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18.お正月っていいよねぇ



「あけまして、おめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」


 1月1日。

 大晦日に夜更かし初ゲームをしていた俺は昼過ぎに起きた。自室を出ようとすると姉もちょうど起きたのか隣の部屋からでてきたので新年の挨拶をした。

 我が家では家族でもちゃんと「あけましておめでとうございます」言うのがルールだ。言わないと母さんから少しお小言をいただいてしまう。


「しゅんも夜更かししてたみたいね」

「姉さん、なんで分かるの」

「ゲームしながら喋ってたでしょ。声がしてたわ」

「あ、聞こえてたんだ」


 ネットの友達との会話が聞こえてたらしい。なんとも恥ずかしい限りだ。


 

「姉さんも今起きたの?」

「そうよ〜。昨日お父さんとあの後長くてね〜」

「盛り上がったもんね〜」



 姉さんは年末年始は家にいる父とオセロをしていた。2人は小さい頃から何故か競い合っているのだ。小学生の時に父さんが負けているのは見たことがある。


「結局昨日の勝敗は?」

「25勝21負で私の勝ち!」


 サムズアップをする姉さん。いい笑顔だ。寝癖が跳ねているが。


 2人揃って一階に降りると既に両親は起きており、母は台所でお雑煮の準備をしている。父はコタツでバラエティを見ていた。

 部屋が暖房で暖かい。

 

「あら、起きてきたのね。あけましておめでとうございます」

「「あけましておめでとうございます」」

「ほら、お父さんも」

「んあ、おう。あけましておめでとうございます」

「「あけましておめでとうございます」」


 父と母に2人で新年のご挨拶をする。

 それが終わると俺と姉さんは、父のいるコタツに入った。

 3人でバラエティを楽しみ始める。


 そのバラエティはいつもゲストを招き、トークで番組を盛り上げる芸人が珍しくロケに行く番組だ。

 姉さんも俺も父も好きな芸人たちなの三者三様に笑っていた。


「出来たわよ〜」

「あ、は〜い」


 ゲラゲラと笑う俺たちに投げかけられた母の言葉で俺たちはダイニングテーブルの方へ移動する。

 ちなみに今日はお正月なのでみんなパジャマのままだ。俺と姉さんはモコモコの鹿のロゴが入ったパジャマ。母と父は前開きの一般的なTheパジャマって感じのやつだ。


「あ、今年も星型だ〜」

「昔から好きでしょ? こういうの」

「うん! テンション上がるよね!」


 星型に切られた人参を嬉しそうに食べる姉。


「うん、やっぱり母さんの雑煮が世界一だ」

「ふふ。当たり前でしょう?」

「ああ!」


 美味そうに雑煮をすする父。


「美味しいよ。ありがと、母さん。世界一だ」

「ふふ。ありがとう」


 同じく雑煮をすする俺。

 出汁の聞いたすまし汁。その味が染み込んだ鶏肉や人参、ゴボウ。優しい味が口の中にじんわりと広がる。 

 穏やかに過ごす正月と言うのは本当にいいものだ。

 この後は特に予定もなく、初詣は明日の予定なのでみんなでダラダラすることになるだろう。




 そして案の定、俺たちは全員パジャマのままでリビングで過ごすことになった。特に誰もそう言ってはいないが自然とみんながリビングにいる。

 父と姉さんはコタツに入って、俺はソファで毛布にくるまり、母はダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいる。

 やっていることはそれぞれだ。父と姉さんは昨日のオセロの続き。今の所姉さんが優勢だ。母さんは読書。俺はテレビ鑑賞。

 やっていることは違うが自然と同じ空間にいる。家族って言うのはやっぱりどこか繋がっているんだろう。




 ピンポーン。

 


 皆が思い思いの時間を過ごしていると、チャイムがなった。


「あら、誰か来たわね」

「俺出るよ」


 率先して俺が動いた。

 俺しか出れないからだ。さすがに両親と大学生の姉さんがこの昼過ぎの時間にパジャマで出るわけにはいかないだろう。

 俺なら男子高校生だ。男子高校生なんてそんなもんだろう。


「は〜い。どちら様でって、お前かよ」

「よ! あけおめ、春成。…まだパジャマまじ?」


 つっかけに足を入れて玄関を開けると、マフラーとニット帽を被った遼太郎がいた。


「あけおめ。何しに来たんだ? 上がるか?」


 遼太郎はよくうちに来ている。俺たちはお互いの家を行き来しているのだ。なのでもちろん俺の両親や姉さんもこいつのことは知っている。

 別にリビングに入れなければ3人のパジャマ姿は見られないから問題ない。


「あ、いや。これ渡しに来ただけ~」


 しかし、遼太郎は上がるつもりはなかったらしく、手に持っていた紙袋を俺に手渡した。


「なんだこれ? 洋物のお菓子か?」

「そ。ほらち千朿が勉強教えてもらってたろ? 母さんがそのお礼で渡して来いってさ」

「え、マジで? そんな別にいいのに…」

「まぁまぁ、貰ってくれよ。俺たち家族からのお礼の気持ちだよ」

「勉強教えただけで大袈裟な…」

「お前が教えてからあいつ、めちゃくちゃ成績伸びたんだぜ? 感謝しかねぇよ」


 それは別に俺のおかげじゃないだろう。

 千朿ちゃんが頑張って勉強した成果だ。俺は分からない問題とかのアドバイスと簡単な考え方くらいしか教えていない。

 だがまぁ、断るのもなんかあれだし、貰っておくか。


「ありがとうございますって、伝えておいてくれ」

「おうよ! じゃな。今日はそんだけだから〜」

「あ、おう」


 じゃ、と片手を上げて帰り始めた遼太郎に俺も手を振る。これだけのために寒い中それなりに距離のある俺の家までやってきたのだから中々やりおる。


「あ、そうだ」

「ん?」


 遼太郎の姿が見えなくなるまでは見送るかと思っていたら、遼太郎は突然振り向いた。


「俺、高橋さんと付き合うことになったから〜。クリスマス会、ありがとな〜」

「おお! おめでとう〜!」

「んじゃ、また学校でな〜」


 遼太郎は曲がり角を曲がって帰って行った。

 やっぱり付き合ったのかあの2人は。クリスマス会ありがとうってことはやっぱりあの時だろうな。

 それにしても、わざわざ直接言いに来るなんて律儀なやつだなあいつも。


「う〜寒っ」

 

 俺はそんなことを思いながら、外の寒さにひと震えした後玄関を開けて家に入った。



「長かったわね。誰だったの? あら、紙袋?」

「遼太郎だよ。千朿ちゃんの勉強のお礼だって」


 リビングに戻って、来客は誰だったのかと聞く母にそう言いながら、紙袋をテーブルに置いた。


「あらまぁ、それはまたご丁寧に。お礼言ったの?」

「もちろん」


 遼太郎には直接言ってないが、言っておいてって言ったから実質言ったようなもんだろう。


「なになに〜、何が入ってんの〜?」


 寄ってきた姉さんが紙袋の中から早速お菓子の箱を取り出す。オセロをしていた父は負けたのか、9割が白に染っているオセロ盤を見ながら顔を悩ませている。


「あ、これってヨルモックじゃん。デパ地下とかによくある。美味しいお菓子屋さん」

「へぇ〜」


 知らなかった。有名なお菓子屋さんらしい。


「へぇ〜って。しゅん好きじゃんここのお菓子」

「え、そうだっけ?」

「あんたが喜んで食べてるあのビスケット生地クルクル巻いたやつ。あれヨルモックのだよ」

「え! まじ!」

「まじまじ」


 なんと。あれはヨルモックのだったのか!

 ラングドシャーと言うクッキー?があると思うがあれをクルクルと棒状に巻いたお菓子が俺は大好きなのだ。正確にはシガールと言う。

 あのサクサク感とほんのりと甘い味がたまらない。

 たまに母がそれを買ってきて置いてあるのを見ると無意識にサクサクと口に入れてしまう。


「嬉しそうね〜」


 母さんが頬に手を当ててニコニコしているのだが、俺の目にはもうヨルモックしか映らない。

 

「食べよう食べよう!」

「はいはい。紫音ちゃん、開けてくれる?」

「はいよ」


 姉はバリバリと包装を遠慮なく破り、ベリベリと蓋のテープを剥がして机の上に置いた。俺は恐る恐る手を伸ばしながら缶の蓋を開ける。

 中には大量の個別に包装されているシガールと不透明の四角い袋に包装されているクッキーらしきもの。


「ほら、食べな」

「ありがと!」


 俺は椅子を引いて座るとシガールを手に取り、サクサクと口に運ぶ。


「急ぎすぎよ。コーヒーは?」

「ほしい!」

「はいはい。母さんもいる?」

「あら、じゃあ頼もうかしら」 


 姉さんは台所に入りカチャカチャと俺と母さん、そして多分自分の分のコーヒーを作り始める。



 ダラダラとしながらシガールを食べ、姉さんの入れたコーヒーを飲む正月。



 最高!! 


 

 

 


 

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