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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
外伝-妖精の隠し事-
34/40

凶星の申し子

 一通りの聞き取りも終わり、ハガルは皇帝ラインハルトと最後の相談となった。

 貴族は一人を除いては、妖精の呪いの刑罰だ。すでに施行の準備に入っている。

 問題は、貧民親子だ。実行犯だから、ただ、保釈するわけにはいかない。

「ルキエルの兄と弟は、外が静かになってから、保釈しましょう」

「処刑しろ」

「必要悪です」

「貧民なんて、腐るほどいるだろう!!」

「話がわかる支配者は貴重なんですよ」

「処刑だ!! あの妖精憑きも処刑しろ」

「ルキエルは処刑しません。彼は………外にも出しません」

「また、囲うのか!?」

 魔法使いにする、と言っていたのに、ハガルは突然、考えを変えた。それには、皇帝ラインハルトも激怒した。

 ハガルは気に入ると地下牢に閉じ込めて可愛がる。我々妖精は、別になんとも思わないのだが、人はそうではない。異常なのだ。

 地下牢には、もともと、ハガルが篭絡した暗部の女たちが大勢いた。しかし、それを気に入らない皇帝ラインハルトは、理由をつけては殺したのだ。

 いつもだったら、おねだりするように甘えて、身を差し出して、ハガルはラインハルトから承諾をもぎ取る。

 ところが、今回はそうではない。

「ルキエルは、処刑してはいけない存在です。また、外に出してもいけません」

「そうして、また、囲うんだろう!? 女は飽きて、次は男か!!」

「そうではありません!! ルキエルは、狂星の申し子です」

「なんだ、それ」

「まれにいます。そこにいるだけで、人の運命を狂わせてしまう存在を。ルキエルは、まさにそうです」

「ハガルみたいなんだな」

「私はほら、神の定めにしたがって、人を狂わせ、力づくで捻じ曲げるだけです。しかし、ルキエルはさらに質が悪い。人の運命を狂わせます」

「何が違うんだ?」

「私は人の気持ちを捻じ曲げます。ですが、ルキエルは、人が神から与えられた運命を捻じ曲げてしまいます。ルキエルがいなければ、あの家族は、普通の家族だったでしょう。そこに、ルキエルが生まれ、存在し、平穏な運命が捻じ曲げられたのです。こういう存在は、神から与えられた試練のようなものです。穏便に扱い、閉じ込め、寿命を迎えたほうがいい」

「どうして、そう思った?」

「ルキエルに関わる者たちから証言をとりました。だいたいの者たちは、ルキエルの命乞いをしました。自らの命や身を差し出し、ルキエルを助けようとする献身。まさに、魂の底まで、ルキエルという存在に魅入られてしまっています。そういう彼らを見て、私だって気づかされます。私もまた、ルキエルに魅入られてしまっているのです」

 言われてみれば、ハガルのルキエルへの執着はおかしい。最初のきっかけは、騒ぎをおさめたいから、という小さな理由だ。なのに、ルキエルに出会えば、最高位妖精を守りに付けたのだ。

 振り返れば、ハガルの行動もおかしいのだ。ルキエルの記憶に一喜一憂し、ルキエルと知り合いになっただけで大喜びし、今では、地下牢に閉じ込めて、幸福となっている。

「こういう存在は、外に出してはいけません。魔法使いとして、側に置いておきたいですが、地下牢に封じ込めることで、我慢しましょう」

「我慢してないよな。お前の地下牢に閉じ込めているよな!!」

「封じ込めです。閉じ込めていません」

「言い方変えても同じだからな!!」

「ともかく、ルキエルの処刑は却下します。運が悪いと、帝国に災いが降りかかります」

「なんで私の代で、こうぽんぽんととんでもないものが降ってくるんだ!?」

 ラインハルトは頭を抱えて叫ぶ。

 ラインハルトの過去を振り返れば、確かにそうだ。妖精に溺愛されるただの人アラリーラを発見されてしまい、ラインハルトはどうにかするために、大魔法使いなんて肩書を作り、帝国に囲ったのだ。アラリーラは、今は田舎に移り住んでいるが、帝国の秘密裡の監視は続いている。何せ、大魔法使いは放置してはいけない存在だ。万が一、悪事に巻き込まれたりしたら、帝国が滅ぶかもしれない。

 そして、次の大問題は、千年に一人誕生するという妖精憑きハガルだ。大魔法使いと最強の妖精憑きが同時に存在したことで、大変なこととなった。ラインハルトは、才能の化け物であるハガルに、大魔法使いを溺愛する妖精を操らせられるようにしたのだ。そして、とんでもない化け物のハガルを可愛がり、篭絡し、筆頭魔法使いの儀式を抵抗させずに行わせたのも、ラインハルトの手腕だ。

 そこに、ルキエルという歩く災いまで誕生していたという。もうすぐ、寿命を迎えるラインハルトには、ルキエルはお手上げするしかない。

「まず、あの男には、皇族に絶対服従の契約紋をつけなさい。そこは絶対だ」

「意味、ありませんよ」

「万が一、外に出てしまった時、とんでもないこととなる。それを回避するための手段だ」

「では、私に使われた特別製の焼き鏝を使いましょう!!」

「好きにしろ」

「ラインハルト様がやってくださいね。そうすれば、私とお揃いになります」

「正気に戻れ!!」

「魔法使いの教育もついでにしちゃいましょう」

「閉じ込めるんだよな!?」

「大事ですよ、考え方。いざとなったら、必要な知識です」

「もう、好きにしてくれ!!」

 ハガルはもう、止まらない。すっかり、ルキエルに狂っている。

 それはそうだ。長年、ハガルはルキエルを見守っていたのだ。私の記憶を読み取り、ルキエルの日常なんかも知っている。ルキエルの好き嫌いから、服の好みから、と色々と知り尽くしているのだ。もう、ハガルを止めることは不可能だ。





 一生涯、ルキエルを閉じ込める、と言っていたハガルだが、気が変わったのか、何か対策でもたてられたのは、ルキエルを解き放ってしまった。

 しかも、契約紋まで消してしまったのだ。ハガルほどの格の妖精憑きであれば、他人の背中にある契約紋を消してしまうのは、簡単だった。

「何故、自由にしてしまったんだ!? ラインハルトには、閉じ込めると言っていたではないか!!」

 ラインハルトが亡くなり、次の皇帝となってしばらくして、ハガルは独断でやったのだ。今の皇帝は知らない。新しく皇帝になったばかりで、それどころではないほど、慣れない立場になって、困っているのだ。

 私が批難するようにいうも、ハガルはうるさいな、みたいに顔をしかめるだけだ。

「カーラーンはいつも通り、ルキエルに付いてください。定期的に、報告です」

「何故、ルキエルを自由にしたんだ?」

 改めて、質問する。答えが貰っていない。

 ハガルはルキエルの姿が見えなくなると、屋敷に入り、地下牢に戻った。そして、ルキエルが使っていた牢を封鎖する。

「ラインハルト様の手前、ああ言いましたが、凶星の申し子は、閉じ込めるのは不可能です。何かしらの動きにより、結局、解き放たれてしまいます。処刑すら出来ないルキエルには、せいぜい、監視をつけるだけです」

「いつも通り、命に関わることがなければ、傍観していればいいんだな」

「これからは、カーラーンの判断に任せます。どうせ、ルキエルはカーラーンの姿が見えません。認識の出来ない存在が、何をやっても、気づかないでしょう」

「ハガル、もうそろそろ、別の妖精にしたほうがいい。私は随分と長く、ルキエルに付いていた。この世に誕生してから今までの年数の半分以上だ」

「心配いりませんよ。格が足りません。カーラーンが支配されることなど、あり得ませんよ」

 どんどんと、私はルキエルに染まってきてしまっていた。ハガルと離れている年月が長すぎたのだ。このままでいくと、何か間違いが起こってしまような予感がした。

 妖精のくせに、勘に頼るのはおかしいが、仕方がない。妖精憑きから学ぶのだ。

「せめて、契約紋をつけたままで良かっただろうに」

「あれは、なかなか負担なんです。私にとっては、ラインハルト様につけられたものですから、喜びです。しかし、ルキエルには、負担でしかありません。ああいう縛りは、生き辛くします」

「後からどうなっても知らないぞ」

「私の力を持ってすれば、全て、解決できます。出来ないのは、死者の蘇生だけです」

 ハガルはまだ、ラインハルトへの思いを抱えて生きている。一生のほとんどをラインハルトに支配されて生きていた。それを喜び、受け入れ、最後には、ラインハルトを特別と認めたのだ。

 いつまでも、私がごねているだけで、結局、無駄となるのだ。私はさっさとルキエルの側に飛んでいき、付いて行った。






 ルキエルはそう長く生きなかった。力ある妖精憑きのように長生きするのか、と見ていれば、呆気なく、眠るように死んだ。あまりにも呆気なく死んでしまったので、私も驚いた。

 だが、生きている間は、色濃い生だった。結局、海の貧民街に閉じこもったままとなったが、ルキエルの存在は、何かを呼び込んだ。まさか、妖精の女王まで呼び込むとは、ハガルでさえ予想しなかっただろう。

 そして、ルキエルが死ぬと、ルキエルの部屋は、永遠に封鎖された。妖精の女王から奪った妖精の力が強すぎて、部屋すらも、人の手におえなくなったのだ。

 それから随分と時が経ち、再び、その部屋に人が訪れることとなった。

 ハガルだ。どういう運命の悪戯か、海の貧民街の支配者ステラを見染め、ハガルは海の貧民街を足しげく訪れた。生まれる子どものためにと、色々と考えている様子だ。そのついでに、ステラが暮らす建物を調べていた。

「おや、ここに部屋がありますね」

 一見、ただの壁のそこに、ハガルは部屋を見つける。ハガルの前では、ルキエルが支配した妖精の力など塵だ。ちょっと手をふるえば、隠されたドアが表に出される。

 百年以上前に封鎖された存在だ。私はそこにハガルが来る奇跡に、心躍らされた。私は、何もしていない。運命に導かれたからか、ハガルがやってきたのだ。もう、奇跡だ。

 中の様子を妖精に調べさせて、罠もないとわかったハガルは、部屋に入った。そして、感じた。

「ルキエル?」

 色濃く残るルキエルの気配をハガルは感じ、探した。

 凶星の申し子は、死んだ姿のまま、ベッドの上に横たわっていた。ルキエルが死んでも、妖精は解放されなかった。そのまま、ルキエルの中に居続け、ルキエルの体を腐らせることなく、守っていた。

 まさか、ここで随分と昔に死んだルキエルと見ることとなるなど、ハガルだって予想すらしていなかった。だから、私を驚いたように見返す。

「ここに、ずっと、いたのですか」

「だから、最高位妖精を交代させるように、進言したのに」

 海の貧民街に行ってしばらくして、ルキエルは格が上がってしまい、私を視認できるようになってしまった。そのため、私の支配権がハガルからルキエルに移動してしまったのだ。

 私自身はハガルの妖精としての誇りがある。だから、定期的にハガルにルキエルの近況を報告はしていた。しかし、ハガルはルキエルが生きている限り、私の記憶を覗き見ることが出来なくなった。ルキエルが、ハガルに居場所を知られることを無意識に拒絶したからだ。

 ルキエルの支配力は凶星の申し子というだけあって、すさまじいものだった。ルキエルは、私の気まぐれで魔法を使っていると思いこんでいたが、そうではない。ルキエルが声を出して命じれば、私は逆らえないのだ。そのことを私はルキエルに隠し通した。

 そして、私はハガルにも、様々なことを隠し通した。その一つが、目の前の部屋だ。ルキエルは、死んだ後も、この部屋の存在をハガルに知らせることを拒絶した。

 ハガルは、部屋を見回し、机に触れ、とルキエルの痕跡を肌で感じた。長く生きた妖精憑きは、妖精の感覚に近い。この部屋自体に、ルキエルを感じていた。

「カーラーン、記憶を見せてください」

 今更ながら、ハガルは私の記憶を要求した。ルキエルの支配が消えて随分と時が経った今だから、出来ることだ。

 ルキエルが死んでしばらくは、ハガルは落ち込んでいた。そして、私自身に色濃く残るルキエルの痕跡を嫌い、遠ざけた。それは今まで続いていた。

 もう、私自身にルキエルの痕跡はない。全て、ハガルに塗り替えられている。ハガルは私の手に触れると、瞬間、私の記憶を読み取った。物凄い過去だが、ハガルにとっては、一瞬だ。

「カーラーン、どうして教えてくれなかったのですか!? 記憶は見せられなくても、口で教えることは出来たではないですか!! 妖精の女王がルキエルの命を狙っていると知っていれば、私が妖精の女王を支配してやりました」

 ルキエルには不可能でも、ハガルには可能だ。そんなこと、言われなくても知っている。だから、ルキエルに言ったのだ。

「ルキエルが望んでいなかった。何故、ここまで意固地に拒絶するのか、今も私にはわからない」

 私はルキエルが使っていた机の引き出しを開ける。そこに、一通の手紙が入っていた。

「ルキエルの遺書だ。ハガルに宛てて書いてある」

 呆然と見下ろすハガル。長年、ルキエルの痕跡を拒絶していたハガルは、遺書を目の前にして、固まった。

「ハガル、どうして、ルキエルに返事を書いてやらなかった? ルキエルはいつも、ハガルからの返事を楽しみに待っていた」

「私からの手紙は危険です。万が一のことがあって、ルキエルの迷惑になることを恐れました」

「他愛無い世間話で良かったんだ。ルキエルだって、そうだ。手紙には、当たり障りのないことしか書いていない。それで十分だった!!」

「………手紙を出せば、連れ戻したくなります。ルキエルを閉じ込めて、可愛がりたくなる。ですが、ルキエルの幸福は違います」

「それは、思い込みだ。ルキエルは、妖精の女王を撃退した後は、この部屋でずっと過ごしていた。ここで、日がな、道具をいじっているだけで、幸福だった。他は、何も望んでいなかった。ルキエルは、ずっとハガルと何かの形で繋がりを持ちたがっていた。金ではない、無価値な何かだ。それが、手紙だ。その結果、閉じ込められても、ルキエルは怒ったりしない。ルキエルは笑って許した」

 長くつながっていたから、ルキエルのことはいやでも理解した。

 こんな狭い世界で残りの寿命を過ごした。もっと外に出ろ、と息子に言われても、ルキエルは拒絶した。

「もう十分、ルキエルは苦しんだ!! 残る人生は、安穏と生きたかっただろう」

 老人のような余生だと息子に言われたが、それをルキエルは喜んだ。人には詰まらない余生だったが、ルキエルにとっては、やっと手に入れた安穏だ。

 やっと、ハガルはルキエルの遺書を手にした。何度も何度も書き直された遺書だ。どんなことが書かれているのか、私は知らない。私はこれまで、手紙を運んだりしたが、盗み見たことなど一度もない。

 ハガルは綺麗に封をあけて、たった一枚の紙を一瞬で読んで、すぐに燃やしてしまった。いつも、そうだ。ルキエルからの手紙は、読んだらすぐ、燃やしてしまう。何も残さない。

 ルキエルが残した図面を一通り見ては戻す。たったそれだけで、ハガルはルキエルが残した記録を頭の中で記憶してしまう。

 その中に、今は失われてしまった義体の資料を見つけたハガルは、それだけは、大事そうに抱えた。

「カーラーン、ルキエルに残った妖精を全て盗れ。あれがいては、ルキエルを消し炭に出来ない」

「燃やすのか!?」

「ルキエルがそう望んでいる。それ以前に、ここに残しておけば、災いを起こしかねない。私がここに入ったことで、閉じ込められた何かが外に溢れ出ている」

「そんな」

 ルキエルは死んだ後も、ずっとハガルを待っていたというのに、こんな呆気ない幕引きなんて、あんまりだ。心底、そう思う。だけど、私はハガルに逆らえない。

 一瞬にして、ルキエルに残った妖精全てを盗った。

「戻ってきた時、随分と力をつけていたが、妖精の女王の支配した妖精をカーラーンも盗ったんだな」

「気づいていたのか」

「高位妖精がそんなに増えてしまって、私が持つ最高位妖精全てが束になっても敵わないくらい強くなっていた。だから、遠ざけました。カーラーンの支配を戻すのには、随分と時間がかかりましたから。不安にさせてしまって、すみません」

 私が遠ざけられたのは、別の理由だった。ルキエルは関係なかった。

 だけど、私は、ハガルに隠し事をしつづけた。ハガルの元に戻った私が強くなった理由は、ハガルが想像しているような単純なことではなかった。

 私がルキエルの遺体から妖精を盗ると、ルキエルの存在は希薄になってきた。そして、ハガルは一瞬にして、ルキエルの遺体を消し炭にしてしまう。

「カーラーン、待っていなさい。私が生きている間に、妖精の王にしてあげます」

「ハガルが死んでからじゃ」

「妖精の女王をただ、貶める程度で許してなるものか。最低最悪な存在に貶めてやる。そのために、お前は私が生きている間に、妖精の女王を王座から落とさなければならない。千年以上もある寿命で、見ているがいい。私は死した後も、妖精の女王を貶めてやる」

 怒りに震えるハガル。化け物と呼ばれたハガルの中では、妖精の女王をどうするか、結末まで見えていた。

 本気になれば、今すぐ、ハガルは妖精の女王を貶めるだけの力がある。私の力がさらに上がったからだ。だけど、ハガルは私に命じなかった。

 ふと、ハガルは、ルキエルが消し炭となった所に、丸い球をみつけた。

「これは、壊れた妖精の目ですか。燃えずに残ったのは、運命ですね」

 ハガルはルキエルが残した最後の痕跡として、妖精の目を持って帰った。

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