22.イヤーカフの圧
「え? 勉強手伝って欲しい? この時期に?」
昼休み。
遼太郎と2人で学食でご飯食べていると唐突に千朿ちゃんの話をし始めた。
ちなみに今日は2人とも弁当を持ってきてないため、女子ズ2人とは別で学食だ。
「千朿のやつが手伝って欲しいって」
「でももう俺より頭いいでしょ」
「俺もそう言ったんだよ。この前なんて模試でほぼ満点だったのに」
「マジかよ。天才じゃん」
模試で満点近く取れるなら俺たちの高校は問題なく通るだろう。いくら進学校とは言っても天才たちが来るような所じゃない。模試でほぼ満点がとれる学力があって通らないことはない。
「でもなんかどうしても分からない問題があるからって頼まれてさ〜」
「へぇ」
「頼む。今週の土曜日、家に遊びに来るついでで良いから!」
「お、いいね。それならOK」
「よっしゃ! サンキュ!」
今週の土曜日に遼太郎の家に行くなんて予定はなかったが遊びに来いと言うので行くことに決めた。
千朿ちゃんの勉強を見るのはちょっと気が引けるのだ。あの子の頭が良すぎて。
去年の最初の方もどんどん俺の教えることなくなって後半は俺は遼太郎の部屋から取ってきた漫画を読んでいただけだ。
必要なさそうだから帰ろうかと言ってもそこにいろと言われるのだ。見ていてくれる方がやる気が出るらしい。監視の目がいるみたいな感じだろう。
それで帰り際に可愛らしい笑みで「ありがと!」と言われるのだ。なんか申し訳ない。
今回もそうなる気がして居たが分からない問題だけ教えて必要なさそうだったら遼太郎の部屋で遊べばいい。
それならバッチグーだ!
放課後になると、俺たちは土曜日の計画を立て始めた。
遼太郎が後ろをむき、俺の机にスマホを置く。最近2人でやっていた格闘ゲームの新作が出たのでそれをやるか。はたまた2人で難易度の高い乙女ゲーを攻略するか。
お菓子はなんのお菓子を用意するか、飲み物は何にするかなど細部までメモに打ち出し、相談していく。
「何やってるの?」
放課後になっても帰らない俺たちを不思議に思ったのか胡町が俺たちに声をかけた。俺たちのスマホを覗くように上から見下ろしている。
「今週末に遼太郎の家で遊ぶんだ。その計画を立ててる」
「へぇ…一ノ瀬くんの家で」
「ああ。俺の妹が遼太郎に勉強教わりたいって言うからそのついでにな」
「勉強…。この時期に?」
「わかんない問題があるらしいからそれを教えて、俺は遼太郎と遊ぶんだ」
「……そうなの」
おや? 不満そうだ。マスクの上からでも分かる。
多分、高校生と中学生が同じ部屋に2人きりって言うのが不健全だと思っているのだろう。
だが安心して欲しい。俺は中学生に手を出すつもりは無い!
「大丈夫だ。前も言ったけど、俺は何もしないから」
「ああ、そういうこと? 浜松さん、大丈夫。多分何もないから」
千朿ちゃんの兄である遼太郎が補足してくれるのはとてもありがたい。多分って聞こえたのは俺の聞き間違いだろう。
「そう。……なら安心ね。春成、千朿ちゃんは大事な時期なんだからちゃんと教えてあげてね」
「もちのろん」
俺は一体彼女中でどう思われているのだろう?
最近、ちょっと心配になってきた。さすがに受験期の中学生に適当に教えるってことはしないんだけど…。
「うん。じゃあまた明日ね」
「ばいば〜い」
満足したのか、胡町は帰って行った。
「さ、続きだ。遼太郎」
「おうよ!」
俺たちは再び、計画を立て始めた。
金曜日。
今日はいつも通り4人で昼食を食べていると、ふと高橋さんが土曜日のことを話題に出した。
「そう言えば、聞いたけど土曜日は2人で遼太郎の家で遊ぶんだって?」
高橋さんはいつからか、「くん」付けをやめていた。
「あ、うん。朝から晩まで」
あ、この唐揚げ美味。肉汁が飛び出てきたぜ。
「2人の時って何して遊んでるんの?」
こっちの筑前煮も美味いな。特にレンコンが。
「大体ゲームだな〜。な、春成」
「ん? あ、うん。そうそう」
「そう言えばクリスマス会の時に結構ゲーム置いてるのが見えたわね」
「そそ。遼太郎ってゲーム好きだから色んな種類のゲーム持ってるからやらせてもらってるんだ」
「最近はあんまり行ってないけど春成の家にもゲームしに泊まりに行った事あるぞ」
「へぇ。お互いが行きあってるって感じなんだね!」
「まぁ、そんな感じか?」
高橋さんは嬉しそうに手をパチンと叩いた。なんで俺と遼太郎の話聞いて嬉しそうなんだろうか。遼太郎の知らない一面を知ったとか?
……考えるのはやめよう。なんかムカついてきた。
「明日は泊まったりはしないの?」
高橋さんは聞いてくる。なぜそんなに気になるんだ…。
「泊まりはしないよ。夜ご飯だけご馳走になって帰る感じだな」
「春成が来た時はおかんと千朿が気合い入れて作るからな。明日は午後になったら仕込み始めてるんじゃないか?」
「あら、千朿ちゃんも作るの?」
「ん、ああ。2人でいつも作ってるぞ」
「な。毎回そんなに気合い入れなくてもとは言ってるんだけど」
あの2人、というか、お父さんも合わせてあの3人は俺が行くとなんか楽しそうというか嬉しそうというか。なんでも中学生の時、遼太郎は友達がいなかったらしいからそれが関係しているのだろうな。
「ま、いいじゃん。俺も気合い入った飯食べれてラッキーだしさ」
「俺としては少し気が引けるんだけどな」
「てことはさ! お風呂とかも入るの? ご飯って普通お風呂の後じゃん?」
何を言ってるんだこの子は。お風呂の順番はそれぞれだろう。自分の家のルールが常識だと思ってるとか、どれだけ純粋なんだ…。
「入るよ」
「やっぱりね!」
うん。入らせてもらってるけどね。泊まっていくこともあるので遼太郎の家には俺の下着と服が何枚か置いてある。もちろん遼太郎の部屋に。さすがにリビングとかには置いて欲しくないのでそうしてる。
「その、もちろん一人よね?」
ちょっと小声で胡町が言う。
「もちろん」
「よ、よね」
何でそんなこと聞いてくるんですか。胡町さん。
「ね、ねぇ。服装とかってラフな感じなの…?」
高橋さんがもしかして。みたいな顔でニヤつきながら躊躇いがちに聞いてきた。さっきからなんなの…。
「うん。ラフな感じ」
「冬はパーカにジャージ。夏は半袖半ズボンだよな」
「だな」
「うわぁ…! いいなぁ…」
「いいな?」
「あ、うん。その。私さ、あんまりそういうお泊まりし合える友達とか、オフを見せられる人って居なくて…。憧れてるんだぁ…」
あ、なるほど。そういう事ね。
まぁ俺も遼太郎と友達になるまでそんな人いなかったし、ちょっと憧れる気持ちはわかるぞ。うん。
「あら。じゃあ私達もする? お泊まり会」
そんなことを胡町が言った。
「え! いいの!?」
「いいわよ。来週とかどうかしら?」
「うん! 予定空けとくね!」
「ええ。色々決めていきましょ」
「うん!!」
高橋さんが満面の笑みだ。そしてそれを見る胡町も口元が少し上がっている。
そしてニコニコの高橋さんの頭を胡町が撫で始めた。髪の流れに沿って優しく、丁寧に。
仲睦まじい2人だなぁ。
「あ、服装と言えば、春成。あのイヤーカフつけてくれてる?」
高橋さんを撫でながらこちらを向いた。
「ん? ああ外出る時はつけてるよ」
「ふふっ。気に入ってくれて何よりだわ。明日もつけていってね?」
「え、明日?」
「とっても似合っているもの。一ノ瀬くんのご家族にも見せてあげて?」
「うん! 私もそれがいいと思う!」
「そ、そうか? じゃあ、付けていくわ」
「ええ」
元々無くしたらいけないから付けていくつもりはなかったのだがそんなに言うならつけていこう。
に、似合っているらしいし。
あ、この唐揚げやっぱうまっ。
俺は気づかなかった。
弁当の唐揚げを食べる俺を見てニヤリとほくそ笑んでいる胡町に。




