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ノエルの追憶  作者: 理春
8/8

エピローグ

それから約2年、サラと共に過ごした。

あの頃に戻ったようだと、元気な彼女は、相変わらず趣味のガーデニングに勤しみながら、日々を穏やかに生きていた。

懐かしい味がする魚料理を作ってくれたり、よく散歩した浜辺を一緒に歩いたり、他愛ない話をしながら、洗濯物を畳んだり・・・

時折世話を焼きに来てくれる、サラの娘と孫に囲まれながら、俺と生活を共にしてくれた。


「また・・・・貴方と一緒に星空を見られるなんて・・・」


いつものバルコニーで椅子に腰かけながら、天を仰いだ。

隣の彼女の手をしっかり繋ぎながら。


「俺は・・・・人間がこんなに長生きしてくれる生き物だとは、到底思ってもみなかったよ。」


「ふふ・・・そうでしょう?・・・生きていられる限りはね、生きるべきだと思ったの。たくさんの出来事と・・・たくさん関わって世話を焼いてくれてきた人たちが、私を生かしてくれたから。皆から力をもらって、今ここにいられるの。・・・・貴方に会うまでは、と思い続けていたから、待てたのよ。」


優しく囁くように言葉を紡ぐ彼女の肩を抱いて、そっと頬にキスを落とした。


「愛してるよ、サラ。」


「ふふ・・・こんなおばあちゃんになっても、そう言ってくれるのね。」


「当たり前だろう。」


「・・・貴方の夢は、叶いそう?」


「・・・わからない・・・。けど・・・そうだな・・・サラとまた新しい時間を過ごして・・・俺もまだ諦めきれないなら、諦めるべきではないなと、思うようになってきたよ。」


「そうでしょう?・・・・ねぇノエル・・・私たちに子供は出来なかったけど・・・お互いを支え合えた時間があったから、貴方の時間は続いて行くし・・・命は繋がっていくのよ。」


「・・・・・サラ・・・」


それが

サラと最後に交わした口付けで

サラとの最後の会話になった。


彼女が20歳だったあの頃からの10年間と、再会したサラと生きた2年

彼女は持病も怪我もなく、健康に過ごしていた。

どこも悪い所はなかったが、一緒のベッドで眠った翌日、彼女は穏やかな表情で眠ったまま、二度と目を覚ますことはなかった。


体温を感じなくなったサラの頬に触れて、亡くなったのだと瞬間的に理解したものの

不思議とその時は、悲しいという想いは湧いてこなかった。

心の内で、彼女が残してくれた言葉や気持ちを、何度も繰り返し再生していた。

それらに満たされた心を抱え、何度も彼女の頬を撫でて礼を述べた。


愛してるや、ありがとうを・・・何度も何度も繰り返し口にしているうちに

声が嗚咽で出なくなり、彼女の亡骸を抱いてむせび泣いた。


穏やかな最期だったと思う。

何も苦しむことなく・・・俺と共に過ごす時間も生きてくれて

どうしてこんな俺が、こんなに真っすぐで優しい彼女に愛してもらえたのか、疑問で仕方がなかった。

見送る心の準備くらい、とっくに出来ていたし、自分が死ぬことになっても、俺には生きるのだと、そう言い続けてくれていた。

後は追わないと決めている。

もう一生、俺は同じような気持ちで、誰かを愛することは出来ないかもしれないけど。


「サラ・・・・」


それでも

あの時の彼女のように『行かないで』とは言えない。


「忘れない・・・今までも・・・これからも・・・。」


今度生まれ変わって出会うときは

きっと人間でいよう。

彼女が猫ならば、俺も猫でいよう。

彼女が花なら、同じく隣に咲く花に。


同じ種であることが、愛し合うために重要ではなかったけれど


それでも・・・



彼女を看取り、身内で葬式が執り行われ

その中に自分もいて・・・。

家族に見送られながら、生前の彼女の要望通り、遺灰を海へ撒いた。


天気が良い夕暮れの海辺で、最初に繋いだサラの温もりを思い出していた。



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