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魔法使いの悪友  作者: 春香秋灯
修理屋
22/40

貧民街の妖精憑きたち

 壊れていない義体はそのままお持ち帰りとなるかに思っていた。だって、直すところがない。

「どうだろう、僕と共同研究をしないか?」

「え、戦争するの? 悪いけど、帝国相手の戦争には協力しない」

「そんなことはしない!! ただの好奇心だ」

 智の武人と呼ばれるケリンは、ともかく、好奇心旺盛である。この義体を調べたいのだ。

 俺は資料をめくって、重要そうな部分を翻訳して、紙に書く。

「じゃあ、各地の妖精憑きを集めようか。いい妖精持ってる奴がいるかもしれない」

「それは、無理じゃないか?」

「道具の修理出来る奴、増えるかもよ」

「よし、連絡とろう!!」

 俺がちょっと言ってやれば、ケリンが率先して動いてくれた。ちょろいな。

 というわけで、義体の研究のために、コクーン爺さんには場所の提供をしてもらうこととなった。

「ごめんね、コクーン爺さん。あと、これが終わったら、約束守れよ」

「ゆっくりとやってくれて構わんぞ。一年でも二年でも」

「すーぐ、終わらせてやるよ」

 このクソ爺、逃がしてなるものか。約束の話、絶対にさせてやる。

 コクーン爺さんの案内で連れて行かれた場所は、地下である。ここ、よく拷問とかで使ったトコだよね。ちょっと血なまぐさい。

 俺が顔をしかめていると、ハガルのとこから戻ってきた最高位妖精カーラーンが魔法で汚臭をなくしてくれた。さすが、最高位妖精様様だ。俺の妖精でも出来るけどね。

「また、小汚い義体だな。城の地下にもいっぱいあるぞ」

 カーラーンが運び込まれた義体を見ていう。そうか、これ、汚れてるんだ。

 俺は義体に触れて、義体の汚れをぱぱっと魔法でとった。それを目の前でされて、ケリンは感動している。

「君は本当にすごいな!!」

「えー、普通だよ、普通。俺ね、器用なんだって」

 俺は帝国に捕まった時、一か月ほど魔法使いの指導を受けた。試験とかしてわかったのだが、俺は、相当、器用だそうだ。妖精憑きとしての格はそれほど高くないのだが、魔法使いとしての才能は高いという。

 道具を綺麗にするのは、妖精憑きとしての格が必要だ。今、最高位妖精カーラーンの力を借りているので、新品みたいに綺麗に出来るのだ。

「魔道具や魔法具は、もともと、聖域の素材を使っている。穢れが蓄積されて、壊れてくんだ。この穢れを妖精憑きが取り払う要領だよ」

「修理の腕前が上がったのは、どうしてだ?」

「………」

 説明が難しい。ここで、帝国に捕まって魔法使いの修行させられてました、とは言えない。ほら、帝国と貧民街は敵同士だから。ここで、本当のこと言ったら、大変だ。

「こう、言っても理解してもらえないが、俺の妖精憑きとしての格が上がったんだ」

「妖精憑きの、格?」

「俺も、筆頭魔法使いの本気を見せられるまで、妖精憑きの格というものは知らなかったんだ」

 一年前のことを思い出すと、今でもぞっとする。

 お互い、身分を隠して接していた時は、ハガルは大した妖精憑きには見えなかった。俺の目に見えるハガルの妖精は少なかった。が、実際は、俺には見えなかっただけで、最高位妖精をぞろぞろと連れ歩いていたという。俺は、妖精憑きとして格が低かったため、ハガルが生まれ持つ最高位の妖精が見えなかったのだ。

 だが、ハガルは最高位妖精の中に、高位妖精、中位妖精、下位妖精と隠していた。親父が復讐のために、帝国民の前に出された皇帝ラインハルトを強襲した時、妖精憑きである俺に見えるように、最高位妖精一体分が隠し持つ下位妖精を解放したのだ。それは、見渡す限りの空を覆いつくすほどの数だった。

 そこのところを説明するのは、本当に難しい。これ、同じ妖精憑きでないとわからない話だ。

「ちょっとした事故で、妖精憑きとしての格が上がってしまったんだ。お陰で、かなり格の高い妖精と交渉が出来るようになって、教えてもらってる」

「そうなのか。筆頭魔法使いは、それほどすごいとは思えなかったんだが」

「見たことがあるのか?」

「それは、まあ。筆頭魔法使いは帝国中の聖域の慰問が仕事だ。子飼いの妖精憑きにこっそり見てもらったが、大した妖精憑きではない、と言ってた」

「それ、バレてるから。こっそりにすらなってない。あんたが持つ妖精憑きの格が低くて、筆頭魔法使いが持つ妖精が見えないんだ。見逃してもらえて良かったな」

「見逃してって、まさか」

「妖精は普通の人には見えない。妖精憑きが側にいるといっても、格の高い妖精は、妖精憑きの格が低いと視認できないんだ。妖精憑きの力を過信してはいけない。今の筆頭魔法使いは、千年に一人誕生する化け物だ。俺たちは、遊ばれているだけだ。侮って、妙なことを考えるなよ。絶対に、帝国には逆らうな」

「あ、ああ」

 あまりにも俺がしつこく言うから、ケリンは戸惑いつつも、頷いた。

 一度、わからせる必要があるな。俺が生きている間に、貧民街が帝国の敵になってもらっては困る。





 帝国各地の貧民街が所有する妖精憑きを海の貧民街に集める交渉は、ケリンにお任せした。表向きは、妖精憑きに道具の修理を俺が伝授しよう、という話。裏では、義体の操作の実験の協力である。

 わくわくするな、義体の実験。部屋に戻っても、ケリンが持ってきた資料を読んでは、ついつい、嬉しくて、笑ってしまう。

「楽しそうですね」

「むちゃくちゃ楽しい。人型の義体だぞ。道具としては、これっぽっちも役に立たないけどな」

 音も気配もなく部屋に入ってきたナナキが後ろから俺を抱きしめてくれる。いつもだったら、この抱擁で感じたりするのだが、今日はこれっぽっちもない。人型の義体に夢中だ。

 いつもとは違う反応に、ナナキは不機嫌な顔を見せる。

「そんな、戦闘妖精の義体なんて、大したものではないのに」

「詳しそうだな」

「長生きだからな。教えてあげましょうか?」

「いや、実験して、調査するからいらない」

 無言で、俺が持つ資料を取り上げるナナキ。

「こらこら、借り物だ。返せ」

「どうせ、頭の中に入っているでしょう。食事も取りに来ないと、心配されてますよ」

「食べたくない」

「道具いじりをする時は、いつもそうですね。王都では好き勝手は許されましたが、ここでは許されませんよ。ほら、行きましょう」

「動きたくない。ここに持ってきて、食べさせてくれればいいだろう。それに、食堂に行ったら、ヘレンお嬢さんに会うことになる。しばらく、会いたくない」

「まだ、怒っているのですか」

「………」

 せっかく気を紛らわせている所に、ヘレンお嬢さんに会うと、この楽しい気分が台無しだ。膨れて黙り込んでいると、ナナキが書類を返してくれた。

「いいですよ、ここで、食事を食べさせてあげます」

「頼む」

「喜んで」

 笑顔で部屋を出ていくナナキ。俺は、資料をめくるが、すぐに手を止める。どっちにしても、気分は台無しになっていたが。

「カーラーン、そういえば、ハガルから手紙は?」

 気分を変えて、ナナキもいないことだし、カーラーンに聞いてみる。俺から手紙を出したんだから、返事もあるはずだ。

 カーラーンは明後日の方向に顔を向ける。

「カーラーン、ハガルからの返事は?」

「………」

「まさか、ないの!? 俺、むちゃくちゃ楽しみにしてたのに!!」

「忙しいんだ」

「あいつは才能の化け物だから、片手間だろう!!」

「下っ端魔法使いどもを絞めるのに、忙しいんだ」

「どうやって絞めてるの?」

「妖精盗って、鞭打ちだ」

「………」

 妖精盗られるのって、大変なんだよね。俺も盗られて、絶望が酷かった。その後、鞭打ちかー。

「ハガル、力ないのに、鞭打ちするんだ」

「ハガルがやるわけないだろう。ハガルの正体を知る古参の魔法使いたちがやるんだ。ハガルはただ、上から命じるだけだ」

「そ、そうだよね。帝国で二番目に偉い人だもんね。鞭なんて持たないよね」

 でも、俺の契約紋の儀式、焼き鏝持ってたの、皇帝だけどね!! 帝国で一番偉い人を帝国で二番目に偉いハガルが顎で使ってたね!!!

「いちいち、体で教え込まなくても、最高位妖精が隠し持っている妖精全部を見せれば、魔法使いも逆らわなくなるよ」

「………確かに」

「どうして、ハガルは隠し通してるの?」

「煩いし、前が見えなくなるし、暗くなるだろう。力のある妖精憑きは、それが普通仕様だ」

「そ、そうだね」

 一度、見てしまった俺は、納得する。世界が真っ暗になったな、確かに。

「僕がいない間に、距離が近い!!」

 俺の食事を持ってきたナナキが、俺とカーラーンが近いのに、激怒する。

「そういえば、ナナキは普通にカーラーンが見えてるな。元妖精だから?」

 ナナキ、笑顔のまま無言だ。カーラーンはというと、顔を背けて、答えてくれそうにない。おいおい、ナナキって、何者なの!?

「ほら、食べさせてあげよう」

 給餌行動に、ナナキ、すごい笑顔である。

 もう、気分が斜め下になっちゃったから、資料を読む気にはならないのだが、食べさせて、とお願いしたのは俺だし。今更、自分で食べます、なんて言えないよな。言ったら、ナナキ、すごく不機嫌になるんだよな。

 諦めて、ナナキに食べさせてもらった。

「うまいな」

「僕が作りました」

「………」

 とうとう、俺の食事にまで、ナナキが手を出してきたかー。

 現在、部屋の掃除から、身の回りのことまで、ナナキの世話になっていた。王都では、ここまでのことはされなかったけどな。閨事してから、タガが外れちゃったんだな。

「美味しいから、ま、いっか」

 同じ材料使って、ここまで美味しくなるなら、これでいっか。悟って、観念した。






 帝国各地の貧民街が隠し持つ妖精憑きは一週間もあれば、海の貧民街にいる俺の目の前に集合した。

「おい、王都の奴は、どうしていないんだ!?」

 最果ての貧民街の支配者ヤイハーンが、王都だけ不在なのに激怒する。

「いるわけはないだろう。魔法使いのお膝元だぞ。妖精憑きなんて隠し持つのは不可能だから、見つかったら、さっさと帝国に差し出している」

「貴様はどうなんだ!?」

「俺は前の支配者の娼夫だ。妖精憑きとして隠し持っていたわけではない。支配者の娼夫が、たまたま妖精憑きだっただけだ。差し出すはずがない。戦ってでも、囲うさ」

 そう言ってはいるが、俺はかなり自由に動き回っていた。捕まったら、親父が取り返し来て、自滅することを期待していたが、叶わなかった。当時、見習い魔法使いだったハガルが俺を見つけても、見逃してしまうほど、大した妖精憑きではなかったのだ。

 俺は、改めて、各地が隠し持っている妖精憑きたちを見回す。こう言ってはなんだが、俺よりも弱いな。

 だけど、ハガルみたいに、格の高い妖精に隠されていた場合もある。俺を囲むようにして、妖精憑きを集めた。

「まず、俺の妖精が見える奴、手をあげろ」

 現在、最高位妖精カーラーンによって、俺の妖精は隠されている。もし、見えるとしたら、カーラーンだ。

 妖精憑きは、互いに顔を見合わせるだけだ。誰も手を上げない。

「こいつ、妖精憑きじゃない!!」

 生意気な奴が、俺を指さして言いやがる。まあ、そうなるよな。俺も、最初、ハガルのこと、そう見てた。

「おいおい、お前、妖精憑きだというのは、嘘か?」

 まだ、俺の力の片鱗を見たことがない最果ての貧民街の支配者ヤイハーンと、山の貧民街の支配者ナラータが疑うように見てくる。

「れっきとした妖精憑きだ。僕は確かに見た」

 ちょっとした魔法を見せられた中央の貧民街の支配者ケリンは俺を擁護する。大したのじゃないけどな。ここにいる妖精憑きだったら、皆、出来る程度だ。

「きっと、道具の修理しか出来ないんだよ」

 妖精憑きというものは、自尊心が無茶苦茶高い。いくら貧民街に隠されているといっても、神の使いである妖精を生まれ持つので、どうしても、居丈高になってしまう。

 妖精憑き同士で、上下をとりあっているのは、見ていて、なんともいえない。ここで、誰が最強の妖精憑きか、なんて戦いが起きそうだ。

「カーラーン、出せ」

「わかった」

 俺が命じれば、カーラーンは隠していた妖精を解放する。

 ただの人には、何も変化はない。何せ、見えないし、聞こえないし、感じないのだ。

 しかし、妖精憑きは、見えたり、聞こえたり、感じたりする。一瞬にして、全てを覆い隠すほどの妖精が溢れ、妖精憑きたちは逃げようとするも、あまりの数に、逃げる先が見えない。結果、頭を抱えて、丸くなるしかないのだ。

「いい勉強になっただろう。筆頭魔法使いが隠し持っている妖精は、こんなんじゃない。本気を出せば、きっと、帝国中を筆頭魔法使いの妖精が覆い隠すだろうな」

 俺の目の前で、ハガルは王都全てを覆い隠すほどの妖精を解き放った。最高位妖精は俺の知る限りでは、最低二体だ。しかし、カーラーンを見るからに、最高位妖精をハガルはもっと所持している。最高位妖精を十体所持しているとしたら、帝国中がハガルの妖精で溢れるだろう。

 俺が手で合図をすると、カーラーンは妖精を一瞬にして隠してしまう。俺にすら見えない。

 そして、大変なことになっている妖精憑きたちの姿を俺は見ることとなった。

「俺のいうことは絶対だ。問題を起こした奴は、妖精全部盗って、丸裸にして、貧民街に放り出してやるからな」

 妖精憑きたちは、壊れた人形のように何度も何度も頷いた。

「すごいな。この子たち、本当に手がつけられない悪童ばかりなのに」

「妖精に頼り過ぎな奴ほど、こうなる。もっと、人としての生き方を身に着けさせろ。そうすれば、もっと、妖精憑きとしても強くなる」

 妖精憑きたちが持つ妖精たちとちょっと会話すれば、わかる。この妖精憑きたちは、生まれつき、格が低いわけではない。妖精に頼りすぎて、格を堕としてしまったのだ。見てみれば、まあまあ格の高い妖精がちらほら見える。だけど、妖精憑きたちは、もう、この格の高い妖精を視認できないのだろう。悲しげに格の高い妖精たちは、主である妖精憑きを見つめる。

「まずは、道具の修理が出来る妖精憑きの選別をしよう。ほら、地下に行くぞ。大丈夫、俺は腕っぷしがないから、優しいぞ」

 だけど、妖精憑きたちは、俺を恐怖の対象として見ている。もう、ぷるぷる震えちゃってるよ。

「ここでやったらどうだ。地下だと、逃げられないから、怖いだろう」

「逆だ。逃げちゃうから、地下なんだよ。俺が優しく笑っている内に、地下に行け。魔法で無理矢理押し込むことだって出来るんだからな」

 ちょっと怖いこと言ってやれば、妖精憑きたちは、脱兎のごとく地下へと走って行った。地下、どこかわかるんだな。そりゃそうだ。妖精が導いてくれるもんな。

「俺はかなり優しいほうなんだけどな」

 帝国の魔法使いなんか、容赦ないぞ。俺が焼き鏝の火傷で苦しんでいるってのに、勉強させたり、魔法使いの修行させたり、痛いやら、苦しいやら、頭使うやら、大変だったなー。

「あんたたちはどうする? ケリンは知的好奇心を満たしたいから、立ち合うっていう話だけど」

「俺はもちろん、レーリエットに結婚の申し込みを」

 まだ諦めてないのか、こいつは!? 最果ての貧民街の支配者ヤイハーンは、レーリエットを諦めていない。あんなに、レーリエットに振られてるのにな。

「レーリエットは奥にいる女たちと一緒にお手伝いだ。料理してるぞ」

「なんだと!? レーリエットの手が荒れるようなことをさせるなんて!?」

「今日の昼は、レーリエットの手料理が出るな。良かったな」

「食堂で待ってる。一番乗りだ」

 手下引きつれて、ヤイハーンは食堂に退場していく。こいつをさっさと最果てに退場させるためにも、妖精憑きを返さないとな。

 中央の貧民街の支配者ケリンは、さっさと地下へと移動していく。

 残るは、山の貧民街の支配者ナラータである。なんか、落ち着かない様子だ。

「ちょっと、頼みたいことがあるんだが」

 俺にだけ聞こえるように言ってくるナラータ。ナラータの手下は、俺たちから距離をとって離れて立っている。

「俺に出来ることであれば」

「お前の種が欲しい」

「………俺、植物みたいに増えないよ」

「そうじゃなくって、アタシの種馬になってほしいんだ!!」

 叫んじゃったよ!! ナラータの手下まで顔真っ赤になってる。しまった、防音の範囲を広くしたから、ナラータの手下には丸聞こえだ。

「何考えてんの、あんた。妖精憑きは、血筋で決まるわけではないんだぞ。俺の子だからといって、妖精憑きになるわけではない」

 妖精憑きと子作りしても、妖精憑きは誕生しない。それは、大昔からわかっていることだ。だって、そういう実験的なことは、どこでも行う。

 ナラータは顔を真っ赤にしながらも、迫ってくる。

「お前の子を産みたいんだ!!」

「どうして? 俺のどこがいいの?」

「頭がいいし、体力がないといいながら、技術をしっかり身に着けて戦える。何より、女のために、命までかけて戦う男は、いい男だ」

「………ああ、そういうことか」

 海の貧民街が内戦の場になった理由は、海の貧民街の支配者コクーン爺さんの孫娘ヘレンお嬢さんの身柄が狙われたからだ。

 ナラータは、俺がヘレンお嬢さんを守るために、帝国各地の貧民街に助力を求めた、と思っている。

「俺は別に、ヘレンお嬢さんのために戦ったわけじゃない。コクーン爺さんを死なせないためだ」

「あんな、生い先短い男のために? まさか、コクーンのことが」

「断じて違う! 俺は男と閨事しないと生きていれられないが、男が好きなわけではない」

 言ってて情けなくなる。ついつい、落ち込んで、座り込み、顔を両手で覆っちゃう。

「あの、王都の支配者は、お前の下僕みたいなことを言ってたが」

「ナナキは訳ありだ。俺は、愛とか好きとか、そういうのはよくわからない。長年、親父の娼夫だったせいで、そういうところが壊れてるんだ。というわけで、そんないい理由で戦ったわけではない」

「心臓止まるようなことまでして戦って、おかしい奴だな」

「ああ、あれは仕方がない。敵側に魔法使いがいたからな」

「魔法使いがいただと!? 聞いてないぞ!!!」

 真っ青になるナラータ。そりゃそうだ。魔法使いと敵対するということは、帝国と敵対する、ということである。

「心配するな。あの魔法使い、侯爵に買収されて、帝国の許可なく参戦していただけだ。あの後、その事が帝国にバレて、侯爵家、妖精の呪いの刑にかけられて、一族郎党、滅亡だ」

「そうなのか」

「魔法使い一人いるだけで、あの数の軍勢では勝てないからな。だから、あの時は俺が出るしかなかった。仕方がない」

 魔法使いと呼ばれるほどの実力がある妖精憑きは、一騎当千である。俺が行った時は、守りに入っていた。あの守りをただの人が突破するのは不可能だ。完全な守りで、魔法攻撃されようものなら、一方的な蹂躙だ。魔法使い一人のために、完全敗北だったろう。

「それで、こんな俺だけど、まだ、種馬候補か?」

 男らしいところが実はこれっぽっちもない俺である。全てさらけ出してしまえば、無価値だな。

「候補じゃない。金を払うから、ぜひ、種馬になってくれ」

「あんた、かっこいいな。いいだろう、今夜しよう。いい部屋を借りよう。あ、でも、役立たずだったらごめん。俺、女抱いたことがないから、出来ないかもしれない」

「転がっているだけでいい。アタシがやってやる」

「………」

 ちくしょー、むちゃくちゃかっこいいじゃん!! 笑顔だけど、内心は泣いていた。ナラータ、女なのに、男前だよ。俺も、こういうこと言えるようにならないといけないな。

 ふと、どっかから痛い視線を感じて見れば、ヘレンお嬢さんと視線がぶつかる。睨むように見てくるヘレンお嬢さん。俺はというと、不機嫌に目を反らす。

「なあ、本当に、あのお嬢さんとはなんでもないんだよな?」

 俺とヘレンお嬢さんの離れたやり取りを見て、ナラータは心配してきた。

「気にするな。内戦前に腹が立つことをされて、俺は女々しく、まだ怒っているだけだ」

 言った後で、俺は落ち込む。そうだよな、女々しいな、俺。ちっくしょー。

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