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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
外伝-妖精の隠し事-
33/40

証言

 次に、兄弟の聴取だ。しかし、この二人、全く同じことをいうのだ。

「俺のことはどうだっていい。どうか、ルキエルだけは助けてくれ!!!」

 偽装したハガルを目の前にして、兄ライホーンも、弟ロイドも、ルキエルの命乞いをした。

 これには、ハガルは驚いた。まさか、兄と弟が、命を差し出してまで、ルキエルを救おうとするとは、思ってもいなかったのだ。

「どうしてですか?」


 兄ライホーンは言った。

「兄でありながら、ルキエルを救えなかった。何度も、何度も、親父に挑んだというのに、負けてばかりだ!! なのに、ルキエルは俺に恨み事一つ言わず、それどころか、俺がこれ以上、傷つかないように、身を持って、親父を引き離してくれた。本当に、情けない兄で、すまない!!!」

「そういうの、わかります」

 血のつながらないけど、ハガルは兄だ。ライホーンの気持ちは、よくわかった。

「だけど、ルキエルが犠牲になってくれれば、と心のどこかで思ってしまうこともあった」

「仕方がありませんね。そうしたほうが、平和だったのでしょう」

「鍛えても、ルキエルにも負けるし」

「………」

 そこは、なんとも言えないハガル。ルキエル、本当に技術の才能がありすぎる。これは、もう、どうしようもない事だ。

「いいですよ。ルキエルのことは任せてください。他には何かありますか?」

「弟のロイドは、ルキエルから離してほしい。あいつはちょっと、おかしい」

「………」

 言わなくても、ハガルは察した。弟ロイドは、ルキエルのことを女のように愛しているのだ。仕方がない。ルキエルは、どんどんと人を狂わせるほどの格を持ってしまっていた。


 そして、要注意人物と兄に言われてしまった弟ロイドは言った。

「ルキエル兄の犠牲で、俺たちは無事だった。だから、今度は俺が、ルキエル兄のために、犠牲になる!!」

「そうですか」

 だが、兄ライホーンから、弟ロイドは危ない、なんて言われているので、ハガルは警戒していた。笑顔だけど、内心は別だ。

「俺や兄貴は、潰しのきく、腕っぷしだけだ。ルキエル兄は、妖精憑きだし、むちゃくちゃ頭がいい。貧民でいるほうが、おかしいんだ。ルキエル兄だったら、魔法使いになって、宮仕えするべきだ」

「そうですよね!!」

 ハガル、無茶苦茶、嬉しそうに同意する。

 ロイドは、ハガルが急に上機嫌になっても、気づいていない。ロイドの見る世界は狭そうだ。たぶん、こいつ、ルキエルしか見てないよな。私は知っている。本当に危ないのは、ロイドだ。ライホーンは正しい。

「それで、あなたは大人しく処刑されるのですか?」

「それは仕方がない。そうなるのが普通だ。俺たち貧民でも、同じことをする。こんな牢に入れて、証言なんかとらない。さっさと処刑して終わりだ」

「それだと、敵勢力の残党が残ってしまいますよ」

「面倒くさいことするな。向かってくる奴ら全て殺せば、いなくなるだろう」

「………そうですね。勉強になります」

 何気ない意見に、ハガルは納得する。いやいや、周りへの被害とか考えると、それはダメだろう!!

 帝国としては、それはダメな解決方法だ。だが、ハガルの中では、とてもいい解決方法を思ったのだろう。ハガルにとっては、壊したほうが楽なんだ。

「しかし、随分とルキエルのことを気にしていますが、他はどうなのですか?」

 兄も弟も、ルキエルのみを命乞いする。父親とか、参加してないことで見逃されている姉と妹のことは、何も言わない。


 兄ライホーンがいった。

「親父殿は、自業自得だ。俺たちはいやいややっただけだから、処刑なんて、本当はイヤだ。だが、仕方がない。支配者の命令は絶対だ。リンネットとレーリエットは、今回、関わっていないから、取り調べられて終わりだろう。心配していない。貧民街は、俺たちがいなくても、変わらない。新しい支配者が立って、新しい統治になるだけだ」

 よくわかっている。ライホーンは、それなりに教育を受けたのだろう。母親が元貴族だから、ライホーンはかなりの教育を受けて、心構えが貧民というよりも、どこから、平民貴族に寄っている。

「よく考えていますね」

「待遇がいいから、考える時間があった。食事もしっかりしている。囚人としては、随分と良すぎるから、何か裏があるのかと勘ぐった。偽証をしてもらいたいのか?」

「そういうのは、必要ありません。魔法使いなりの罪の暴き方がありますから。そこは、神と妖精、聖域にお任せします。罪を犯していなければ、天罰は下りませんよ」

「そうだな。俺たちは、それに逆らって、処刑なんだろうな」

「処刑はしませんよ。あなたがたを処刑する必要性がありません。むしろ、生きて、恩を売って、貧民街の支配者になってもらって、帝国に逆らわないように教育してもらえば十分です。貧民街は必要悪です。なくては困ります」

「頭のいい奴は、何を言ってるのか、わからないな」

「だから、逆らうな、と覚えてください」

「わかった」

 ライホーンは、素直だ。ハガルに言われ、大人しく頷いた。


 弟ロイドは言った。

「他はどうだっていい。特に、姉貴なんか、野垂れ死ねばいい。あいつ、ルキエル兄を使って、散々なことをしてくれたんだ。後で知って、殺してやりたくなった」

「一番上の兄はどうですか?」

「俺と同じで処刑だろう。そう、前日に話していた。ルキエル兄が助かるなら、処刑でいい」

「末の妹は?」

「ルキエル兄が拾った孤児が守ってくれる。レーリエットは、ルキエル兄に随分と可愛がられていた。俺だって、弟だってのに、ルキエル兄はレーリエットばかり可愛がった」

「ライホーンはどうでしたか?」

「兄貴は、ほら、俺と同じだから。腕っぷしだけ。俺のことなんて、考えてもいないよ」

「家族が多いと、そういうこと、ありますね」

 ハガルは弟と妹がたくさんだ。だから、ロイドが吐き出した本音を、家族から聞いたことがあった。

「あなたは、手がかからない子なのでしょう。そうなると、どうしても、後回しとなってしまいます」

「そう、何もかも、一番最後………いや、ルキエル兄が、一番最後だな。ルキエル兄、すぐ俺に譲ってくれた」

「気にかけてもらっているではないですか」

「今、思い出した」

 どうでもいい扱い、と思い込んでいたが、実は、そうではなかった。そのことを気づかされて、ロイドは泣いて、ルキエルの幼い頃の話とかをハガルに聞かせてくれた。




 投獄ではないが、証言をとるため、ルキエルの身内である姉リンネットと妹レーリエットは召喚された。二人とも、逃げられないように、住んでいた家に魔法使い監視の元、監禁されていた。

 最初は姉リンネットである。偽装したハガルを一目みて、リンネットは明らかにさげすむように見た。

「これまで見た魔法使いはみんな、男前なのに、筆頭魔法使い様は、ぱっとしない顔ね」

「報告があがっていますよ。魔法使いに色仕掛けをした、と。彼らは、見た目がいいでしょう。あなた程度では、揺らいだりしませんよ」

 そういって、ハガルはリンネットを嘲笑った。ハガルにとって、リンネットこそ、許せないのだ。

 ルキエルが父親に随分と激しい閨事を受け、意識を失ったあとは、兄、姉、弟が交代で後始末にあたっていた。兄と弟は生真面目にやったのだ。

 しかし、姉リンネットは違う。見るからに、触るのも気持ち悪い姿にされたルキエルを貧民の男を使って、後始末させたのだ。リンネットは、見た目が美しいので、貧民の男たちは言いなりだ。だが、意識を失っているルキエルに、いつの間にか、魅了されてしまった貧民の男たちは、リンネットに頼み込むようになった。そして、とうとう、貧民の男たちは、ルキエルに手を出したのだ。

 そうなったらなったで、リンネットは、とうとう、ルキエルを使って、金までとるようになった。

 その事実を知ったハガルは、リンネットこそ殺したかったのだ。血の繋がりのある姉が、弟にとんでもない所業をしている事実が、許せなかった。

 ハガルの中では、いつかは殺してやろう、と狙っている段階だ。今は、その時ではない。この非情なことをする姉だが、それでも、ルキエルにとっては大事な身内のようで、ルキエルの妖精が守りに付いていた。それを実際に確認して、ハガルは我慢した。

「何かいうことはありますか?」

「アタシは関係ないんだから、さっさと出してちょうだい」

「家族のことは、聞かないのですか?」

「処刑されるんでしょう? 聞くことなんてないわ。さっさと処刑してちょうだい」

「なにか、知っていることはありますか?」

「悪いけど、ただで話すつもりはないわ。家族の命乞いのために、なんて理由で証言もしない」

「………だから、顔も醜く歪んできているんですね」

「この、平凡顔のくせに!!」

 怒りに立ち上がって、リンネットはハガルに手をあげる。

 瞬間、ハガルを守る騎士二人がリンネットの顔を殴った。

「女の顔を殴るなんて!?」

「これくらいの顔でしたら、殴られなかったでしょうね」

 ハガルは偽装を解いて、あの誰をも魅了する姿を晒す。

 リンネットですら、ハガルの真の姿に見惚れ、動けなくなる。騎士たちは、崇めるように、ハガルの両側に跪いた。

「お前程度の顔で、私の顔を傷つけようなどと、おこがましい。万が一、私の顔に傷でもつけていれば、お前は処刑だ。未遂でも、私の皇帝は処刑してくれるぞ」

 嫣然と微笑むハガルに、リンネットはもう、逆らう気力もない。

「黙って殴られる、という手もありましたね。そうすれば、この女をラインハルト様が処刑してくれました。失敗しましたね」

 そして、ハガルはちょっと後悔した。


 次に呼ばれたのはルキエルの妹レーリエットだ。

 ルキエルが可愛がり、良心とまで呼ぶレーリエットは、ルキエル寄りの可憐さと可愛さを持っていた。偽装したハガルを目の前にしても、礼儀正しく座っていた。

「あの、兄たちは、どうなるのでしょうか」

 さすが、ルキエルが良心と呼ぶレーリエットだ。開口一番に、投獄された兄たちのことを心配した。

 それには、ハガルは笑って喜ぶ。姉がああだったので、妹のまともさに、安心したのだ。

「あなたの兄三人は、まだ、取り調べ中です。私としては、証言いかんいよっては、しばらくの投獄後、外が落ち着いた所で、秘密裡に釈放したいと思っています」

「本当ですか!? あの、私、実は、本当に何も知りません。兄たちは、私に関わらないように、と情報を与えてくれませんでした。関わった貴族の名前も知らないのです。ですが、もし、保釈にお金が必要でしたら、身を売ってでも、お金を集めてきます」

「………」

 身売り、と聞いて、ハガルは言葉も出ない。レーリエットは、本当に、兄たちを助けるためだけに、身を汚すことも厭わない覚悟を見せた。

 ハガルは家族愛に弱い。何せ、血の繋がりがないが、弟たち妹たちを愛しているのだ。家族のためならば、汚れたことだって厭わない、そんな気持ちを持っている。

 同じような気持ちを言葉だけでなく、態度でも示そうとするレーリエットに、ハガルの心は打たれた。

「情報は必要ありません。保釈金もいりませんよ。少し、時間がかかりますが、待っていてください」

「ありがとうございます!! ナナキの言った通りですね。あなたは、お兄ちゃんに優しい妖精憑きです」

「………どう、聞いていますか?」

 とても気になる言い方に、ハガルは警戒する。

 ナナキとは、ルキエルが拾って育てた孤児だ。見た目は普通の人だが、実は、元妖精である。その隠し持つ実力は、私でもわからない。

 レーリエットは、ハガルの様子が変わったことに、警戒してしまう。しかし、質問に答えないことは、心象を悪くすると思ったのだろう。沈黙の後、答えてくれた。

「ナナキが言っていました。お兄ちゃんの側には、物凄い強い妖精が守っているって。その妖精の主人が、あなただ、と言っていました」

「いつ、聞きましたか?」

「お兄ちゃんが投獄された後です。私が、お兄ちゃんを助けに行く、と我儘を言ったからでしょう。私を止めるために、教えてくれました。内緒にしたほうがいいですか?」

「内緒にしてください。ルキエルも知らないことです」

「わかりました。もう言いません」

 両手で口を塞いでかわいらしくいうレーリエット。あ、この子、見た目はハガルの好みだ。

 姉は最悪だというのに、妹は可愛らしい。この差に、ハガルは疑問を持つ。

「関係ないのですが、あなたの姉は、どうして、ああなのですか?」

 かなり曖昧な質問だ。もっと詳細な内容を盛り込んだほうがいいはずだ。だけど、レーリエットは、ハガルが言いたいことを理解した。

「私もリンネットには嫌われています。リンネットは、一番でいたいんです。だけど、私が外に出ると、リンネットは二番になってしまいます。それと同じです。お兄ちゃんは、リンネットよりも愛されています。だから、お兄ちゃんのことが嫌いなんです」

「あなたにとって、お兄ちゃんと呼ぶのは、一人だけですか?」

「はい、一人だけです。あとの兄は、名指しですよ。ライホーンにロイド、と呼んでいます。私のお兄ちゃんは一人だけです」

「どうしてですか?」

「お兄ちゃんは、私とロイドを育ててくれました。ライホーンは、父親の手伝いがありましたし、リンネットは煩わしいと蹴ってきたりしました。そんな中、お兄ちゃんだけが、私とロイドを母の代わりになって、育ててくれました。だから、お兄ちゃんは一人です。ロイドは、兄だけど、兄ではありません。大好きなお兄ちゃんを奪おうとする敵です」

「なるほど。ルキエルは良い兄ですね」

「はい! 将来は、お兄ちゃんのお嫁さんになります」

「………」

 本気で言ってるんだ、この子は。ハガルは、レーリエットのとんでもない宣言に、ただ、笑顔を向けるしかなかった。





 ハガルは、私の記憶を通して、ある貴族のことが気になった。ほとんどの貴族は尋問が終了していた。貴族相手なので、大したことは出来ない。貴族は権威を傘に、傲慢な態度をとる。だから、ハガルは神の審判にゆだねたのだ。

 その中で、ハガルはただ一人の貴族にだけは、手を出せないでいた。一応、貴族用の牢に投獄はしている。しかし、この貴族は大人しく、何も言わないし、要求もしないのだ。ただ、静かに何かを待っていた。

 ハガルはそんな貴族のことが気になって、わざわざ、ハガル自身が尋問することとなった。

 貴族は、抵抗もせず、ハガルの前に座った。

「何かいうことはありますか?」

「ルキエルを、助けてやってほしい」

 この貴族は、ルキエルに魅了された男だ。ルキエルがちょっと悪戯心に誘惑し、ルキエルの無邪気な姿に魅了されたのだ。

 貴族は、ルキエルのために、帝国中から壊れた道具を集めた。そして、ルキエルが望むものがあれば、と何かと問いかけ、側に行けば、可愛がり、屋敷に呼んでは溺愛した。

 ルキエルは、父親に随分なことをされていた。だから、貴族はその延長だ。貧民だから、抵抗もないし、自尊心なんて持っていない。だから、貴族と閨事をするのは、何か見返りがあるから、と割り切っていた。

 しかし、貴族はそうではない。ハガルにルキエルの助命を訴えるほどの愛情だ。ハガルが何も反応しないと見るや、貴族はハガルの前に座り、頭を床に擦りつけた。

「頼む!! あの子だけは、助けてほしい。私に出来ることはなんでもしよう。情報もやろう。帝国に弓なす貴族の情報なら、いっぱい持っている。全て、さらけ出そう」

「そして、あなたは、生き残ったルキエルを引き取って、元に生活に戻るのですか」

「そんなこと、考えてもいない!! 私は処刑でいい。私がルキエルの代わりに処刑されよう」

 貴族は命乞いなんてしない。それどころか、ルキエルのために、処刑を望んだ。

 仲間の情報を売り渡し、自らの命を差し出したところで、ルキエルからの見返りはない。ルキエルはこの男のことをただの道具を集める貴族、としか見ていない。

「あなたがそうしたって、きっと、ルキエルは何も感じませんよ」

「知っている。ルキエルは、そんな安い存在じゃない!! 私は、運が良かっただけだ。本来ならば、兄が当主であった。私は、ただ、兄のスペアとなり、跡取りが出来れば、家臣となる存在だった。それが、あの王都の貧民街の支配者の逆鱗に触れ、兄は殺され、私が当主になった。ただ、運が良かっただけだ。そして、その延長で、ルキエルに出会った」

 長い話となるからか、ハガルは貴族を椅子に座らせた。貴族は拒んだが、ハガルだけでなく、護衛をしている騎士二人がかりで、貴族を椅子に座らせた。

「最初は、興味本位だった。頼まれて、子飼いの妖精憑きを使って捕縛してみれば、綺麗な子だった。あの子の母親とは面識はあった。綺麗な貴族令嬢だったが、運悪く、婚約者は屑で、そのせいで、彼女は落ちぶれた。そんな彼女の面影を色濃く受け継いでいた」

「もしかして、ルキエルの母親を密かに思っていたりしましたか?」

「まさか!! それ以前だ。私には、そんな資格すらない。ただ、兄の駒となれ、と両親に教育されたんだ。言われたままに動いていた私には、彼女は、眩しすぎた。まず、交わることもない。だからといって、貧民に落ちたから、と言って、彼女を蔑むわけではない。彼女の子だから、と見ていたわけではない。ただ、似ていて、驚いた。何より、どこか、浮世離れしている感じがした」

「綺麗だと思いましたか?」

「壊れてしまいそうだと感じた。頼まれたから、連れ戻したんだが、間違ったことをしてしまった気分になった。それからしばらくして、ルキエルが狂った父親に、母親の身代わりとして抱かれていることを聞くこととなった。後悔した」

「………」

 ハガルは貴族から視線を反らす。貴族は後悔しているが、もともと、そういうふうに仕向けたのは、ハガルだ。一番の元凶は、ハガルと言っていい。しかし、ハガル、当時はこれっぽっちも後悔なんかしていなかった。筆頭魔法使いとしての役目なので、仕方がないのだが。

 今はというと、気まずい、みたいな顔をしている。当時はルキエルのことなど、どうだって良かったが、今はそうではない。ルキエルのことを囲って、閉じ込めて、大事にしたい、なんて考えているのだ。

「ルキエルは、それから開き直って、随分と私を誘惑してくれた。私も、ついつい、ルキエルのことを女のように見てしまったのだろう。目つきが悪かったんだな。昔の悪い癖だ」

「どういうことですか?」

「私は、兄と争いたくなくて、女癖の悪いふりをしていたんだ。そうすれば、跡取り争いが勃発することはない。兄はな、あまり優秀ではなかったんだ。家臣たちは、私を跡取りに出来れば、と考えていた。同じ家の中での争いは、結果、色々と削ぎ落してくれる。意味のないことなんだ。だから、私はさっさと離脱したんだ」

「確かに、あなたは優秀な貴族ですね」

 ハガルはきちんと調べていて、この貴族の実力を知っていた。

「筆頭魔法使い様ほどではないですよ。あなたにとっては、我々の仕事など、片手間でしょう」

「帝国は広すぎます。いくら私でも、隅々まで見ていられませんよ。だから、あなたのような貴族が必要なんです。我々の代わりに、上手に貧民を生かさず殺さずしてくれます」

「恐ろしい人だ」

「それで、あなたはルキエルとどうなったのですか?」

「もちろん、深い関係となった。ルキエルは、私に対して、抵抗らしい抵抗を見せなかった。それどころか、随分と色々とやりたがった。だが、それは、ルキエルにとって、目新しい道具と引き換えの行為だ。私に対して、情なんて持っていない」

 寂しそうに笑う貴族。わかっていて、それでも、この貴族は、ルキエルの命乞いをする。その行動は尊く崇高だ。妖精は、そういうものを好む。

 どうか、この貴族を助けてやってほしい、とハガルに頼みたかった。ずっと見ていたからわかる。この貴族は、ルキエルのことを思って、全てを捧げていた。

 しかし、ハガルは容赦がなかった。

「あなただけは、秘密裡の処刑で終わらせてあげましょう。跡取りは確か、養子ですね」

「ルキエルのことは」

「大事な妖精憑きです。処刑なんてしません。帝国の魔法使いにします」

「ありがとう」

 貴族は泣いて喜んだ。

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