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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
妖精の女王
30/40

秘密の部屋

 不思議な部屋がある。普段は、どこにあるのか見えない部屋だ。突然、その部屋のドアが現れるのだ。

 俺は、不思議な部屋のドアがある辺りをよく通りかかる。どうしても、気になってしまうからだ。そのドアが現れるだろう壁の前には、壊れた道具が山積みにされていた。だけど、ふとした瞬間、その道具が消えてなくなるのだ。

 いつか入ってやろう、とその扉が現れるのをずっと待っていた。その部屋の前を通るのは、遠回りだ。俺の行動に不思議がる奴は多い。だから、俺の思惑はすぐにバレてしまう。

「今日も、ここの前を通るのですね」

「もう、抱きつかないで!!」

 後ろから、レーリエットが俺を抱きしめてくれる。幼い頃はいいけど、それなりの年齢だ。背中に、柔らかい感触があって、俺は暴れる。だけど、まだまだレーリエットには勝てない。

 レーリエットは不思議な人だ。王都の貧民街の支配者ライホーンの妹なのに、ここ、海の貧民街にいる。見た目はとても可憐で美しく、それなりの年齢だというのに、激しい求婚を受けている。だけど、どこの誰なのかわからない父親の子を産み育てている。

「若、一人で行動はいけない」

 ナナキが俺を見つけてしまう。こっそりと来たというのに、ナナキはどこにいても、すぐ、俺を見つけてしまう。そして、俺を抱き上げるのだ。

「もう、やめろ!! 恥ずかしい!!!」

「まだまだ子どもなんだから、いいじゃないですか」

「そこまで子どもじゃない!!」

 どれだけ暴れても、ナナキはがっしりと俺を抱いて離さない。俺は大人しく、ナナキに運ばれるしかない。

 今日も、早朝訓練だ。俺は大人しく、素振りをする。毎日、千回素振りだ。よく使い込まれた、軽い木剣でやっている。

「もっと、色々と教えてくれればいいじゃないか!!」

 ついつい、母上に苦情を言ってしまう。母上は、見た目は綺麗で上品だが、剣の腕前はすごい。技術がすごいんだな。

「もっと力をつけて、基本を覚えなさい。それからです」

「もう、覚えた!!」

「まだまだですよ。この木剣が物足りなくなるまでは、素振りと型だけです」

 木剣を投げ出したいけど、これは、何か、思い入れがあるのだろう。一度、投げ出した時、母上が激怒した。それからは、気を付けて扱っている。

 そうして、早朝訓練が終わり、皆、片付けで忙している隙に、俺は例の部屋を見に行く。

 なんと、ドアが現れていた。俺は誰もいないことを確認して、そのドアを開けた。

 中は、どこにでもある部屋だ。他の部屋と何も変わらない間取りだ。まあ、個室にしては、必要最低限の物しかない。誰も住んでいないみたいだ。その印象を強くさせるのは、壊れた道具が山積みにされていることだ。

 だけど、道具は薄汚れたものばかりではなくなっていた。ものすごく綺麗な、新品みたいになった道具もあった。

「どこのチビだ?」

 まさか、人がいるとは思っていなかったので、俺は驚いてしまう。恐る恐る、と声をした方を見る。

 目隠しをした、体の細い男が道具が山積みにされている作業机にいた。一見すると、男とも女とも見えてしまうが、声は明らかに男だ。

「アンタこそ、どこの誰だよ」

 俺は見知らぬ男に警戒する。男は口元だけで笑った。

「修理屋だ。知らないのか? 海の貧民街では、壊れた道具を新品みたいに修理が出来る凄腕がいるって」

「聞いてない」

「まだチビだから、教えてもらってないんだな。だったら、俺とここで会ったことは、内緒にしておくんだな」

「俺は、次期、海の貧民街の支配者なんだぞ。知ってていいんだ。隠さない」

 俺の周りの大人たちは、俺を母上の後継者に、と見ていた。だから、この得たいの知れない男を知っていることは、当然だ。

 この男、細くて弱そうなのに、気配もなく、一瞬で俺の側に来ると、俺の額を指先ではじいた。

「痛いじゃないか!!」

「チビのくせに、生意気いうからだ。ちょっと瞬きした程度で、俺が側に来るのを許すなんて、未熟な証拠だ。もっと強くなってから、後継者だと言え。ほら、さっさと出ていけ。俺は忙しいんだ」

 男は作業机に行くと、壊れた道具に触れる。途端、道具の薄汚れは消えて、新品みたいに綺麗になる。

「え、もしかして、お前、妖精憑きなのか!?」

「そうだ。道具の修理が出来るのは、妖精憑きだけだ。知らなかったのか?」

「知らない!! 俺にも出来るかな?」

「お前はただの人だ。出来ない」

「そんなぁ」

 あんなふうに、汚れたものも一瞬で綺麗に出来るなんて、すごい。それが出来るようになりたいが、出来ないと言われて、落ち込む。

 妖精憑きはすごい。本当に瞬きしている間に、道具を皆、綺麗にしてしまう。そして、細い指で組み立てて、あの綺麗になった道具のところに置いた。

「見ていて、面白くないだろう」

「面白い!!」

「そうか! ほら、もっと近くで見てみろ」

 目隠しをしているから、この妖精憑きがどんな顔をしているかわからない。だけど、声は、俺の反応に喜んでいる。

「ほら、触ってみろ」

「うん!!」

 汚れた道具に触れると、見る見る、それが綺麗になっていく。それは、本当にすごい光景だ。

「組み立ててみるか?」

「でも、俺、妖精憑きじゃないし」

「俺が力を貸してやる。えっと、図面はこれだな。ほら、一緒にやってみよう」

 とても細かい図が描かれている紙を出して、妖精憑きは、説明してくれる。最初は、図面の見方がよくわからなかったが、妖精憑きの説明がわかりやすくて、すぐに見方を覚えた。

 そうして、俺は妖精憑きに導かれて、一つの道具を組み立てる。

「出来た!!」

「お前は、頭がいいな。母親に似たか?」

「俺は父親に似てる、て言われてる。俺の父親、物凄く頭がよくて、強いんだって」

「………そうか」

 妖精憑きは、俺をぎゅっと抱きしめて、離した。

「ほら、呼ばれてる。もう出ていけ」

「えー、もっと組み立てたい」

 もっと、この妖精憑きの側にいたくて、俺は抱きついた。妖精憑きは、俺の頭を撫でるだけで、無理に離そうとはしない。

「また、明日だ」

「わかった」

 そう言われては、俺は従わないわけにはいかなかった。それに、確かに俺を呼ぶ声がする。俺は妖精憑きに言われた通り、部屋を出た。

 だけど、次の日、ドアはなくなっていた。あの妖精憑き、嘘つきめ!!





 もう、その前を通るのは、俺の日課だ。壊れた道具は、相変わらず山積みにされ、気づいたら、なくなっている。そういう日々を過ごしていると、また、ドアが現れる。

 俺は、周りに誰もいないことを確かめてから、部屋に入った。

「嘘つき!! 次の日には、ドアがなくなってたぞ!!!」

「お、チビ、成長したな」

 まるっきり悪くなんて思ってもいない。嘘ついたくせに、妖精憑きは、俺の側に来て、俺の頭をなでる。

「仕方がない。そういうものなんだろう。俺が寝ると、あのドアは隠される仕様なんだ。起きてようとしたんだけど、寝ちゃったんだな」

「今日はずっと、ここにいるからな!!」

「仕方ないな。ほら、手伝え」

 綺麗になった道具の部品を図面ごと渡される。

「俺一人でやるのか?」

「ちょっと力を貸してやるから、やってくれ。ほら、こんなに一杯だ」

 確かに、壊れた道具は山積みだ。以前と変わらない高さだ。なのに、これを修理するのは、この妖精憑き一人だ。

 だけど、妖精憑きはとても器用で、組み立てるのがはやい。すぐに道具の修理を終わらせてしまう。そんな光景を眺めていると、妖精憑きは振り返ってくる。

「手を動かせ。これが、貧民街を便利にするんだ」

「う、うん」

 そうして、俺は日が暮れるまで、道具の組み立てをした。

 気づいたら、外は真っ暗だ。だけど、妖精憑きは目隠しをしたまま、道具を組み立てている。

「なあ、腹、減らないの?」

 俺が空腹を感じると、妖精憑きは食事を持ってきてくれた。だけど、妖精憑きは食事をとっていない。

「力ある妖精憑きは、食べなくても生きていけるからな」

「だから、女みたいに細いんだな」

「………」

 むちゃくちゃ、妖精憑きは落ち込んだ。やば、言っちゃいけないことだったか。

「俺みたいに細くて、力のない男にならないように、お前は、しっかり食べて、体を鍛えろ」

「お前だって、今から体を鍛えればいいじゃないか」

「内緒だぞ。妖精憑きって、大きくなってからじゃ、鍛えても、強くなれないんだと。もう、知らなかったよ。俺、大人になってから鍛えようと、頑張ったのに、無駄だった」

「そ、そうなんだ」

 物凄く落ち込む妖精憑き。大人になって鍛えようとした、ということは、子どもの頃、何か理由があって、出来なかったんだな。

 人にはそれぞれ、隠したい過去がある。母上は、俺の父上がどこの誰なのか、教えてくれない。俺はどうしても知りたくて、父親捜しをした。だけど、連れて行った男たちは、父親ではなかった。皆、がっしりした体格の、強い男だってのに、違うというんだ。強いって、どこまで強いんだか。

「ほら、もう帰れ。今日は誤魔化してやったが、こんな遅くまで、ここにいちゃいけない。帰れなくなるぞ」

「そうなの!?」

「俺が眠ったら、ドアが消えるぞ」

「そうだった!!」

 俺は慌てて部屋から出て行った。

 そして、振り返ると、もう、ドアがなくなっていた。





 敵勢力が襲ってきた。母上主導で、防衛をしているが、内側から裏切者が出てきてしまった。

 俺はどうにか斬り殺して、ある場所に行く。

 相変わらず、そこには、道具が山積みにされている。ドアもない。だけど、俺は壁を叩いた。

「敵襲だ!! ここにいたら、危ない!!!」

 俺は手が痛くなるほど、壁を叩いた。俺はかなり力があるというのに、その壁はヒビすら入らない。だけど、その向こうに何か空洞があるような音が響く。

 もう、俺たちのほうが不利だ。だから、せめて、あの妖精憑きを逃がしてやろう、と俺は思った。あの男の体は細い。目隠しをしているが、実は、綺麗なんだろう。こんな所にいて、壁を壊されたら、あの男は無体な目にあわされてしまうだろう。

 だけど、ドアが現れない。だったら、と俺は山積みにされた道具を空いている部屋に押し込んだ。そうすれば、そこに部屋が隠されている、なんて誰も思わないだろう。

 そうして、俺は母上の元に行く。

「母上!?」

 母上の側にも、裏切者がいた。母上は、複数の男相手に、苦戦していた。

「逃げなさい、ルキウス!!」

 俺には無理だと判断した母上はいう。だけど、俺は剣を抜き放って、母上を助けに向かう。

 だけど、俺の腕前は、まだまだだ。複数相手に、俺は呆気なく、剣を弾き飛ばされてしまう。

「死ね!!」

 俺は死を覚悟した。

「煩い」

 俺のすぐ横で、不機嫌な声がした。こんな時だというのに、俺は見てしまう。

 部屋から出てこないはずの妖精憑きが、俺の横に立って、敵の武器を素手でつかんで止めていた。

「な、貴様、生きていたのか!?」

「煩くて、眠れない。俺の眠りを妨害してはいけない、と帝国全土の貧民街が同盟を結んだのを忘れたのか」

 妖精憑きがちょっと腕をふるえば、敵勢力たちは、壁へと吹き飛ばされた。

「し、死んだと」

「誰が言ったんだ? 俺は元気だ。力ある妖精憑きは、寿命が化け物だ。そう簡単に死なない。さて、嘘を言った奴はどこの誰かな? ナナキ、さっさと出てきて、捕縛しろ!!」

 妖精憑きが怒りの声をあげれば、ナナキが出てきて、素早く敵たちを拘束する。

「あ、ヘレンお嬢さん、久しぶり。相変わらず、綺麗ですね」

 こんな場だというのに、妖精憑きは母上を褒める。確かに、随分な年齢だが、母上は綺麗だ。

 母上は、呆然としているも、しばらくして、泣きそうな顔になる。そんな母上を目の前にして、妖精憑きは距離をとる。

 俺の横に立って、俺を見上げた。

「随分とでかくなったな。いつも座ってたから、わからなかった。体も、いい感じに出来ているな。腕前は、あれか、未熟なんだな」

 べたべたと体を触って、手を見て、と妖精憑きは、場違いなことをしてくる。

「そんなことをしてないで、逃げないと!!」

 敵はまだ、外に溢れているのだ。ここを守ったとしても、外側は無事ではない。

 妖精憑きは、ちょっと外側に顔を向ける。すると、外側では、とんでもない火柱が立ち、悲鳴があがる。

「これで、静かになる。もう、体が出来上がったんだから、次は、技術だな。俺から、いい先生をつけてやる。励めよ」

 一方的に言うだけ言って、妖精憑きは、その場を去っていってしまう。

 妖精憑きが起こした火柱のお陰で、敵勢力は逃げていった。そして、同盟を守らなかったので、帝国全土の貧民街が、その敵勢力を滅ぼした。





 とんでもない綺麗な男が俺の剣術と体術の先生についた。見た目は綺麗で、なんと、剣術も体術も化け物だ。力づくでいけば、簡単にやられてしまう。

 あの妖精憑き、一体、何者なんだ? 物凄い先生をつけられてしまった。しかも、勉強までさせられるのだ。

 綺麗な男は、俺の顔を見ては、溜息をつく。

「あの男に随分と似たな。性格だけは曲がらないでくれ」

「俺の父親のことを知ってるのか!?」

 何故か、俺には父親のことは、何一つ教えられなかった。いや、強い、とか、賢い、とか、評価は聞いている。だけど、もっと人間味のある真実は教えてもらえなかった。

「お前の父親は、最低最悪だ。貧民生まれの貧民育ちだから、ともかく、最低なことを平気でする男だ」

「どう、最低なの?」

「お前の父親は、ともかく、人を魅了した。敵も、あの男の前では、骨抜きだ。だけど、あの男は好意があるようにふるまって利用して、骨抜きになった所で、捨てて、殺すんだ」

「酷いな、それ」

 女相手に、随分なことをするな、俺の父親。だけど、敵の間者か。そこが微妙だ。

 男だから、女使って篭絡してきたのだろう。そこを俺の父親は見破ったわけだ。

「父上は、女にもてるなんて、相当、すごいんだろうな、見た目」

 これまで連れてきた父親かもしれない男たちは、見た目は女にもてそうにない。まあ、男らしいけどな。

「………」

 綺麗な男は、両手で顔を覆って黙り込む。何か、あったんだろうか?

 そうして、かなりの腕前の先生に毎日、鍛えられ、日課のあの部屋の前を通りかかれば、相変わらず、壊れた道具が山積みだ。だけど、その量は、年々、減っている。どんどんと、壊れなくなってきたのだ。聞いた話だと、壊れた道具をしっかり綺麗にすれば、あとは、日常的に穢れ? を妖精憑きにとってもらえば、もう、壊れなくなるという。

 もうそろそろ、あの妖精憑きの役割も終わるんだな。そう壁を見ていると、瞬きしている間に、ドアが現れる。俺は慌てて、部屋に入った。

 部屋には、綺麗に修理された道具が山積みだ。壊れた道具は見当たらない。

 妖精憑きを探せば、ベッドで寝ていた。寝る時まで、目隠ししたままだ。俺はベッドの横で、起きるのを待った。

 ついつい、いたずら心に、俺は妖精憑きの目隠しをとってやろうと、手を伸ばした。

 目隠しに触れる寸前で、妖精憑きは俺の手を掴んで止める。

「俺を殺す気か」

「そ、そんなつもりじゃ」

「俺は、妖精封じをしないと、廃人になるんだ。もう、とろうとするな」

「ごめんなさい」

 表情はわからないが、妖精憑きは怒っていた。こんなふうに怒るなんて、初めてのことだ。いつも、穏やかで、笑っているだけで、ちょっとしたことで落ち込んだりするけど、怒ることはなかった。

 妖精憑きは、ベッドから出ると、外にある山積みの壊れた道具を魔法で部屋にいれる。

「これだけか。もう、俺も用無しだな」

 寂しそうに笑って、妖精憑きは道具の修理を始める。

「ほら、手伝え」

 綺麗になったバラバラにされた道具を俺によこす。俺はもう、図面なんか見なくても、組み立てられるようになっていた。

「俺さ、あんたが寄越した先生に、父親のことを聞いたんだけど、最低最悪な男なんだって」

「そうか、良かったな」

「えー、最低最悪だぞ。良くない」

 妖精憑きは手を止めて、俺のほうに体を向ける。

「お前も、随分と育ちがいいな。そんなんじゃ、貧民としてやっていけないぞ」

「最低最悪なんて、かっこ悪い」

「かっこ悪いって、あのな、貧民にそういうものを求めちゃダメだろう。貧民は、底辺だけど、自由だ。そんな他人の評価に縛られるような生き方をしていたら、不自由でしかない。貧民のいいトコは、自由なんだ。最低最悪と言われても、誉め言葉と返せるようにしろ」

「………」

「あいつも、育ちがいいから、そんなこと言うんだな。お前の教育環境、ちょっと失敗してるな。それでも、どうにかなるように、ナナキをつけたんだけど」

「なあ、あんた、ナナキの何? ナナキはさ、俺の言う事しかきかないんだ。なのに、あんたの命令はきいてる」

 ナナキは、何故か、この妖精憑きの命令には従った。母上の命令は気に入らないと無視するというのにだ。

「ナナキは俺の妖精だよ。あいつな、俺だけの妖精になりたくて、神様に羽を捧げて、人になったんだよ。すごいだろう」

「そうなの!? でも、普通の人にしか見えない」

「隠してるんだよ。あいつな、すごい妖精隠し持ってるんだぞ。お前のこと、気に入ってるんだな。だからって、怒らせるなよ。あいつ、元は妖精だから、我儘なんだ。怒らせると、とんでもないことをやるからな」

「気を付けよう」

 ナナキ、腕っぷしもすごいのだ。敵に回してはいけない。

 妖精憑きは、目隠しを通して、俺をじっと見てくる。

「あんなチビも、もうでかくなったな」

「いつの話だよ。もうすぐ、俺もそれなりに後ろ暗い仕事をするんだぞ」

「妖精憑きは寿命が長いから、人なんて、瞬きしている間に寿命でいなくなる。お前も、ちょっと目を離していると、寿命でいなくなってるんだろうな」

 そういえば、見た感じ、この妖精憑きは初めて会った頃から変わっていない。まあ、目隠ししているから、若いか老けているか、わかりにくいけどな。

 だけど、話し方が若い。まだ、子どもが残っている感じだ。

「もう、ここには来るなよ」

「えー、そんなー、いいじゃん。これ、楽しいのに」

「そうか!! ………だけど、もうおしまいだ。ここにあるので、道具の修理は終わりだ。俺の役目は、今日で終わった」

「だったら、外に出ればいいじゃん。こんなとこにずっと閉じこもってないでさ、外に行けよ。一緒に出よう!!」

「俺な、外に出ると、いっつも問題起こして、叱られるんだ。俺がここで大人しくしてるほうが、外は平和なんだと」

「そんなの、詰まらないだろう。外に行こう!!」

「詰まらなくない。お前はわからないだろうが、妖精憑きが見る世界は、すごいんだ。ほら、手をかしてみろ」

 言われて、俺は妖精憑きに手を出した。妖精憑きが握った途端、俺の見る世界が一変する。

 よくわからない光りやら何やらが、世界い溢れている。それが、部屋いっぱいだ。窓の外には、妖精が普通に飛んでいるのだ。あの穢れた貧民街も、とても綺麗だ。

 妖精憑きが俺の手を離すと、いつもの景色だ。

「俺は、妖精憑きとしての格が爆上りして、見る世界が一変した。今、お前に見せた景色は、だいぶ、おさえてあるんだ。俺は、もっとすごいものが見えるし、聞こえるし、感じている。ただ、ここにいるだけで、満ち足りる」

「爺みたいんだな」

「あー、うん、そうだね」

 あ、余計なこと言っちゃった。妖精憑きは物凄く落ち込んだ。でも、仕方がない。あの光景を見てわかる。人と妖精憑きは、感性が違うのだ。価値観だって違う。

 この妖精憑きにとって、ここで過ごすことは満ち足りている。だけど、ただの人には、詰まらないのだ。きっと、あの光景だって、ただの人はすぐに飽きてしまう。

 もっと、色々な所に連れて行ってやりたい。そう思う。だけど、この妖精憑きは、この閉じられた空間に幸福を感じている。

 母上に教えられた。価値観は人それぞれだ。押し付けてはいけない。

「道具がなくっても、また、遊びに来るよ」

「もう、お前は入れない」

 ちょっと瞬きしただけで、俺は部屋の外にいた。あのドアはなくなっていた。

 それからは、もう、俺の前に、あのドアは現れなかった。

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