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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
海の貧民街
8/40

身代わりの男

 一晩で、色々と変わった。

 特に変わったことがあるとすれば、俺が見る景色が変わったということだ。

 昨日までは、野良の妖精が見える程度だった。それが、一晩たつと、俺の隣りにとんでもない力を持つ男型の妖精がついて離れない、なんて光景を見ることとなった。

「どうして、私がこんな男を咥えるような男の護衛をしなければならないんだ」

「聞こえる!?」

「良かったな、妖精憑きとしての格が一気に上がったぞ」

「わからん!!」

 いきなり、見える妖精も変わってしまった。頭がクラクラするので、俺は早朝稽古を休むことにした。ここにきて、初めてのことだ。

 まあ、俺がタリムを相手に閨事をした、という話が広がっていて、そっち方面で、納得されたが。そうか、タリム、すごいもの持っているって、有名なんだな。

 食事も拒否して、俺は隣りにいる男型の妖精を見上げる。ものすごい美形だ。男型だけど。不機嫌そうに、俺を見下ろしてくる。ハガルで見慣れているので、魅了はされないな。こいつ、完全な男だから、そういうことは起こらないな。

「あの、色々と教えてほしいんだけど」

「いいぞ。話し相手がないから、暇だったんだ。いくらでも聞いてくれ」

 無茶苦茶、偉そうだな、この妖精。まあ、神の使いなんだから、俺よりは偉いよな。

「お前は、ハガルの妖精なのか?」

「そうだ。私はハガルの命令で、お前の護衛をすることとなった」

 頼んでない!!! 本当に、ハガル、勝手にやってくるな!?

 きっと、俺が自殺したりするんじゃないか、と心配になったんだろうな。まあ、飽きたら自殺しちゃえばいいや、と思ったことはあるけどな。俺には生きる目的、ないから。

「楽な命令だ、と言われたのに、お前は妙なところに首を突っ込むし、大変だったんだぞ。お前は気づいていないだろうが、お前が対処出来る格より高い妖精は、私が払ってやってたんだ」

「そうなの!? 知らなかった。すみません。ありがとう」

「片手間だけどな。いいか、お前の護衛だけだ。妖精に寿命を狙われている爺は知らん」

 そうか、実は毎日、俺は妖精に殺されそうになってたんだ。見えない戦いをこの男型の妖精はしていたのだ。

「俺がここにいること、ハガルは知ってるのか?」

「そういう命令は受けていない」

「教えないの!?」

「聞かれたら教える。命令されないことは、俺はしない」

 ということは、ハガルは俺が海の貧民街にいることは知らない、ということか。ハガル、俺のこと、そこまで興味がないんだな。寂しい。

「どうして、コクーン爺さんが妖精に命を狙われているか、わかる?」

「命令されていない。貴様に頼まれても、調べない」

「そうだよね!!」

 そこはしっかりとしているね。あわよくば、と思ったけど、ダメだった。

「じゃあさ、妖精のこと、教えてよ。お前は、最高位だって言ってたけど、その、格? てどこまであるの?」

「お前の妖精の格が低いから、知識を与えられなかったんだな。本来、妖精の格については、生まれ持つ妖精から学ぶことだ。ハガルも、私たちが教えた」

「教えてもらえないんかい!!」

「お前の格は上がったんだ。私から教えてやろう」

「ありがとうございます!!」

 暇なんだろうな。とても嬉しそうに教えてくれた。


 妖精には格がある。格は、体の大きさと、持って生まれた力で決まるという。

 普段、俺のような平均的な妖精憑きが見ている小型の妖精は、最下位の妖精だ。魔法だって、時魔法は使えないという。

 最下位の妖精の上が、中位妖精。中位妖精でも、力がちょっと強いくらいだ。時魔法は使えないけど、二つの属性魔法を同時行使が出来るという。

 中位妖精の上が高位妖精だ。ここになると、人型ほどの大きさとなる。時魔法も使えるようになるとか。高位妖精は、格が高いだけでなく、最下位妖精、中位妖精を支配下に置いている。

 高位妖精の上が、最高位妖精だ。人型なのは、高位妖精と同じだが、力が違い過ぎる。人の奇跡まで起こせるというほど強い。しかも、高位妖精を支配下に置いている。


「最高位妖精は、いくつも存在する。力比べは、高位妖精の支配数で決まるんだ。こう見えても、私は高位妖精を二十は支配している」

「ハガルって、最高位妖精、何体持ってるの?」

「………」

 あ、聞いちゃダメなやつなんだ。そりゃそうだ。戦力なんて、教えるはずがない。いくら、この男型妖精が、妖精除けをしてるといっても、どこで情報が漏れるか、わからないからな。

「それで、お前の存在が俺にバレちゃったけど、それはいいわけ?」

「仕方がない。あの高位妖精が、余計なことをしてくれたから、貴様の格が上がってしまったんだ」

「何したの?」

「妖精の視認化だ。あの高位妖精、わざと貴様の前で姿を見えるようにしたんだ。そのせいで、お前の格が上がってしまった。急に格が上がったから、狂って、私まで見えてしまったんだ。一度でも見えてしまうと、妖精憑きは勝手に格が上がってしまう。そう、神が決めている」

「それで、俺、どうなるの?」

「貴様が生まれ憑いている中位妖精が見えるようになったな。出来ることが増えた」

 そうかー、ちょっと見え過ぎるな、と思ったら、俺の妖精か。こんなにいるとは知らなかったよ、俺。

「俺って、中位妖精までしかいない?」

「そうそう、高位妖精や最高位妖精なんか持って生まれないぞ。よほどのことだぞ」

「ハガルって、すごいんだな」

「そう、ハガルはすごいんだ!! もっと尊敬しろ!!!」

 ハガル、大好きなんだね、この妖精。ハガルを褒めると、物凄く上機嫌になる男型の妖精さん。そりゃそうだ、生まれた時からずっと一緒だもんな。大好きに決まっている。

「わかった。じゃあ、俺、今日もお仕事だから」

「あんな最低な仕事、やめろ」

「ハガルだって、皇帝と閨事してただろう」

「………」

「他の生き方が見つかるまでだ。俺が客とってる時は、外に行ってろよ」

「わかってる」

 見えなかったが、そういう心遣いはあったんだな。見られていなくて、良かったと思えばいいのかな。

「そうだ、お前、名前、ある?」

 ふと、聞いてみた。俺に憑いている妖精には、名前があるかもしれないが、数が多いので、聞いていない。ほら、覚えきれないだろう、こんないっぱい。

「ハガルがつけてくた名前ならある。カーラーンだ。呼んでいいぞ」

 自慢なんだな。ハガルのことが大好きな男型の妖精カーラーンは、むしろ、俺に呼んでほしそうに名乗った。

「じゃあ、俺も普通にルキエルでいいよ。俺が死ぬまで、よろしく頼む」

「お前の寿命が尽きるまで、守ろう」

 末長いな、それ。よろしくしたけど、もう、別れたくなった。





 いつもの店に行けば、タリムが俺に向かってきた。

「タリム、昨日はどうだった?」

 俺は途中で意識を飛ばしたから、タリムの感想が気になった。

「ルキエル、体のほうは大丈夫か!?」

 逆に、心配された。身売りする女たちまで、心配そうに俺を見てくる。相当、大変だったんだな、皆。

「女相手にがっつくのはやめてやれ。あれは、大変だぞ」

「そ、そうか。ルキエルも、痛かったんだな」

「俺は慣れているから大丈夫だ。久しぶりで、良かった」

 思い出すと、体が熱くなる。仕方がない、親父の剛直を毎日、受け止めていたのだ。体はあれを喜んでしまうのだ。

「ほ、本当か!?」

「嘘をついてどうする。だけど、あの調子で女を抱くなよ。あれは絶対にダメだ。少しずつ、調整出来るようになったほうがいい」

「その、今日も、お願いしていいか?」

「一つ聞くが、女好きだよな?」

「それは、もちろん!!」

「………なら、いいが」

 何か、嫌な予感がする。頭の片隅で、ハガルと皇帝ラインハルトのことを思い出す。あの二人は、互いに、随分と深みに嵌っていた。

 俺は貧民として育っている。貧民としての常識が身に染みている。だから、こういう行為も頭のどこかでは、割り切ってしまっている。だから、仕事として、男を受け止められるのだ。

 タリムはどうだろうか? タリムのことは知らない。昨日会ったばかりの客だ。金のやり取りだから、俺は割り切るが、タリムはそうじゃない。タリムの全てを受け入れられる俺に、嵌ったのかもしれない。

「タリム、わかっていると思うが、売り買いの関係だ。俺は金を受け取った分、お前に奉仕するだけだ」

「奉仕はいらない。俺が一方的にやりたいだけだ」

「もうちょっと、力加減を覚えろよ」

「ああ!!」

「………」

 あ、これ、ダメなやつだ。こいつ、覚える気なんてさらさらないな。

 俺は仕方がないので、タリムを親父のように受け止めることにした。




 意識を飛ばすことはなかった。タリムが満足して離れると、俺はまだ痙攣する体を持てあます。触れられると、物凄く気持ち良いので、逆に離れてもらえて良かった。

「タリム、金は返す」

「どうして!?」

 まだ、体が震えるが、俺はベッドから出て、金をタリムに返した。

「あ、部屋代は欲しいな」

「そうじゃなくて、どうして返すんだ!?」

「金はいらない。時々、俺を抱いてほしい」

「とき、どき?」

「毎日、これはさすがに無理だ。週一でいいから、抱いてほしい。あ、けど、お前に彼女とか出来たのなら、やめてくれていいから。それまでの体だけの関係だ」

「どうして!?」

「俺は一生、この身売りから抜け出せない。タリムに抱かれて、それがわかった。俺は、これが好きなんだ」

 タリムに散々されて、気づいた。確かに、きっかけは親父だ。親父の無理矢理で、俺は男を受け入れられる体となった。散々、仕込まれたのだ、仕方がない。

 だけど、俺はここから抜け出せない。衝動はなくなったが、タリムを目の前にすると、突き動かされる。一生、俺は娼夫だ。

 金はいらない、そう言ってやってるってのに、タリムは俺の手に金を押し付ける。

「明日も抱きたい」

「タリム、女好きなんだよな」

「そうだけど、ルキエルは特別だ」

「………」

 嫌な予感が的中した。タリム、俺に嵌った。どうしても、ハガルと皇帝ラインハルトが思い浮かぶ。だけど、すぐに振り払う。残念、俺はそこまで嵌っていない。

「俺は、人の好き嫌いがよくわからないんだ。だから、割り切れないのなら、やめたほうがいい」

「金を払う。これで割り切れる」

「毎日はダメだ。そういう女を探したほうがいい。だいたい、俺相手で、きちんと調整出来てるじゃないか。あれでいいんだ」

「それは、ルキエルが一つずつ、導いてくれたからだ」

「同じようなことを女相手にすればいい。同じことだ」

「ルキエルがいい」

「………」

 拒絶がしづらい。金払いはいいし、俺が喜ぶ剛直を持っている。きちんと教えてやれば、俺を喜ばせてくれる。俺が喜ぶところをしっかりとおさえてくれている。

 それ以前、俺が拒絶したら、タリム、色々な意味で終わるよな。身売りの女全てに拒絶されているのだ。俺まで拒絶したら、後がないな。

「毎日はお互い、大変だ。金だって有限だ。それ以前に、俺は金に困っていないんだ」

「そうなのか!? てっきり、金に困って身売りを」

「色々と、事情があってやっていることだ。まあ、俺が表立ってやれることは、身売りくらいだった、というだけなんだ」

「じゃあ、もう、この仕事は、しない?」

「その内な。だから、きちんと考えてほしい。俺は、別に金には執着していない。タリムの体には随分と惚れ込んでいる。しかし、毎日を受け入れるのは、お互いに良くない。だったら、週一、お互いの都合がいい日にしたほうがいい。そういうのがいい」

 最低だな、俺。体だけでいい、なんてタリムに言ってるよ。言われたタリムは、意味わかってないよね。

「明日は」

「金はいらないから、週一でやろう」

「週三で」

「仕事にならない」

「金には困ってないって!?」

「建前があるんだ!! 俺は今、世話になってるんだ。そこに金をいれてる。いらない、と言われているが、何もしないのは、良くない」

「週二で」

「………わかった」

 もう、諦めるしかない。だって、タリム、俺を押し倒して、体を愛撫してきやがった。こいつ、俺が弱いとこばっかり舐めまわしやがって!!

 俺はタリムの顔を押した。

「いいか、女探すんだぞ!! いいな!!」

「わかったわかった。もう一回、やろう」

「やらない!! 帰らないと、心配されるんだ!!!」

 調子に乗りすぎだ!! タリムは力づくで俺を拘束するが、蹴ってやる。

 さすがに嫌われると感じたようで、タリムは諦めてくれた。

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