


「ほれ、寒いだろ。入れ入れ」

「ういうい。お邪魔しまっすと」


 遼太郎の家に入った後はまず、そのままリビングへ直行だ。


「あら。来たのね~。ゆっくりしていってね~」

「あ、はい。ありがとうございます」

「今日は夕ご飯食べたら帰るんでしょう?」

「その予定です。ごちそうになります」


 テレビを見ていた遼太郎ママがこちらを向いて笑っている。

 今日は夕ご飯を食べて21:00くらいに帰る予定だ。


「はいは~い。食べたいものはある?」

「美智子さんの料理なら何でも美味しいので、何でも大丈夫です」

「あら。嬉しいこと言うわね。わかったわ」


 一ノ瀬美智子。遼太郎ママの名前だ。名前で呼んでくれと言われているのだ。


「じゃ、春成さん。早速お願いしてもいいですか?」

「あ、うん。もちろんだよ」


 遼太郎ママとの会話が終わったと判断したのだろう。

 千朿ちゃんが視界の隅から姿を現して、上目遣いでお願いしてきた。

 元々その約束だったので、俺は千朿ちゃんと一緒に千朿ちゃんの部屋へと向かった。






「相変わらず、ぬいぐるみ王国だね…」

「す、好きなんですから良いじゃないですか」


 二階に上がって千朿ちゃんの部屋に入ると相変わらずのぬいぐるみの多さだった。

 彼女は小さい頃から集めているらしく、多くのぬいぐるみが飾られている。しかも綺麗な状態で。

 彼女はぬいぐるみが大好きなのだが、それを他人から言われるのは恥ずかしいらしく、今も不満げな顔をしている。


「あ、俺があげたやつも飾ってくれてる」


 彼女のベッドの上にはクリスマスプレゼントとして彼女にあげたぬいぐるみが置いてあった。20センチくらいの犬が座っているぬいぐるみだ。


「あ、はい! プレゼントしてくれてありがとうございました! とっても抱き心地いいんですあれ!」

「そ、そうなの? 喜んでくれたなら良かったよ」


 彼女はベッドまで歩いて行って、ぬいぐるみを抱き上げてぎゅっと抱きしめている。

 まあ、形的にも抱きしめやすそうだ。手と足が前に出ているのでカタカナの「ヒ」みたいな形になっているからね。手と足の隙間に腕を入れて抱けばとてもフィットするだろう。


「ええ! 本当にありがとうございます!」

「いえいえ」


 喜びをここまで表現してくれるとあげた方としては嬉しい限りだ。


「あ、そうだ! 春成さんも抱いてみますか?」

「え、いや俺は」

「はい! どうぞ!」

「あ、ありがとう」


 千朿ちゃんが犬のぬいぐるみを抱かせようと俺に押しつけてくる。

 戸惑いながらも、満面の笑みで渡してくる千朿ちゃんに、別にいいとは言えず、受け取って抱きしめる。


 あ、結構良いかも…。


 千朿ちゃんがやっていたみたいにぎゅっと抱きしめると、心が満たされていく気がする。結構ハマりそう…。


「ふふっ。かわい」

「ん?」


 俺を見ながら小さく笑った千朿ちゃん。

 本人は小声で言ったつもりだったのだろうか。でもはっきり聞こえてしまった。


「かわいい?」


 俺の方を見て微笑んでた千朿ちゃんに思わず、その言葉を聞き返してしまう。


「うえっ!? き、聞こえて…」

「いや、結構大きかったよ…?」


 なんで! みたいな顔でこっちを見る千朿ちゃん。

 聞こえていないふりをした方が良かったかな。どんどん、彼女の顔が赤くなっていってる。

 効果音をつけるなら「はわわわ」だろうか?


「き、聞き間違いですよ!」


 おお、思い切った手段に出たな。だが俺も年上。ここは乗っておこう…。


「そ、そう?」

「そうです! あ! ぬ、ぬいぐるみに言ったんです! 正面から見て可愛いなって! ん、ぬいぐるみがね!?」

「あ、うん。そうだったんだね」


 聞き間違いって言った直後にこれである。

 彼女がそう言うならそうだろう。多分。


「そ、そうです…。さ、さ! 春成さん! 勉強教えて下さい…!」

「え、あ、はい」


 彼女は慌てた様子で勉強机に向う。

 俺もぬいぐるみをベッドの上に座らせて勉強机の側にあるもう一つの椅子に腰をかけた。

 

 チラリと机の上を見ると、参考書やノートが開かれ、黒と赤の2色で様々な書き込みがされている。書き込まれた量と、横に積み上がるノートの数を見れば彼女の努力が伺えた。


 この子は本当に努力家だなぁ。

 そう思いながら俺は彼女が勉強をし始めたのを見ていた。


 


 

 

 




 

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