指導
「やっぱり、妖精憑きの格と、憑いてる妖精の格が重要か」
壊れても困らない道具を分解させたり、組み立てさせたり、と妖精憑きたちにさせて、いい感じに試験は終了した。
「ほら、道具の中にたまってる穢れ、取り込んでみろ」
「どうやって!?」
「はい、俺の手を握ろう」
口で説明出来ないので、俺から誘導である。ちなみに、このやり方、俺の独学である。
「気持ち悪っ!!」
「え、俺の手、気持ち悪い?」
「そっちは気持ちいいけど、道具のほうが、なんか、気持ち悪い」
「そっちかー、わかるわかる。道具ね、こうやってこまめに穢れを取り払ってやると、寿命が伸びるんだよ。本来は、設置したまま、こまめにやるのがいいんだよな。だから、お前たちは、道具の穢れを取り払って、浄化だ」
「浄化!?」
「妖精にやってもらうんだよ。格が低いから、時間がかかるけど、これから設置する道具は、浄化済の道具だから、楽に出来るよ」
一人一人、指導していく。俺に対して、というか、人に対しての自尊心を根こそぎ刈り取られちゃったので、妖精憑きの皆さん、素直だ。いいことだ。よっぽど、怖いことされたんだね。
「海の貧民街には、君がいるから、いいな」
「そうでもないだろう。俺、たぶん、ここで定住は不可能だし」
「そうなのか!?」
ケリンに驚かれちゃったよ。
「行く場所がないのと、コクーン爺さんには助けられた恩があるから、ここにいるだけだよ。それも、妖精憑きだと、お前たちにバレちゃったから、出ていかないといけないな」
「いつまでいるつもりだ?」
「………」
無言になる。うーん、出て行かないといけないけど、まだまだ、やること残ってるからな。先が見えない。
「もし、万が一、行く所がないのなら、ぜひ、中央に来てくれ!!」
両手握られて、お願いされちゃったよ!!
悩むな。俺はひっそりと暮らしたいのだが、ケリンの下半身が気になる。ぶしつけながら、見てしまう。本当に俺、男なしでは生きていられなくなっちゃったな。
「浮気は許さん!」
とうとう、ナナキが地下にやってきた。
「お兄ちゃん、私もいるんだから!!」
「こら、レーリエットをこんな汚れた所に連れてくるなんて!?」
「お兄ちゃん、また、食事抜いてる。ほら、食べて」
「あー、そーうーだーねー」
夢中になってて、忘れてた。でも、それ、俺だけじゃない。この地下にいる妖精憑きの皆さんと、中央の貧民街から来た皆さんだってそうだ。
「じゃあ、ここで休憩してきていいよ。俺は、お人形さんいじりしてくる」
「お兄ちゃん!! 今日は私が作ったんだから、食べて」
「一食抜いたって、死なないって」
「もう、朝も抜いてたでしょ。王都でも、道具いじりに夢中になると、絶食しちゃうんだから。あの男も止められないなんて」
忌々しい、と今、俺が夢中になっているお人形さん二体を睨むレーリエット。
「男の浪漫だよ、浪漫。こういう人型って、何か、感じちゃうんだよね。ケリンはどう?」
「わかる!!」
仲間がいた!! ケリンと熱く握手しちゃう。
「この、無駄なのがいいんだよ。役に立たないけど、人型を動かす、というのが」
「いや、無駄ではないだろう。それなりの妖精が憑けば、この人型は、何かに使えるはずだ」
「こういうのは、無駄で終わったほうがいいんだ」
ケリンは何か有用性を探ろうとしているが、俺は逆だ。
俺の意見に賛成か、それとも、過去の経験を思い出したのか、ナナキが軽く頷く。
「問題は、妖精だ、妖精。野良の妖精を呼び込むとしても、それなりの格が高いやつは、なかなか見つけられないんだよな」
この実験は、それなりの格の高い妖精が必要だ。
「ルキエルが持っている妖精では無理なのか?」
「………」
俺はじっとカーラーンを見てしまう。野良じゃないけど、いるね、いい奴が。
「他の妖精憑きの妖精で試してからにしよう。試行錯誤は大事だ」
俺が生まれ持つ妖精は中級までだ。義体に憑かせても、動かせなかったので、高位以上でないといけないのかもしれない。
妖精の格の細かな順位付けは、表沙汰にするのはダメな予感がするので、俺はそこを誤魔化しつつ、食事で出ていった妖精憑きが戻るのを待った。
「あ、今日の夜は、外で泊まってくる」
レーリエットお手製の食事を食べながら、今日の予定を伝える。
「男か!?」
ナナキが、いきなり、確信に近いところを突いてくる。性別が違うな、性別が。
「身売りはもう出来ない話になってるでしょ!! まさか、こっそり男漁りに行くの!?」
「どうしてお前たちは、俺のことを男狂いみたいにいうんだ!!」
妹にまで、男好きみたいに認識されている。
「だって、お兄ちゃん、女にはこれっぽっちも興味ないじゃない」
「そ、それは、男の沽券が邪魔をするんだよ。純粋に、興味はある」
「まさか、ヘレンじゃないでしょうね」
「それはない。お前なー、どうして、ヘレンお嬢さんを疑うの。俺とヘレンお嬢さんでは、こう、立場とか違うでしょう。そこは、俺だって身の程わかっているぞ」
「そういうのを抜きで考えれば?」
「まず、考えることすらしない。そういうのはしない。俺は、確実なことを考えるのみだ。ともかく、今日は外泊だから、レーリエットは大人しく留守番。ナナキは、レーリエットの護衛」
二人とも、生意気な顔をするな。もう、俺のあとついて来そうだ。
「山の貧民街の支配者ナラータから、種馬になってくれ、と頼まれたんだ」
「なんだって!?」
正直に言ったら、まだ地下に残っていた中央の貧民街の支配者ケリンが叫ぶ。
「き、君と、ナラータが、結婚!?」
「違う!! ナラータが、俺の子種が欲しいんだって。それだけ!!!」
「でも、ナラータは君の子を望んでいるんだろう!? 君は、ナラータの子の父親になるから」
「俺は子育てには参加しない。ただの種馬だ。子育てはもう、十分やった」
「子どもがいるのか!?」
「レーリエットは俺が育てたようなものだ。離乳からずっと、俺がやっていたんだ」
「そ、そういうことか」
誤解をといていくと、ケリンはなんだかおかしな感じになっていく。
「なーんだ、ケリン、ナラータのことが好きなのか」
「そ、そうなのかな?」
「………気のせいだな」
余計なことを言って、大変なことになるといけないので、俺はすぐに否定しておいた。こういう感情の問題は、俺の手には負えない。
ちょっとおかしな感じになったケリンは心配だが、それよりも、お人形さんだ。
義体は、関節とか、しっかり作りこまれているけど、それだけだ。男女の違いがない。ただ、平ら胸に、下半身はつるつるだ。これに妖精を憑けたら、どんなのになるかなー? ちらっと期待をこめて、カーラーンを見てしまう。カーラーンは、もう、近い未来がわかるようで、見るからに不機嫌になる。
俺はケリンやレーリエットに聞こえないように、防音して、カーラーンに話しかける。
「カーラーンってさ、確か、高位妖精二十体、支配下に置いてるって、言ってたよね?」
「………」
「今回、連れてこられた妖精憑きさ、高位妖精いるけど、妖精憑きの格が足りなくて、操作出来ないんだよね。俺としては、カーラーンは男性型だから、高位妖精は女性型を使いたいんだけど、いるかな?」
「………」
「ルキエルが頼んでいるんだ、出してやれ」
ナナキが俺に加勢してくれる。さすが、俺の妖精だね。
「もしかして、カーラーンが男性型だから、高位妖精も男性型だけしかいないとか?」
「性別なんて、あってないようなものですよ。カーラーンが望めば、女性型に変化出来る。僕が、ルキエルのために、男になったようにね」
後ろから抱きついてくるナナキは、俺をどうにか誘惑しようと、体をまさぐってくる。けど、お人形に夢中な俺は、これっぽっちも情欲しない。道具いじりの時は、俺、親父とも閨事しなかったんだよね。
俺がこれっぽっちも反応しないから、ナナキ、人型の義体に嫉妬の目を向ける。
「ナナキ、それ、大事な道具だから、傷つけるような真似するなよ。万が一、傷一つでもついたら、一か月は口きいてやんない」
「絶対にしない!! 僕にも配下の妖精がいたら、実験に参加出来たのに」
「ねえ、ナナキの格って、どれくらいなの?」
「………」
この話になると、黙り込むんだよね。本当に、ナナキの正体が気になってならないよ。カーラーンはなんとなくわかっているようだけど、無言なんだよね。
俺はやっぱり食欲がわかなくて、食事半分も残して、資料を見る。
「これ、契約紋だよなー」
義体の背中はつるつるなんだけど、ケリンから預かった資料には、契約紋が描かれている。本来は、この契約紋を義体の背中に描き込むのだが、その方法が、やっぱり、力ある妖精憑きでないと出来ないやつだ。
まず、義体に妖精を憑かせる。そして、瞬間で外に出られないように契約紋を魔法で義体の背中に彫り込むのだ。この、彫り込む、というのが、瞬間である。
たぶん、大昔は、妖精を騙して、義体に憑かせて、契約紋で縛ったんだろう。契約紋には、義体に縛るだけでなく、様々な制約文がつけられている。この制約文を改造する必要がある。
「このままだと、皇族に絶対服従なのか」
「読めるのですか?」
ナナキが横に座って聞いてくる。
「読めるというか、予測だけどね。ナナキは読める?」
「この頃の文字は、神が与えた言語です。逆に言いますと、今の言語では、妖精は縛れません」
「え、じゃあ、契約紋を今の言語にしちゃダメ?」
「そういうことですよ。昔の皇族、貴族、教会はやってしまいましたね。妖精を縛る言語を使えなくしてしまったのですから」
「本当に、罪深いな」
帝国は一度、滅びかけたという。貴重な本を焚書し、悪政がはびこり、本当に大変なこととなったという。その影響が、後世にも続いている。
「お陰で、妖精は人に縛られなくなりましたけどね。この言語のせいで、随分と、妖精の扱いは酷かったのですよ」
「そういう話なら、この文字は、復活させないほうがいいな」
「どうしてですか?」
「妖精に頼る生き方は、良くない。妖精がいなくなった時、本当にダメになるだろう。だったら、これは、封印だ」
俺が言い出さなければ、ケリンも特には気にしないだろう。この研究も、ただの義体操作にとどめておけばいい。
物言いたげにナナキは俺を見てくる。何か間違ったことを言っているような気になる。だけど、ナナキは、それ以上、何も言わない。
結局、中央の貧民街の支配者ケリンは、使い物にならなくなった。休憩を終わらせた妖精憑きが戻ってきたものも、ケリンは、他事に意識が飛んでしまっていた。
中途半端なことをするのは、危険と判断した俺は、今日の作業を終了させる。
「ケリン、少し、頭を冷やしたほうがいい」
「出来ます!!」
「貴重な道具だ。いい加減なことはしたくない。頭の切り替えが出来ないのなら、しばらくは経過観察でいい」
「………すみません」
ケリンは、大人しく、引き下がってくれた。
道具いじりがなくなったので、俺は山の貧民街の支配者ナラータの元に行く。妖精の導きで向かってみれば、女子会の場に行ってしまう。
食堂はもう、終了していた。そこで、ナラータと、ヘレンお嬢さん、レーリエットがお茶を飲んでいた。
「もう終わったのか? てっきり、明日に延期かと話してたんだけどね」
「………」
なんとも言えない面子に、俺は黙り込む。この女子会、俺にはまずいものしかないな。
もう、俺とナラータがこれから閨事することを聞いているのだろ。ヘレンお嬢さんは睨んでくる。それはそうだ。ヘレンお嬢さんが迫ってきた時は、俺、拒絶したから。
「お兄ちゃん、ナラータがいいなら、私もいいよね?」
「妹はダメだ」
レーリエットが言ってくるが、そっちも断固拒否だ。お前、わかっているか? 俺は兄と弟に睡姦されてるんだぞ。いいわけないだろう!?
「血の繋がりがなくても、いいわけではないですものね」
にっこりと怖い笑顔で口を挟んでくるヘレンお嬢さん。どーこーまーでー、言ったのかなー?? 怖い怖い怖い!!
「これからでいいなら、移動しよう。俺が仕事で使う店に、いい部屋がある」
もう無視だ無視!! ヘレンお嬢さんを無視して、話を進めていく。
ナラータは、まだ物言いたげに俺とヘレンお嬢さんを見る。もう、やめてくれ。俺とヘレンお嬢さん、そういうお花畑みたいな関係じゃないから!!
「妖精憑きのほうは、いつ終わりそうだ?」
「修理よりも、調整のほうを教えているからな。あと、図面の見方とか。あ、文字も読めない奴もいたから、そこも指導していると、時間かかるな」
「文字はこっちで指導しよう。図面のほうは、わかる奴を一人、連れて来たから、そいつに指導してくれ」
「そうなると、妖精憑きとしての指導だな。短くて一週間で終わるだろう。皆、素直になったから、俺には逆らわなくなった」
「あんた、本当にすごい男だね。一見すると、無害で情けない男なのに、いざとなると、とんでもない男気を見せてくれる」
「当然のことをしているだけだ。さて、行こう」
俺はナラータの手をとる。ナラータ、まさか女扱いされるとは思っていなかったようで、驚いて、しばらく硬直する。
俺はナラータが動くのを待った。笑ってやれば、ナラータはぎこちなく動き出した。
「レーリエット、今日は大人しく留守番してろよ」
「もう、諦めないんだから!!」
レーリエットにしつこく注意してやると、可愛い顔で言い返してくる。ああ言っているが、同衾しても、何もしてこないんだよな。潔癖症だから、そういうことが出来ないんだ。
途中、外で項垂れている中央の貧民街の支配者ケリンを見かける。俺がちょっと視線を向ければ、気づいたケリンがこちらを見る。ナラータは、ケリンに笑顔で手を振るが、それだけだ。
「ケリンとは仲良しなんだな」
「アタシさ、頭そんなに良くないから、わからないコトがあると、ケリンに聞くんだ。アイツ、頭がいいから、なんでも教えてくれてさ。いいヤツなんだ」
「それは焼けるね」
「え、どうして?」
「これから、俺とアンタは閨事するんだ。アンタと仲良しな男が近くにいる。男として、焼けるじゃないか」
「そ、そんな」
何か言い訳しようとする口を俺は塞いでやる。ケリンが見ている前で、ナラータに口づけする。深く、舌までいれてやる。ナラータ、経験はあまりないようで、ただ、受け止めるだけだ。
たったそれだけで、ナラータは女の顔をして、俺の胸に寄りかかる。
「これは、教えがいがありそうだ」
「あっ」
もう一度、深く口づけすれば、ナラータは俺だけを見るようになった。
いつもの店に行けば、店長が止めようとしてくる。
「商売させるわけには」
「話はついている。あの、前払いの部屋を使う」
俺が金を渡す。店長はかなり迷ったが、俺の行く手なんて邪魔出来ないことを悟り、大人しく従った。
豪勢な部屋に入れられると、ナラータは震える。
「あの、体を清めたい」
「もう清めた。気づかないか? 魔法で服も新品にしてやった。ほら、その目も治してやろうか?」
ナラータの眼帯に手をかける。ナラータは今更ながら、閨事にためらいを見せた。人前では、普通にしていたが、俺と二人きりとなって、怖くなったのだろう。
だけど、俺は容赦なくナラータをベッドに押し倒す。力では、ナラータには勝てない。が、技術は俺のほうがある。ちょっと愛撫してやれば、ナラータは身をよじって、可愛らしい声で啼いた。
そして、俺は手を止めて、ナラータから距離をとる。ちょっと、閨事に対して、素人っぽい。
「ナラータ、もしかして、閨事、初めて」
「そ、そうだが」
ベッドの上で身もだえするナラータ。俺はさらに距離をとった。
「まさか、役立たずか?」
「違う!! 初めてだなんて、知らなかった。この話はなしにしよう」
俺は服を整える。これはいかん。本気でまずい。
「おい、どうしてだ!? ここまで来て、女に恥をかかせるのか!! 見た奴がいっぱいいるんだぞ」
「初めてだと知っていたら、断ってた!! 俺はダメだ。俺はな、初めての相手には向いてないんだ」
「下手だからか?」
「その、経験がないから、そうかもしれないが、それ以前の問題だ。ナラータ、閨事のやり取りは勉強したんだよな。でないと、俺に寝てればいい、なんて言えないよな」
「それは、まあ、見たが」
「どれくらい見た? まさか、一組、二組じゃないよな」
「そんな恥ずかしいこと、答えないといけないのか!?」
「見慣れているかどうかだ。見慣れているようだから、まずは、見たほうがいい」
俺は下半身をナラータに見せる。俺はほら、見られる事が多いから、今更、羞恥心なんてない。
「お前、その顔で、とんでもないもの持ってるな!?」
「わかったな。絶対にやめておけ」
俺の親父は、とんでもない剛直持ちだ。ということは、息子である俺も、それなりである。親父には負けるけど、それでも、かなりのものだ。
「誰も、そんなこと言わなかったから」
「いうわけないだろう!? 俺は男に閨事されて、喜んでるような男だぞ。蹂躙している男の一物が、とんでもない物だ、なんて言わない。男の沽券にかかわるからな」
だから、俺の下半身のことは、噂にも上がらない。絶対に上げないよ。
「ナラータ、今日は大人しく、一泊して、終わりだ。頭を冷やして、よく考えろ」
「わ、わかった」
さすがの山の貧民街の支配者も、俺の下半身には退いた。




